部長と私の秘め事
「そうだ、涼さんもし良かったら、私の友達と一緒にランド行きませんか?」

「え?」

 彼は一瞬呆けた顔で声を漏らし、腕を組んで考える。

「ランドって言っても……」

「数合わせです。私は尊さんと行きたいけど、親友とも行きたい。でも三人ってデンジャラスな人数なので、できればもう一人」

 キッパリと言うと、彼は警戒心を緩めたみたいだ。

「別にいいよ。日帰り?」

 そう言われて、言葉に詰まってしまった。

 確かに泊まりになったら、恵も涼さんも初対面の異性と宿泊する事になる。それはちょっと……。

「あ、泊まりの予定だった?」

「……すみません。『四人だったらきっと楽しい』しか考えていなくて、泊まりになる時の問題を考えていませんでした。初対面の男女が同じ部屋はちょっとね……」

「あれ? 中村さんと女子会じゃないのか?」

 尊さんに突っ込まれ、私は「あ!」と声を上げてから真っ赤になった。

「……ごめんなさい……。今のなし。……素で尊さんと泊まるつもりでいた……。そうだった。恵とお泊まりしたいからランドって言ったのに……」

 あまりにも大ボケをかましてしまい、私は体が火照るほど赤面して両手で顔を扇ぐ。

 それを見て、尊さんはツボに入って笑っている。

「いや、俺はいいけど? 朱里が俺のこと大好きなんだって分かって嬉しいし」

「だから」

「涼と中村さんが一緒に泊まるのが問題なら、もう一部屋とってもいいし」

「だからぁ……!」

 私はべしべしと尊さんの肩を叩き、彼はいっそうおかしそうに笑う。

「俺は知らないお嬢さんと同じ部屋でも問題ないけどな」

 その時、涼さんが斜め上の発言をし、私は「へっ?」とうわずった声を漏らす。

「冗談だよね?」と思って彼を見るけれど、涼さんはごくごく真顔で言った。

「女性と同室でも着替えとかプライバシーは守った上で、健全に寝る自信あるから、〝俺は〟問題ないって意味。むしろ『嫌だ』っていうのは女性側だと思う」

「ああ……。そういえば、モテすぎて人への興味を失ったんでしたっけ」

 尊さんから聞いた話を要約すると、涼さんは私の言った言葉を噛み締めるように頷いた。

「なんか『人への興味を失った』って響き、マッドサイエンティストっぽくていいな」

 尊さんは私の言葉にツボったのかクスクス笑っている。

 涼さんはそんな親友を見てニヤッと笑ってから、お酒を一口飲んで言う。

「人間ってどんな高級料理でも、毎日腹一杯食べ続けるとご馳走って思わなくなるだろ。さらに四六時中、自分の周りに食べ物が置かれてる状況になると、食べ物を見るのも嫌になる。食べるのが好きなら苦にならないかもしれないけど、俺はそれほど欲が強くないからね。……それの女性バージョンが今の状況」

「へええ……。……すみません。私、お腹いっぱいになっても、寝て起きたらスイッチ切り替わって新しい食を楽しめる……、なんて思っちゃいました」

 そう言ったら、尊さんが「ぶふっ」と噴き出した。

「朱里は本当に食うのが好きだからな。……まぁ、中には食べる事に興味がないって人もいるし、生きるだけのエネルギーを摂取できればいいって人もいるしな。涼は色んな面で恵まれて生まれたから、ガツガツした欲がないんだと思う」

 尊さんにそう言われても、涼さんは特に反論しなかった。

「確かに『どうしても何かがしたい』って強く願った事はないかな。いやみって言われるだろうけど、金には困ってないし、衣食住も満たされてる。旅行も気になった所は大体行ったし、美食は飽きるほど食ったし」

「……それでゲテモノに走ったんですね」

 ボソッと突っ込むと、涼さんは「よく知ってるね」と笑った。

「家のために誰かと結婚して子供を作らないとな、とは思ってるけど、寄ってくる女性はどれも同じに思えて、女性の魅力が分からなくなった。その辺のメイクした〝美人〟より、俺のほうがナチュラルに美形だし、見た目をどんだけ盛ってもあまり意味がないんだよ」

「あはは! 確かに!」

 涼さんは本当に美形で、芸能人の中でも〝国宝的イケメン〟と呼ばれる人に匹敵する。

 加えて身長が高いし財力もあるわで、彼が望んで手には入らないものはほぼないんだろう。

 美形の人を恋人、配偶者にほしい心理って、美しい顔を見ていたい気持ちもあるだろうし、自分のステータスを上げるためでもある気がする。

 だから自分一人ですべてが完結している涼さんには、相手の美醜はあまり意味がないんだろう。

「胃袋を掴むつもりで『手料理作ってあげる』って言われても、俺も料理はできる。尊と一緒にプロから料理を学んだし、縫い物もできる。部屋の掃除なんかは人を雇えば素人がやる以上に綺麗にしてくれるし、家事ができるってアドバンテージは俺にとって意味がない。結局……、言葉は凄く悪いけど、生物学的に女性である事ぐらいしか求めてないんだ」

「はぁ……、人が持つ魅力をそぎ落としていくと、そうなるんですね」

 本人はいやみに思われる事を気にしているみたいだけど、ここまでくると逆に感心するしかなくなる。
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