部長と私の秘め事
「当たり前です。私はあなたをずっと想い続けてきました。初恋の〝忍〟と再会できたら、好きになってもらいたい。そのために素敵な女性になれたら……って思っていたんですから」

 私はそう言ったあと、彼の手を握って自分の胸に導いた。

「胸が大きいのがコンプレックスで、本当は背中を丸めて過ごしたかった。でも〝忍〟なら『自分の体を誇りに思え』って言ってくれると思っていました。だからスタイルが良く見えるように努力したし、美容についても学びました」

 そこまで言い、私は吐息を震わせて笑った。

「全部、〝忍〟と再会できる日を信じて、その時にあなたに『綺麗になった』って言ってもらいたかったからです。あなたがいたから、周りにどう思われようが気にせず突き進めたんです」

 尊さんは切なげに笑って、涙声で言った私の髪を撫でた。

「『美人』と言われる事は必ずしも嬉しくないし、胸が大きい事で嫌な目にも遭いました。目立つのは嫌だったし、何もしていないのに嫌われたのは悲しかったです。『男を誘ってる』とか『媚びてるんじゃない?』とか『下品な体』とか……」

「お前の体は最高に綺麗だよ」

 彼ならそう言ってくれると思っていた私は、涙を拭って微笑む。

「私はいつか現れると信じていた王子様――〝忍〟に褒めてもらうために、自分を磨きました。でも彼にいつ会えるか分からないし、再会できる保証もありません。それに彼氏を作らなかったら『遅れていてダサい』のかと思いました」

 大人になった今なら分かる。

 周りに合わせて、好きでもない人と付き合う必要なんてない。

 そんなの、自分の心にも相手にも失礼だ。

「昭人には『気が合いそうだから付き合いたい』と告白されました。彼と過ごすようになって心が落ち着いたのは事実です。……でもそうしているうちに、『忍にはもう会えないのかもしれない』と弱気になっていきました」

 私は尊さんを見つめ、彼の頬に手を添える。

「『〝忍〟は素敵な人だし、彼女がいるかもしれない。私の知らないところで綺麗な女性に笑いかけてキスをし、抱いているかもしれない』……そう思うとムカムカして、『私だって……』と思いました」

 尊さんは「分かるよ」というように頷き、私の髪を撫でる。

「だから私は昭人を受け入れましたし、家庭の悩みをごまかすために、どんどん依存していきました。……結局、私は心から昭人を好きになれないまま、自分の孤独を癒す道具として執着してしまったんです」

 そこまで言い、私は遠くを見て溜め息をつく。

「でも、昭人は私を大切にしてくれたと思います。だから私も『もう少しこの人と一緒にいたら好きになれるかもしれない』と思って付き合い続けました」

 そう言ってから、私は過去の自分に反省して苦く笑う。

「人は時間を掛けて接し、お金も気持ちも注いだものに愛着を持ちます。心から大事ではなくても、大事なふりをする。……そうしているうちに、私は昭人が大切なんだと思い込み、みっともないほど執着してしまいました」

 尊さんは話し終えた私を、愛しげな目で見てくる。

「……今は、俺のもん?」

「そうですよ」

 クシャッと笑うと、彼は幸せそうに破顔した。

 そして、「あー……」と気の抜けた声を出して、私を抱き締めてくる。

「…………好きだ」

 しばらくしてから彼はそう言い、私はニヤニヤして返事をした。

「私も好きですよ」

「俺のほうが好きだよ。粘着性のある感情だし」

「んっふふふふ。納豆じゃないんですから。私だってずっと思ってたんですから、ネッチャリですよ」

「納豆カップルかよ」

「体に良さそうじゃないですか」

 私たちはいつものように軽口を叩き合い、笑う。

「……あのペンダント、最初から私にくれるつもりだったんですね」

「そうだよ。……うまく説明できなくて、負担にさせて悪い。やり方が下手くそだった」

 彼はそう言ったけれど、忍がずっと私に誕生日プレゼントを渡したいと思ってくれていたのは、とても嬉しかった。

「……じゃあ、特別な時につけさせてもらいますね」

「会社には無理だろうけど、普段使いしてくれよ。クリスマスにやったのとかも」

 私は自宅にあるハイジュエリーブランドのペンダントを思い出し、苦笑いする。

「あのペンダントに似合う女性にならないと」

「もう十分綺麗だよ」

 尊さんに褒められて頭を撫でられると、ずっと忍に褒めてもらいたかった気持ちが癒される気持ちになった。

 落ち着いたあと、私は尊さんから聞いた長い話を整理しようと思った。

「……尊さんの話、おさらいしてもいいですか?」

「ああ」

 彼の返事を聞き、私は思いだしながら尋ねる。

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