部長と私の秘め事
「色んな人がいるのは分かっています。……でも、パンツ派の人でもデートの時はスカートを穿いて、ギャップ萌えを狙うとか、両方をうまく扱えているんです。……でも私は友達の結婚式でもパンツスタイルでしたし、就職活動もパンツスーツでした」
「スカートを穿かなくても生きていけるし、いいと思うよ。……でも気になるなら一緒に原因を探ってみようか。……スカートを穿くと思ったら、どういう気持ちになる?」
涼さんに言われ、私はソファの上で膝を抱える。
「……まず『兄貴たちに笑われる』って思ってしまいます」
「お兄さんたち、結構落ち着いた年齢になったと思うけど、それでも妹の服装を見て笑うと思う?」
「……分かりません。ずっとスカートを穿いてないので、今はどんな反応をするか想像できないので」
「いつ笑われた?」
私は遠い昔の事を思いだし、溜め息をつく。
「……小学生四年生の時に、祖母が『いつも男の子みたいな格好だから、これを着なさい』ってフリフリの可愛いワンピースを買ってくれたんです。動きづらそうだから、あまり気が進まなかったけど、『大好きな祖母が買ってくれたんだから』と思ったし、クラスの女子みたいに可愛い格好をするのに当時は憧れを抱いていました。……だからそのワンピースを着て家族で出かけたんですけど……」
私はまた深い溜め息をつく。
「兄二人に『似合わない』って笑われて、凄く恥ずかしかったです。……おまけにデパートで友達の家族にも会って、月曜日に『こないだ可愛かったけど、どうしたの?』ってめっちゃ興味津々に聞かれたんです。……その顔が、純粋に褒めているというより、揶揄しているような表情で……。……『私はスカートを穿いたら駄目なんだ』って強く思いました」
今思えば、とても些細な事だ。
でも子供心に傷付いた出来事は、深く根付いてその後の人生にも影響を与える。
「小学生の卒業式も、ワンピースを着せたい母親と熾烈なバトルを繰り広げました。結局『スカート穿くなら休む!』って言ってズボンになったんですが、今思うと『記念日に子供を可愛く着飾らせたい』という母の気持ちを踏みにじったかもしれません」
「うーん、確かに当時のお母さんは残念に思ったかもしれないけど、ずっと引きずってはいないと思うよ。むしろ今の恵ちゃんを見て、悩みがないか心配はしてるかもしれないけど、元気にやってるから聞くまでもないと思っている感じかな」
「……やっぱり今の私か……」
私は「はぁ……」と溜め息をつき、続きを話す。
「朱里の事をとても好きな自分は、LGBTQ的な何かなのかと悩んでいました。好きな男性はできないし、スカートを穿くのは嫌いだし、女性らしいものに一切興味を持たない。……周りでは、……言い方が悪いですけど、地味な女性もスカートやワンピース姿を楽しんでるのに、もっと言えば人によってはロリータ服とかコスプレみたいな服を楽しんでる人もいるのに、私はスカート一つで何をこんなに拘ってるんだろう……って。……そんな自分が、欠陥のある人間に思えてしまいます」
言ったあと、涼さんはソファの上で胡座をかき、考えながら言う。
「実際、恵ちゃんは俺を好きになってくれてるよね? 朱里ちゃんへの想いは、傷付いた時に手を差し伸べてくれた人だから、とても強い感情を抱いてしまっただけだと思うし。……そんなに劣等感を抱かなくてもいいんじゃないかな。服装の好みも性格も、恋しやすいかどうかも、何かに当てはめなくていいんだよ」
軽やかに言った涼さんの言葉を聞き、少し心が軽くなる。
「男でもスカートを穿く人はいるし、セーラー服姿のお爺ちゃんも、女装したヒゲマッチョな男性もいる。パンツスーツを着て働いている女性は格好いいし、メンズライクな格好をしているのもいい。アパレル界ではユニセックスなデザインが流行っているし、恵ちゃんがスカートを穿かなくても誰も君を責めないよ」
「……はい」
否定されないって、とても楽だ。
「でも恵ちゃんの心の奥には、スカートへの憧れがあるようだ。馬鹿にされず、褒められるなら、抵抗がなくなるんじゃないかな?」
彼が何を言おうとしているか察した私は、フルフルと首を横に振る。
「い、いや……。そこまでしなくても……」
涼さんはたじろいだ私の手を握り、私の目を見つめて言った。
「恵ちゃんみたいに素晴らしい女性が、トラウマに囚われ続けて今の自分を殺しているのが勿体ない」
キッパリと言われると、涼さんのまっすぐさの前で、自分のくだらないこだわりが矮小なものに感じられる。
「大人になると、他人がどんな服装をしているかなんて、自分には関係ないと思う人がほとんどだ。勿論、中には意地悪な人がいて『○○のくせにあんな格好をして……』って嗤う人がいるかもしれない。でもそういう人は本当に少数だ。普通の人は他人を嗤えば自分の品位が下がると分かっているし、仮に何か思っていたとしても本人の耳に届くように言わないものだ」
私は小さく頷く。
「お兄さんたちとの関係は良好?」
「そうですね。家族で集まる時は何かとプレゼントをくれます。要らないって言ってるのに、彼女にオススメされたとかでデパコスのリップとか、ちょっとお洒落なアクセサリーとか……」
今さらなんなのと思うけれど、贈り物に罪はないのでありがたく使っている。
「スカートを穿かなくても生きていけるし、いいと思うよ。……でも気になるなら一緒に原因を探ってみようか。……スカートを穿くと思ったら、どういう気持ちになる?」
涼さんに言われ、私はソファの上で膝を抱える。
「……まず『兄貴たちに笑われる』って思ってしまいます」
「お兄さんたち、結構落ち着いた年齢になったと思うけど、それでも妹の服装を見て笑うと思う?」
「……分かりません。ずっとスカートを穿いてないので、今はどんな反応をするか想像できないので」
「いつ笑われた?」
私は遠い昔の事を思いだし、溜め息をつく。
「……小学生四年生の時に、祖母が『いつも男の子みたいな格好だから、これを着なさい』ってフリフリの可愛いワンピースを買ってくれたんです。動きづらそうだから、あまり気が進まなかったけど、『大好きな祖母が買ってくれたんだから』と思ったし、クラスの女子みたいに可愛い格好をするのに当時は憧れを抱いていました。……だからそのワンピースを着て家族で出かけたんですけど……」
私はまた深い溜め息をつく。
「兄二人に『似合わない』って笑われて、凄く恥ずかしかったです。……おまけにデパートで友達の家族にも会って、月曜日に『こないだ可愛かったけど、どうしたの?』ってめっちゃ興味津々に聞かれたんです。……その顔が、純粋に褒めているというより、揶揄しているような表情で……。……『私はスカートを穿いたら駄目なんだ』って強く思いました」
今思えば、とても些細な事だ。
でも子供心に傷付いた出来事は、深く根付いてその後の人生にも影響を与える。
「小学生の卒業式も、ワンピースを着せたい母親と熾烈なバトルを繰り広げました。結局『スカート穿くなら休む!』って言ってズボンになったんですが、今思うと『記念日に子供を可愛く着飾らせたい』という母の気持ちを踏みにじったかもしれません」
「うーん、確かに当時のお母さんは残念に思ったかもしれないけど、ずっと引きずってはいないと思うよ。むしろ今の恵ちゃんを見て、悩みがないか心配はしてるかもしれないけど、元気にやってるから聞くまでもないと思っている感じかな」
「……やっぱり今の私か……」
私は「はぁ……」と溜め息をつき、続きを話す。
「朱里の事をとても好きな自分は、LGBTQ的な何かなのかと悩んでいました。好きな男性はできないし、スカートを穿くのは嫌いだし、女性らしいものに一切興味を持たない。……周りでは、……言い方が悪いですけど、地味な女性もスカートやワンピース姿を楽しんでるのに、もっと言えば人によってはロリータ服とかコスプレみたいな服を楽しんでる人もいるのに、私はスカート一つで何をこんなに拘ってるんだろう……って。……そんな自分が、欠陥のある人間に思えてしまいます」
言ったあと、涼さんはソファの上で胡座をかき、考えながら言う。
「実際、恵ちゃんは俺を好きになってくれてるよね? 朱里ちゃんへの想いは、傷付いた時に手を差し伸べてくれた人だから、とても強い感情を抱いてしまっただけだと思うし。……そんなに劣等感を抱かなくてもいいんじゃないかな。服装の好みも性格も、恋しやすいかどうかも、何かに当てはめなくていいんだよ」
軽やかに言った涼さんの言葉を聞き、少し心が軽くなる。
「男でもスカートを穿く人はいるし、セーラー服姿のお爺ちゃんも、女装したヒゲマッチョな男性もいる。パンツスーツを着て働いている女性は格好いいし、メンズライクな格好をしているのもいい。アパレル界ではユニセックスなデザインが流行っているし、恵ちゃんがスカートを穿かなくても誰も君を責めないよ」
「……はい」
否定されないって、とても楽だ。
「でも恵ちゃんの心の奥には、スカートへの憧れがあるようだ。馬鹿にされず、褒められるなら、抵抗がなくなるんじゃないかな?」
彼が何を言おうとしているか察した私は、フルフルと首を横に振る。
「い、いや……。そこまでしなくても……」
涼さんはたじろいだ私の手を握り、私の目を見つめて言った。
「恵ちゃんみたいに素晴らしい女性が、トラウマに囚われ続けて今の自分を殺しているのが勿体ない」
キッパリと言われると、涼さんのまっすぐさの前で、自分のくだらないこだわりが矮小なものに感じられる。
「大人になると、他人がどんな服装をしているかなんて、自分には関係ないと思う人がほとんどだ。勿論、中には意地悪な人がいて『○○のくせにあんな格好をして……』って嗤う人がいるかもしれない。でもそういう人は本当に少数だ。普通の人は他人を嗤えば自分の品位が下がると分かっているし、仮に何か思っていたとしても本人の耳に届くように言わないものだ」
私は小さく頷く。
「お兄さんたちとの関係は良好?」
「そうですね。家族で集まる時は何かとプレゼントをくれます。要らないって言ってるのに、彼女にオススメされたとかでデパコスのリップとか、ちょっとお洒落なアクセサリーとか……」
今さらなんなのと思うけれど、贈り物に罪はないのでありがたく使っている。