部長と私の秘め事
 今まで性的な経験はなかったけど、友達から色んな話を聞いている。

 けれど目の前にいる男性に性的欲求を感じたのは初めてで、「失礼じゃないだろうか」とか、色んな考えを巡らせてしまった。

 その時、涼さんがヌルッと唇の内側を舐めてきて、私はビクッと体を震わせる。

(――――ま、待って待って待って。たんまたんまたんま。…………やらしすぎるっ!)

 キスした事がない訳じゃないけど、今までの彼氏もどきと涼さんとでは想いの深さが違う。

 彼が大事そうに唇をついばみ、下唇を軽く前歯で噛んできただけで、一杯一杯になって鼻に掛かった変な声を漏らしてしまいそうだ。

 だから、私はとっさに逃げようとしたんだろうか。

 無意識に両手両足を使って体をずり上げたけれど、涼さんはすぐに私の腰を掴んで元の位置に引き戻した。

(待ってーっ!!)

 涼さんは優しくていい人なのに、力のある〝男の人〟だ。

 私は朱里ほど細くないはずなのに、涼さんの大きな手で腰を掴まれると、自分がとても細くなったように思える。

 それに、体重だって軽くないのに、こんなにたやすく引きずられるなんて……。

 涼さんと一緒にいるほど、自分が彼に比べてずっと非力な〝女〟なのだと思い知らされる。

 その時、少し開いた私の口内に涼さんの舌が侵入し、舌先同士が触れ合う。

 ピクッと体を震わせると、涼さんは私を宥めるように優しく頭を撫でてきた。

 彼の舌は柔らかく、ヌルヌルと舌同士を触れ合わせているだけで、気持ちがフワフワしてくる。

(あれ……、いいのかな。こんな……)

 私はボーッとした意識の中、口内に挿し込まれた舌をチュッと吸う。

 キスをしながら、涼さんは私の首筋から肩、二の腕を触れていく。

 とても大切なものを確かめているような手つきなのに、私はゆっくりと肌を撫でられて息を荒げ、胸を高鳴らせる。

「……胸、触ってみても大丈夫?」

 キスの合間に涼さんが囁いて尋ね、それに私はコクンと小さく頷いて返事をした。

 すると涼さんは大きな手でパフッと私の胸を包み、じわりと指先に力を入れてゆっくり揉んでいく。

「ん……っ」

 私は慣れない感触に思わず声を漏らしてしまい、気にしていた事を打ち明ける。

「……あ、あの……っ」

「ん?」

「……胸、小さくてごめんなさい……っ」

 きっと男の人は、朱里みたいに揉みごたえのある胸の方がいいんだろう。

 そう思うと、ささやかサイズが申し訳なくなってしまう。

「どうして謝るの? 俺は恵ちゃんの胸なら、どんな胸でも好ましいけど」

 涼さんならそう言ってくれると思っていた。

 分かっていたけれど、どうしても劣等感があり落ち込んでしまう。

 視線を落として黙っていたからか、涼さんはチュッと音を立てて額にキスをしてきた。

「大事なのは恵ちゃんが気持ち良くなってくれる事だよ。俺が満足するかどうかなんて、どうでもいいんだ」

「でも……」

 言いよどむと、涼さんは少し照れくさそうに笑う。

「柔らかくて気持ちいい事に変わりはないから」

 涼さんの言葉を聞いた私は、ちゃんと〝女〟として捉えてもらっていると知って、心から安堵した。

 彼は言い含めるように言う。

「恵ちゃん、いい? これからセックスする事もあると思うけど、俺の気持ちよさなんて気にしなくていいんだからね。男はある程度気持ち良くなれば射精する。でも慣れていない女性ほど、気持ち良くなって絶頂する事は難しい。だから俺は恵ちゃんの快楽を重視していきたい。女性の気持ちや感覚を無視して、男だけが気持ち良くなって勝手に達くなんて、そんなのセックスじゃない。ただの人を相手にしたオナニーだ。俺はそんな事はしたくない。……だから、俺の事は気にしないで」

 どこまでも優しい涼さんの言葉を聞くと、泣きたくなってしまった。

(どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。こんな素敵な人の相手が本当に私でいいのかな)

 痴漢騒動で男性不信気味になっていたのは言わずもがな、歴代彼氏もどきも、悪い人ではなかったけど魅力的とは感じられず、長らく天敵認定していた田村はクズ男だった。

 今までの私の人生に〝まともな男〟はおらず、篠宮さんだって朱里にとってはスパダリで運命の人だけど、付き合うまでの過程を知っている私から見れば、普通とは言いがたい。

 なので涼さんと話していると、「こんないい人がいる訳がない」と何かのバグだと思ってしまう自分がいた。

 不安そうな顔をしていたからか、涼さんは私の頬を撫でて微笑みかけてくる。
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