部長と私の秘め事
「……まじめに好きだったのは一人。……あとは付き合ったとも言えないかな。ワンナイトラブじゃないけど、何となく一緒に行動して、気がついたらいなくなっていた」
「モテてたんですね」
私はちょっと棘のある言い方をし、内心で「あれ?」と違和感を抱く。
(尊さんが過去に誰と付き合っていても、どうでもいいはずなのに)
「モテないとは言わない。……ただ、本当に愛してくれる人には恵まれなかったかな。……俺はずっと…………」
尊さんはそこまで言って私を見ると、溜め息をつく。
それから彼は黙ってパスタを食べ、残るソースも綺麗にパンで拭って口に入れた。
(……訳ありっぽい。……まぁ、三十二歳なら色々あってもおかしくないよね)
何となく気まずさを感じた私は、同じように無言で食事を続ける。
それからよせばいいのに、さらに質問した。
「その、まじめに好きだった人とは別れたんですか? さっきプレゼンしてたみたいに、いい彼氏になってくれるなら、長続きしてそうですけど」
すると彼は溜め息をつき、少し嫌そうに言った。
「〝色々〟あったんだよ」
「……そうですか」
彼の態度から、私は「時間が経ってもあまり言いたくない事があるんだな」と察した。
「多少言えない事があるほうが、男として深みが増していいんじゃないですか? 秘伝のタレみたいなもんですよ」
それを聞いた瞬間、尊さんはプハッと噴き出した。
それから私を見て柔らかく笑う。
「やっぱり、お前の事好きだわ」
「は?」
条件つきで付き合おうとは言われていたけど、ハッキリと「好き」と言われたのは初めてだ。
「『やっぱり』って……、は、初耳です!」
うろたえた私は水をゴクゴク飲み、こちらを見る尊さんはとても優しい顔をしていた。
……調子狂う……。
「その、忖度しないところいいよな。信頼できる」
「そう受け取ってもらえるならありがたいですが、言ってしまえば可愛げのない性格ですよね」
私はあまり、自分の性格が好きじゃない。
もう少し空気を読めばいいのに、ズバッと言っちゃうから誤解を招く事もある。
「人に寄りけりじゃないか? 俺は何を考えてるか分からない奴より、朱里みたいに思った事を素直に言う人のほうが好きだし、『裏がない』と信頼できる」
「……あ、あるかもしれませんよ? 〝裏〟」
そういうと、尊さんはジーッと私を見て、ポツンと言う。
「……ないだろ」
「いや、何かソレ失礼じゃないです?」
思わず突っ込んだ私の反応を見て、彼は楽しそうに笑った。
そのあと、お上品なサイズの牛肉、ドルチェが出てコーヒーを飲んだ。
ランチのあとは美術館をまわり、展望台にも行った。
東京に住んでいて、展望台なんて……と思うけれど、地元民はなかなか観光地にいかないのがセオリーなので、逆に新鮮だった。
デートの間、尊さんはずっと優しく接してくれた。
昭人とはいつの間にか手を繋がなくなっていたけど、尊さんは「手、繋いでもいいか?」と確認してから大きな手でキュッと握ってきた。
それもまた新鮮で、ワンナイトラブで始まった関係なのにドキドキしてしまう。
歩いていても歩幅を合わせてくれるし、エスカレーターやエレベーターでは、レディファースト、加えてヒールのある靴を履いてきたので、ちょくちょく「足疲れてないか?」と気に掛けてくれる。
特にドラマチックに口説かれた訳じゃないのに、さり気ないところで気遣われ、勘違いしてしまいそうになる。
――尊さんと付き合ったら、大切にしてもらえるのかな?
そう考えてしまう自分に、もう一人の自分が「チョロすぎでしょ」と突っ込む。
新たに発見した尊さんの魅力は他にもあって、圧倒的に声がいい。
彼の声を聞いていると耳から幸せになって気持ちがフワフワしてくる。
昭人は少し高めの声だったけど、尊さんの低い声を聞いているとゾクゾクして〝女〟になってしまいそうな自分がいた。
それに尊さんはいい匂いがする。
昭人も高級ブランドの香水をつけていたけれど、尊さんがつけている香水もとてもいい匂いで、彼の雰囲気に合っている。
結局、何だかんだで私は彼にとても魅力を感じていた。
(悔しいけど、魅力的なのは認めるしかないな)
あちこちデートして夕方になり、私たちはレストランに向かうために銀座を歩いていた。
尊さんは私の手を握ってゆったり歩きながら、イルミネーションやクリスマスのディスプレイを見て目を細める。
「こうやって彼女と手を繋いで歩けるなんて思わなかったな」
「まだ付き合うって言ってないでしょう」
突っ込みを入れた時、私は《《あるもの》》を見て足を止めた。
「モテてたんですね」
私はちょっと棘のある言い方をし、内心で「あれ?」と違和感を抱く。
(尊さんが過去に誰と付き合っていても、どうでもいいはずなのに)
「モテないとは言わない。……ただ、本当に愛してくれる人には恵まれなかったかな。……俺はずっと…………」
尊さんはそこまで言って私を見ると、溜め息をつく。
それから彼は黙ってパスタを食べ、残るソースも綺麗にパンで拭って口に入れた。
(……訳ありっぽい。……まぁ、三十二歳なら色々あってもおかしくないよね)
何となく気まずさを感じた私は、同じように無言で食事を続ける。
それからよせばいいのに、さらに質問した。
「その、まじめに好きだった人とは別れたんですか? さっきプレゼンしてたみたいに、いい彼氏になってくれるなら、長続きしてそうですけど」
すると彼は溜め息をつき、少し嫌そうに言った。
「〝色々〟あったんだよ」
「……そうですか」
彼の態度から、私は「時間が経ってもあまり言いたくない事があるんだな」と察した。
「多少言えない事があるほうが、男として深みが増していいんじゃないですか? 秘伝のタレみたいなもんですよ」
それを聞いた瞬間、尊さんはプハッと噴き出した。
それから私を見て柔らかく笑う。
「やっぱり、お前の事好きだわ」
「は?」
条件つきで付き合おうとは言われていたけど、ハッキリと「好き」と言われたのは初めてだ。
「『やっぱり』って……、は、初耳です!」
うろたえた私は水をゴクゴク飲み、こちらを見る尊さんはとても優しい顔をしていた。
……調子狂う……。
「その、忖度しないところいいよな。信頼できる」
「そう受け取ってもらえるならありがたいですが、言ってしまえば可愛げのない性格ですよね」
私はあまり、自分の性格が好きじゃない。
もう少し空気を読めばいいのに、ズバッと言っちゃうから誤解を招く事もある。
「人に寄りけりじゃないか? 俺は何を考えてるか分からない奴より、朱里みたいに思った事を素直に言う人のほうが好きだし、『裏がない』と信頼できる」
「……あ、あるかもしれませんよ? 〝裏〟」
そういうと、尊さんはジーッと私を見て、ポツンと言う。
「……ないだろ」
「いや、何かソレ失礼じゃないです?」
思わず突っ込んだ私の反応を見て、彼は楽しそうに笑った。
そのあと、お上品なサイズの牛肉、ドルチェが出てコーヒーを飲んだ。
ランチのあとは美術館をまわり、展望台にも行った。
東京に住んでいて、展望台なんて……と思うけれど、地元民はなかなか観光地にいかないのがセオリーなので、逆に新鮮だった。
デートの間、尊さんはずっと優しく接してくれた。
昭人とはいつの間にか手を繋がなくなっていたけど、尊さんは「手、繋いでもいいか?」と確認してから大きな手でキュッと握ってきた。
それもまた新鮮で、ワンナイトラブで始まった関係なのにドキドキしてしまう。
歩いていても歩幅を合わせてくれるし、エスカレーターやエレベーターでは、レディファースト、加えてヒールのある靴を履いてきたので、ちょくちょく「足疲れてないか?」と気に掛けてくれる。
特にドラマチックに口説かれた訳じゃないのに、さり気ないところで気遣われ、勘違いしてしまいそうになる。
――尊さんと付き合ったら、大切にしてもらえるのかな?
そう考えてしまう自分に、もう一人の自分が「チョロすぎでしょ」と突っ込む。
新たに発見した尊さんの魅力は他にもあって、圧倒的に声がいい。
彼の声を聞いていると耳から幸せになって気持ちがフワフワしてくる。
昭人は少し高めの声だったけど、尊さんの低い声を聞いているとゾクゾクして〝女〟になってしまいそうな自分がいた。
それに尊さんはいい匂いがする。
昭人も高級ブランドの香水をつけていたけれど、尊さんがつけている香水もとてもいい匂いで、彼の雰囲気に合っている。
結局、何だかんだで私は彼にとても魅力を感じていた。
(悔しいけど、魅力的なのは認めるしかないな)
あちこちデートして夕方になり、私たちはレストランに向かうために銀座を歩いていた。
尊さんは私の手を握ってゆったり歩きながら、イルミネーションやクリスマスのディスプレイを見て目を細める。
「こうやって彼女と手を繋いで歩けるなんて思わなかったな」
「まだ付き合うって言ってないでしょう」
突っ込みを入れた時、私は《《あるもの》》を見て足を止めた。