危険すぎる恋に、落ちてしまいました。2【完結】

5.銀狼の罠

朝の教室は、ガラス窓を透ける春の陽に満たされていた。
どこか緩んだ空気。笑い声。椅子の擦れる音。

けれど、今日はなぜだかそのすべてが薄く感じた。

美羽が教室の扉をくぐると――

「美羽!!」

勢いよく莉子が飛び込んできた。

「おはよ!傷、大丈夫なの?!……」

美羽は笑って見せた。

「うん、大丈夫。椿くんがそばにいてくれたから。莉子も心配かけてごめんね!」

その言葉に、莉子の表情がほっと緩んだ。

「そっか……よかったぁ……。
 でもね、美羽……銀狼チーム、本格的に美羽を狙ってるって噂になってるみたいだから、
 本当に気をつけてね……?!」

すると美羽が、ふっと目を伏せて言った。

「……それがね、さっき会ったの。校門のところで。」

「……えええええ!?
 ど、どどど、どーして神楽怜が黒薔薇学園に!?!?」

莉子は心底震えあがったように目を見開く。

美羽は呼吸を整え、怜とのやり取りを話した。

怜の歪んだ笑み。
ぐちゃぐちゃな執着の言葉。
明日の“決闘”の宣告。

莉子は顔を青ざめさせ、息を呑んだ。

「……まずいよそれ……。
 銀狼のトップが学校に直接出向いてくるなんて、絶対何か裏があるよ。
 碧くんも言ってたけど……銀狼って、喧嘩の強い人材を集めてるし、
 卑怯な手も平気で使うんだから……!」

「美羽、まさか……まさか行くわけじゃ……」

美羽は莉子の言葉を遮り、目をまっすぐ向けた。

「行くよ。
 皆を守りたいから。」

沈黙。
空気が凍りついた。

「だっ、だめだよ!!危ないよ!!」
莉子はほとんど泣きそうになっていた。

けれど美羽は微笑んだ。

「大丈夫。
 私はもう……逃げるのやめたの。
 皆とずっと一緒にいたいから。
 そして――残念系イケメンの神楽怜を一発ぶん殴らないと気が済まない!」

「ざ、残念系……?」

莉子がぽかんとした顔で呟く。

美羽は遠い目で首元を押さえた。

(いや……残念通り越して、ただの狂気系なんだけど……)

そんな会話をしているうちに、チャイムが鳴った。




*黒薔薇生徒会室ーー。

昼休み。
生徒会室に集まったメンバーの空気は、いつも以上に重かった。

悠真が美羽の姿を見た瞬間、勢いよく駆け寄ってきた。

「美羽ちゃん!!ほんとに大丈夫!?
 その首の傷……っ!」

美羽は苦笑いしながら押さえた。

「ゆ、悠真くん……あまり見ないで……」

しかし悠真は涙目で叫んだ。

「僕がそばにいなかったばかりに……!!ごめんね!!」

そして――抱きついた。

「う、わ!?ゆ、悠真くんっ!?」

次の瞬間。

ベリッ!!

悠真は椿に物理的にはがされた。

「心配していいとは言ったが、
 ベタベタしていいとは言ってねぇ。」

眉間に皺を寄せ、椿が噛みつきそうな顔で睨む。

悠真はむくれて言った。

「ちぇー!ケチ!!」

美羽(いや、ケチとかじゃないから……)

次に碧が勢いよく前に出た。

「美羽さん!!
 怪我が治ったら、僕と勝負しましょう!!
 最近また鍛え直したんです!!」

美羽は生ぬるい目で笑った。

「あ、碧くん……心配してくれてありがとう……で、いいんだよね?」

「もちろんです!!」

(いや絶対違うよね……)

遼もやってきて、美羽の首元を見てニコッと微笑んだ。

「美羽ちゃん。傷、大丈夫かい?
 まぁ……ちょっと傷のある女の子って色っぽいけどね♪」

美羽は盛大に固まった。

「え、うん……??」

そこへ、玲央がメガネを光らせた。

「雨宮美羽。椿。
 神楽怜との接触時の情報提供がまだだ。
 狙われているのは雨宮美羽、君で確定だな?
 明日の戦闘に備え、作戦会議を行うぞ。」

美羽は遠い目をした。

(……なんか、色々悩んでた私ってなんだったの?)

椿は椿で、未だ怒りと独占欲で不機嫌MAXだし、
悠真は泣きそうだし、
碧はやる気満々だし、
遼は相変わらずマイペースで、
玲央は冷静に分析してる。

美羽は椿の隣で、そっと息を吐いた。

(……何かが吹っ切れた気がする……)

この空気も、この仲間達も――
全部守りたい。

だからこそ。

“明日の決闘”は、避けられない。

窓から差し込む午後の光が、
会議机に淡く反射していた。

美羽はそっと拳を握った。

(……絶対負けない。椿くんと一緒に、乗り越えるんだ。)



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