婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~
会場から抜け出して、港近くの公園まで行った。
桃瀬い声をかけられ、手を繋いだままだと気が付く。
「ああ、すまない」
急いで手を離したが、なぜか名残惜しさを感じてしまった。そんなことを想う自分に少しばかり戸惑う。
桃瀬は親に婚約者がいると言ってしまったこと、出来の良い兄と比べ続けていたこと、見返したくて、でも上手くいかない事……。
そんな話をしてくれた。
俯いた桃瀬を見て、泣くのかと内心ギョッとして思わず「泣くなよ」と言ってしまった。
泣いてはいなかったが、「自分の情けなさに辟易しているだけです」と言い返してきた桃瀬が小さく見えた。線の細い体。小さくて折れてしまいそうだ。
それにしても、桃瀬の実家のある温泉地って……。
名前を聞いた時、頭の片隅で何かが引っかかった。
「温泉か。桃瀬の実家がある温泉地の名前は聞いたことがある。……いいな、たまにはゆっくりしたい」
半分本音だ。温泉なんてずっと行っていない。
「有名地から少し離れているので廃れ気味ですけどね。いい町ですよ。一度遊びに来てください」
「じゃぁ、行こうか」
口にしてから、思ったよりも自然に言葉が出ていたことに気が付いた。
「え?」
「俺が一緒に帰省してやるよ、婚約者として」
一日限りだ。別に構わない。
そう思って言った言葉に桃瀬は盛大に驚いた。そして全力で断ってくる。その慌てようがおかしくて少し笑えた。
本当に小動物みたいだな。見ていて飽きない。
桃瀬への言葉も本音、温泉地へ行きたいのも本音。行くメリットはある。
結局俺は押し切った。
「よろしくな」
連絡先を交換した後、彼女は不覚にもという顔で少し赤くなっていた。そんな顔されるとこちらも反応に困る。
「車だから送る」
「え、いいです! 大丈夫です! 電車で帰ります!」
「しかし、もう遅い」
「本当に大丈夫ですので!」
はっきりとしたノーにこれ以上は仕方がないと俺が折れた。
「わかった。でも駅までは送らせてくれ。それは譲れない」
「……はい」
そこは頷いてくれたので、俺たちはそのまま歩いて駅まで向かった。
「じゃあ、また」
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
丁寧に頭を下げて改札へ消えていく桃瀬を何となく見送る。
その帰り道、俺は車の中で一人、スマホに登録した彼女のアイコンを眺めた。
小さくて可愛いウサギのガラスの置物のアイコン。彼女らしい。
「……参ったな」
俺にしては珍しいことをしたという自覚はある。
もしこれが、桃瀬ではなかったら。俺はあんな申し出をしただろうか……?
一つの疑問が胸の中を渦巻く。自分でも整理がつかないまま夜の道を走らせた。
桃瀬い声をかけられ、手を繋いだままだと気が付く。
「ああ、すまない」
急いで手を離したが、なぜか名残惜しさを感じてしまった。そんなことを想う自分に少しばかり戸惑う。
桃瀬は親に婚約者がいると言ってしまったこと、出来の良い兄と比べ続けていたこと、見返したくて、でも上手くいかない事……。
そんな話をしてくれた。
俯いた桃瀬を見て、泣くのかと内心ギョッとして思わず「泣くなよ」と言ってしまった。
泣いてはいなかったが、「自分の情けなさに辟易しているだけです」と言い返してきた桃瀬が小さく見えた。線の細い体。小さくて折れてしまいそうだ。
それにしても、桃瀬の実家のある温泉地って……。
名前を聞いた時、頭の片隅で何かが引っかかった。
「温泉か。桃瀬の実家がある温泉地の名前は聞いたことがある。……いいな、たまにはゆっくりしたい」
半分本音だ。温泉なんてずっと行っていない。
「有名地から少し離れているので廃れ気味ですけどね。いい町ですよ。一度遊びに来てください」
「じゃぁ、行こうか」
口にしてから、思ったよりも自然に言葉が出ていたことに気が付いた。
「え?」
「俺が一緒に帰省してやるよ、婚約者として」
一日限りだ。別に構わない。
そう思って言った言葉に桃瀬は盛大に驚いた。そして全力で断ってくる。その慌てようがおかしくて少し笑えた。
本当に小動物みたいだな。見ていて飽きない。
桃瀬への言葉も本音、温泉地へ行きたいのも本音。行くメリットはある。
結局俺は押し切った。
「よろしくな」
連絡先を交換した後、彼女は不覚にもという顔で少し赤くなっていた。そんな顔されるとこちらも反応に困る。
「車だから送る」
「え、いいです! 大丈夫です! 電車で帰ります!」
「しかし、もう遅い」
「本当に大丈夫ですので!」
はっきりとしたノーにこれ以上は仕方がないと俺が折れた。
「わかった。でも駅までは送らせてくれ。それは譲れない」
「……はい」
そこは頷いてくれたので、俺たちはそのまま歩いて駅まで向かった。
「じゃあ、また」
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
丁寧に頭を下げて改札へ消えていく桃瀬を何となく見送る。
その帰り道、俺は車の中で一人、スマホに登録した彼女のアイコンを眺めた。
小さくて可愛いウサギのガラスの置物のアイコン。彼女らしい。
「……参ったな」
俺にしては珍しいことをしたという自覚はある。
もしこれが、桃瀬ではなかったら。俺はあんな申し出をしただろうか……?
一つの疑問が胸の中を渦巻く。自分でも整理がつかないまま夜の道を走らせた。