部長と私の秘め事
「ん?」

 思わず口に出してから、私はスナック菓子をサクサク囓ってから「うん」と頷く。

 いいかもしれない。

 ……でも神くんは曲がりなりにも私を好きだと言ってくれた訳で、私から彼に「春日さんってお嬢様がいるんだけど、どう?」なんて言えないな……。

(でも、なんとなく合いそうな気がする。神くんはオラオラじゃないし、物腰柔らかなほう。でもしっかりしてるし自分の意見も持ってるから、彼ならバブちゃんにはならないんじゃないかな。それに御曹司にお嬢様で、いいんじゃない?)

 とてもいいカップルに思えたけれど、問題はどう引き合わせるかだ。

(二人とも自分の矜持を持っているから、下手な事はできないな……。そして何より、私から働きかける事は神くんへの裏切りだ)

 仮に私が尊さんに片思いしているとして、尊さんに振られたのに彼から「いい相手がいるんだけど、どう?」なんて言われたら、悲しさと屈辱でおかしくなってしまう。

(あの時、神くんは軽い感じで告白したけど、どれぐらい私を真剣に想ってくれていたんだろう? 御曹司の彼なら、親御さんが相手を用意してもおかしくないけどな……)

 考えれば考えるほど、神くんともっと話しておけばよかったと後悔してしまう。

 グルグル考えていると、春日さんに押し倒されてしまった。

「えっ!? ちょっ……」

 びっくりしたままソファの上に仰向けになると、春日さんが髪を掻き上げニヤニヤ笑っている。

「悪いのはこのぱいか!」

「ぱいは無実!」

 知らない間に話が転がっていったらしく、私は両手でバッと胸元を守る。

「???」

 訳が分からずエミリさんを見ると、彼女は裂けるチーズを丁寧に裂いてフサフサにしながら首を竦めた。

「難しい顔をして黙ってたけど、考え事? こっちはサカリティなミコティの話で持ちきりだったんだけど」

「朱里さんは自慢のぱいがあるからいいわよねぇ……。柔らかくて愛撫のしがいがあるわ。私はいつだったか、男に『アスリートみたいな体をしてるね』って言われたわ……」

 春日さんは自分の胸に手をやり、溜め息をつく。

「……という事で、巨乳に触ったら御利益があると思って……」

「ないないなー……、ファ!」

 片手を顔の前でブンブンと振っている隙を突かれ、春日さんに両手で胸を揉まれてしまった。

「っあ~~~~……、やぁらかいわぁ……。このひと揉みのために生きてる」

「「おっさんか!!」」

 私とエミリさんの声がハモった。

「でも速水さんだってそう思ってるに決まってるわよ。極上だもの、この乳は。揉みごたえ抜群、健康と安眠も促進してくれそう」

「や、そんな御利益ないっす」

「あ~~~、この乳私のものにしたい。どう? うちの子にならない? 可愛がるわよ? エステでピカピカにしてあげる」

「や、私の乳は私のもんなので、所有権は渡さないっす」

「やーん、朱里さんごとほしい! レンタルさせて!」

「尊さんに聞いてください! もぉ!」

 強引に起き上がった私は、春日さんの両頬を摘まんでムニムニする。

「このこのこの!」

「きゃ~!」

 春日さんは友達にこういう事をされた事がないのか、めちゃくちゃ嬉しそうに声を上げる。

「ぱんちぱんちぱんちぱんち!」

 調子に乗った私は、さらに春日さんの肩を両手でポンポコとパンチラッシュした。

「ヒヒヒヒヒヒ」

「お、喜んだ」

 エミリさんが突っ込み、その様子を動画に撮っている。

「速水尊、送信」

「えっ!?」

 まさかまた尊さんに送られると思っていなかったので、私は声を上げてエミリさんを見た。

「あ、返事きた」

「なっ、なんて言ってますかッ!?」

 私は思わず食い気味にエミリさんに尋ねてしまう。

「『明日のチェックアウトの時、預けていた猫を引き取りにいく』だって。猫!!」

「ニャーーーーオ!!」

 案の定、二人は大喜びし、春日さんは化け猫みたいな声を上げてから「ガハハハハ!」と笑う。……こりゃ駄目だ。
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