婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~

とは言っても、突然のことで心の準備が追い付かない。

しかし、多忙な藤宮専務が時間を作ってくれたんだから嫌といえるはずがない。

というか、そもそも偽装婚約者の話、断れなかったし……。結局、押し切られる形になっちゃったんだけど、本当に良かったのかなぁ……。

でも、藤宮専務とのデートにそわそわしている自分がいる。
家に帰ると私は慌ててクローゼットの服を引っ張り出した。

「何を着ればいいの!?」

デートなんて何年ぶり? 

仕事は私服だが、オフィスカジュアルといった服を着ていたため、完全な私服で藤宮専務に会うのは初めてになる。

休日のデートだとどんな服がいいんだろう……。藤宮専務はどんな服を着るの? カジュアルすぎるのもちょっとだよね……。
ああ、わからない! こういう時は……!

困った私はSOSを出すことにした。スマホを取り出し、親友の穂乃果にテレビ電話をかけた。

同じ会社の同期で、穂乃果はウエディングプランナーとして働いている。入社式の時に偶然隣の席になって意気投合。そこからずっと仲がいい。

『もしもし、茉白。どうしたの?』

モニター越しの穂乃果は部屋着でリラックスしていた。手には缶ビールが握られている。綺麗に切りそろえられたボブヘアが揺れていた。

「穂乃果、助けて! デート服って何を着ればいいの!?」
『えええ! デート!?』

目を丸くして驚愕した穂乃果は、軽くビールをこぼしたことも気にしていない様子だ。

『いつ!? 誰と、どこで!? なんで急にそんなことになったのよ! 確か婚活パーティー行ったよね、そこで知り合ったの?』

興奮気味の穂乃果をどうどうと落ち着かせる。

「うん、まぁ、ちょっといろいろあって……。明日デートすることになってさ。でもデートなんて何年ぶりって感じだから、どんな服を着たらいいのかわからなくて。穂乃果ならそういうの詳しいでしょ?」

穂乃果はお洒落だし、プランナーとしても色んなカップルを見ている。デート服など見慣れているだろう。

『明日!? 急だね。……あれこれ聞きたいことは山積みなんだけど、まずは先に服を決めちゃいましょう』
「ありがとう、頼りになる!」

モニター越しにクローゼットの中を見せ、穂乃果のアドバイスに従いながら洋服を選んでいく。
9月も終わりだが日中はまだ暑い日もある。薄手の落ち着いた花柄のワンピースにカーディガンという王道コーデに決まった。

『相手の人がどんな服装でも、これだったら合わせられるから大丈夫。お洒落なレストランも行けるよ』
「ありがとう! 本当、助かった」
『で? 相手はどんな人なの? 婚活してたよね。そこで知り合った人?』

聞かれてウッと言葉に詰まる。
穂乃果は同じ会社なので、当然藤宮社長のことは当然知っている。現場のプランナーなので私ほど面識はないにしても、相手が藤宮社長だと知ったら驚くだろう。

しかも、一日限定の婚約者のためのデートだなんて。

――言えない。

「ああ、うん。そんな感じ。4つ上の会社員なんだ」

嘘は言っていない。

『へー! 良かったじゃない! 上手くいくといいね』
「あー……、うん。そうだね」

苦笑いしつつ、ハハハと笑って誤魔化す。また連絡するねと言ってそそくさと電話を切った。

これ、会社の人にばれたらややこしいな。まぁ、帰省日までだしなんとかなるか。

それよりも、まずは明日のデート。
そこで恋人らしいエピソードを作ったり、雰囲気作りをしなきゃね。

恋人を演じるだけ……、なのになんでこんなにドキドキしちゃうんだろう。

クローゼットに戻した服と、選んだ服を交互に眺めながら、私はそっとため息をついた。



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