部長と私の秘め事
 銀座に着いたあと、予約していた一軒目のジュエリーショップに入る。

 イメージしていた指輪選びは、ショーケースを見て良さそうな物を……という感じだったけれど、個室に通されたかと思うと、高級そうなチョコや飲み物を出され、ビビってしまう。

 高級店の人はツンと澄ましていてとっつきにくそうかな、と勝手なイメージを抱いていたけれど、笑顔で気持ちのいい接客をしてくれた。

 カタログやら現物やら、色んな物を見せてもらって、お高い店だしここで決めないといけないような気がしたけれど、尊さんが言ってくれた。

「迷ってると思うけど、高い買い物だからこそ『何となく』で決めなくていいからな。ピンときたのがなければ他の店で見てみるし、あちこちの店で比べてみて、一番を決めるのがベストだから」

「はい」

 そう言われてホッとした。

「婚約指輪のデザインは、おおまかにどんなのがいい?」

「……そうですね。王道のまっすぐなリングに石がボーンより、リングがちょっとねじれて流れるようなラインになってたり、こう……Vの字っぽくなってる奴とかが気になります」

「よし、そのセンでいこう。ちなみに結婚指輪は? 婚約指輪と同じブランドでなくてもいいから、意見を纏めていこう」

「うーん、女性のほうだけダイヤがついてゴージャスなのが多いけど、私としては尊さんとお揃い感が強いほうがいいかな。尊さんの希望は?」

 逆に尋ねると、彼は顎に手をやって考える。

「聞かれるとちょっと迷っちまうな。『なんでもいい』って言ったら失礼だし。……けどそれほどこだわりがないから、基本的に朱里が気に入ったデザインでいい。……強いていうなら、プラチナがいいかな」

「うんうん、私も結婚指輪はプラチナがいいと思ってました」

 そのあとも色んなデザインを確認し、実際に指に嵌めてみて、とりあえず別の店と比べてみる事にし、お店を出る。

「緊張したらお腹すいちゃった」

「ははっ、ランチ食うか」

 そのあと二丁目のショッピングパーク八階にある、ニュージーランド料理のお店に向かった。どうやらいつものように、尊さんがセレクトして予約してくれたらしい。

 私の胃袋はいつでも挑戦を待っている。

「ホワイトデーじゃないけど、お望み通り肉」

「肉!」

 店内に入ると大きな窓の向こうには銀座の街並みが見え、壁際には棚の上にニュージーランドのアートや国旗が飾られてあった。

 席はモスグリーンを使って自然を意識している感じで、お洒落だけど郷土愛を感じさせる内装になっている。

 席につくまで他の人のテーブルをチラッと見ると、みんな鉄板の上でジュージューしてる骨付きのお肉や、ゴロンとしたお肉を食べていた。

 他のアラカルトメニューも美味しそうで、ワクワクしてしまう。

 窓際の席に案内され、お水を出されたあと、私はワクワクしてメニューを開く。

「アルコールメニューが多いけど、昼間だしソフトドリンクにしておくか」

「はい。ピンクグレープフルーツジュース」

「早ぇな」

 尊さんはドリンクメニューを見て、流れるように決めた私の言葉を聞き、笑い崩れる。

 ニュージーランドワインも沢山あって興味があるけど、今日は昼も夜も大切な日だからまた今度にしておく。

「さて……」

 飲み物をオーダーしたあと、私は心してメニューを開く。

「どうしよう~。どれも美味しそうでときめいちゃう……! 涎がジュビジュバ」

 目を輝かせてメニューを見ている私を見て、尊さんは呆れ半分、感心半分で溜め息をついた。

「……お前、俺といる時だってそんな高い声をあげないよな……。肉、すげぇな」

「肉は最高のスパダリですから」

「食っちまうの?」

「愛する人を食べて血肉にする……」

 両手を合わせて片頬に添え、うっとりと目を閉じると、尊さんが「怖ぇって」と突っ込んで笑った。

 そのあと、彼はメニューを指さして言う。

「この盛り合わせだと、羊も牛も食えて良さそうだな」

「ですね。……あぁ、牡蠣も気になる。ん? フルーツソースの掛かったブラータチーズ! しゅてき……!」

 メニューを見ながら味を想像しているので、本当に涎が零れそうになって、思わず手で口元を押さえる。

 ちなみにブラータチーズとは、ざっくりとモッツァレラチーズに似たタイプの物だ。

「夜に影響しない程度なら、なんでも食えよ」

「いい? 頼んでいい?」

「いいってば。でも野菜も食えよ」

「はーいシーザーサラダ」

 私はまた流れるように即決する。

「デザートは?」

「んーと、これ! 大将、ホーキーポーキー一丁!」

 ホーキーポーキーとは、ニュージーランドのアイスクリームのフレーバーで、バニラアイスにトフィー……、キャラメルやヌガーみたいな物が入ってるやつだ。

「……ホント、食べ物を前にすると、すげぇ元気だな」

 尊さんもお肉の盛り合わせと牡蠣を頼み、チーズとサラダはシェアして食べる事にした。

 パスタも美味しそうだったけど、また今度……。

 オーダーし終わったあと、私はルンルンして両手を拳にしてトントンとテーブルを打つ。

「ガキか」

 尊さんは呆れたように笑い、そんな私の様子を動画に撮っている。

「おっにく♪ おっにく♪ おっにくっは正義♪」

 しばらくルンルンしていたけれど、尊さんが神妙な面持ちになったので、「ん?」と首を傾げる。
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