部長と私の秘め事
 多分人って、自分とあまり変わらない人には嫉妬するけど、ずば抜けて秀でている人にはあまり嫉妬しないんじゃないだろうか。

 ……いや、でもSNSで有名人に噛み付いている変な人はいるから、全部が全部とは言えないけど。ネットの場合、距離感がバグっちゃうんだろうな。

 多分実際にこうして対面したり、豪邸を拝見する機会があると、得る感覚は違ってくる気がする。

 涼さんはさらに続けた。

「だから無欲に近いって言われると、そうかも。最近は性欲のほうも、運動して健康的な飯を食ってたらそれほど感じなくなって、『ちょっとヤバいな』と思いつつも『健康的でいいのかな』と諦めてきたり……」

「なんの話してるんだよ」

 尊さんは呆れて溜め息をついたけれど、私は納得して頷いた。

「だから女性と同室になっても、アクシデントなしに宿泊できる自信があるんですね。確かにその状況になったら、涼さんを意識するのは女性側かも」

 言ってから私は恵を思いだし、「彼女の好きな人は私だしな……」となる。

 そもそも恵は中学生の時に痴漢に遭ってから、男性不信気味になっている。

 私を好きになってくれたとはいえ彼女は今も人気者で、男友達も多いし、なんなら告白される事もあるそうだ。

 でも「興味ない」の一言で断っているらしく、「そんな彼女が涼さんと会ったら、興味ない同士でどんな作用が働くんだろう?」と興味を持ってしまう。

「だから大体の人には、フラットに接する事ができる自信があるよ。あからさまに好意を見せてくる女性には、ちょっと塩対応になると思うけど」

 嫉妬する人が『あいつ自慢してる』と僻む時、相手は普段通りの行動をしているだけなんだろう。

 そもそも、涼さんたちみたいに満たされている人は、何かを自慢してマウントをとる必要がないんだよな……。

(やっぱり受け取り手の問題だ。私もちょっと体調悪かったり、ムシャクシャしてると、どうでもいい事に腹立ててしまうから気をつけよう)

 そう思いつつ、私は恵の事を紹介する。

「一緒に行きたいと思ってる友達は中学生からの親友で、会社の同僚の中村恵っていう子なんです。彼女も基本的に男性に興味はないので、涼さんが危惧する事態にはならないと思います」

「そっか、じゃあランドいつでも楽しみにしてるよ。中村さんも俺も、お互いなんとも思っていないとしても、同じ部屋に泊まるのは気まずいから、女子同士で泊まったほうがいいと思うけど」

「は、はい。……ソウシマス……」

 私は先ほどのナチュラルな勘違いを指摘され、赤面して頷く。

 照れ隠しにカクテルを飲んだあと、私はおつまみの唐揚げに手を伸ばしつつ話題を変える。

「大学生時代の尊さんの情報、他にも聞きたいです」

 そう言うと、尊さんは大きな溜め息をつき、涼さんは楽しそうに笑った。

「なんかあったかな……。基本的にあんまり友達と交流せず、一匹狼で講義を受けてたからな。話しかけられたら話すって感じだったけど、成績が良かったのもあって切磋琢磨したいタイプからは好かれてたかも」

「へえ」

 彼が好かれていたと知り、私は嬉しくなって笑顔になる。

「涼さん以外にも友達いるんですか? ……あ、いや。ぼっちみたいに言ってすみません」

 友達がいないのは私もそうなので、こういう話題については気を遣ってしまう。

 すると尊さんは特に気を悪くしたでもなく、答えてくれる。

「んー、今も連絡してる人はいる。なんでか知らんが涼づたいに知り合った人とも続いていて、弁護士とかメガバンクのエリートコース、医者、政治家秘書とかもいる」

「おお……」

 野心家な女性なら、合コンしたいと目をハートにしそうな系統だ。

「涼は顔が広いから、色んな業種に友達がいる。飲みに誘われて、暇だから行く事もあるけど、未知の世界の話を知れて面白いよ」

「へぇ……、特殊な業種の話は興味があります」

 男性には興味がないと強調したつもりだけど、尊さんはじー……と私を見てから、「そのうち俺が教えてやるからな」と頭をポンポン叩いてきた。

「み……」

 一瞬、ポロッと「宮本さんの事も知ってますか?」と涼さんに聞きかけてしまった。

 酔いの勢いダメ、絶対。いい感じにホヤホヤしてるけど、失言をしたら駄目だ。

「み?」

 けれど尊さんは耳ざとく私の言葉を拾い、首を傾げる。

「ミコトサンカッコイイデスネ」

 とっさに取り繕ったけれど、真顔のまま言ってしまったのでまるでロボ子だ。

 尊さんは不思議そうに私を見ると、首を傾げて言い返す。

「アカリサンカワイイデスネ」

 そう言われ、私は「んふ……、んふふ……」と笑ってしまう。
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