部長と私の秘め事
「……可愛すぎる」

(ええー?)

 涼さんは片手で顔を覆い、溜め息混じりに言ったあと、モフッとマットレスに顔を埋めてくぐもった声で呟く。

「……なんでこんなにピュアなの? アレキサンドライトか」

「え?」

 アレキサンドライトって確か色が変わる宝石だ。

「……に、二面性があるって事ですか?」

「違うよ。……希少だって事」

 顔をこちらに向けた涼さんはフハッと息を吐くように笑い、私の頭をまた撫でてくる。

「可愛いね、恵ちゃん。君を見ていると、とても大切にしたくなる」

 そう言った涼さんの目は、とても愛しげだ。

 歴代彼氏もどきに「愛されている」と感じた事のない私でも、これが〝愛情の籠もった眼差し〟だと分かる。

「……キス、恥ずかしいっていうなら、もう少し待とうかな」

「や……っ、いやっ、そうじゃなく!」

 私はとっさにガバッと起き上がった。

 さっき溜め息をつかれた時の絶望感、失望させてしまった悲しさはとてもつらく、あんな思いはもうしたくない。

 今はまだ付き合いたてホヤホヤだから、彼だって甘い態度をとってくれている。

 でもいつまでも「イヤイヤ」を言っていれば、さすがの彼だって愛想を尽かすだろう。

 ――なら、勇気を出さないと。

 ――差し伸べられた手は、掴む!

 私は心の中で「えいっ」とかけ声を掛けると、片手で涼さんの手を握り、もう片方の手はマットレスについて身を屈め、彼にキスをした。

 唇を押しつけるだけのキスをしたあと、慌てて体を離そうとすると、後頭部をグッと押さえられる。

「んっ!?」

 焦って身をよじらせた時、起き上がった涼さんによって押し倒され、抱きすくめられた上、ちゅぷっと唇をついばまれた。

「……勘弁して。……可愛すぎる」

 彼は熱に浮かされたような声で囁いたあと、いい子、いい子と私の頭を撫でながら唇を舐めてきた。

 押し倒されると、彼のほうが圧倒的に体が大きいんだと思い知らされる。

 ――私、これでいいの?

 ――男の人にリードされて、キスされて、身を任せてしまってもいいの?

 少し身を竦ませると、涼さんは私の動揺を敏感に感じ取って顔を上げた。

「怖い?」

 尋ねてくる彼は、微笑んでいるけれど目にとても真剣な光を宿している。

 ――あぁ、この人、本当にまじめに私に向き合ってくれているんだ。

 理解した私は、きちんと自分の想いを打ち明けるべきだと感じた。

 涼さんがこれだけ真摯に私を想ってくれているのに、雰囲気を壊すのが嫌とか、拒否して嫌われるのが怖いとか、そんな理由で本心を押し隠すのは逆に失礼だ。

 私は一つ深呼吸したあと、緊張と羞恥で胸を高鳴らせながら本音を話した。

「六割以上は、涼さんに対するドキドキです。残りは……、こういうの初めてなので、不安とか恥ずかしいとか……。……で、少しだけ、男性に対する怯えもあります」

「うん」

 涼さんは微笑んで頷き、よしよしと私の頭を撫でてくる。

「教えてくれてありがとう。……この辺でやめておいたほうがいい? 続きをしてもいい?」

 性的な事について意見を求められるのは、とても恥ずかしい。

 でも、涼さんならきっとこう言うだろう。

『付き合うって事も結婚も、キスもセックスも二人でやるものだよ』

 なら、協力していかないと。

 私はスゥッ……と息を吸い、覚悟を決めて言った。

「……つ、続き、お願いします」

 勇気を振り絞って恥ずかしい言葉を口にすると、涼さんは小さく笑って返事をした。

「喜んで」

 彼は私の手をとり、お姫様のようにチュッと甲にキスをする。

(うう……っ)

 私の反応を楽しんでやっているのか、素なのか分からないけれど、この人はいちいちやる事が心臓に悪い。

「可愛いよ、恵ちゃん」

 涼さんはそう囁き、私の髪を手で梳く。

 それから端整な顔を傾け、再度唇を重ねてきた。

(~~~~っ!!)

 とても柔らかい唇を感じた瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられる。

 同時に、下腹部の奥がジクリと疼いたのが分かって、全身の血が沸騰したかのような感覚に陥った。

(私……、涼さんに性欲を感じてしまっている?)
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