部長と私の秘め事

お泊まりの終わり

 ボストンバッグに入っていた、元々自分が持っている服に着替えようとすると、「せめて今着ている服だけでもつれて行って」と言われる。

 一瞬躊躇したけど、見るからにブランド物! じゃない、シンプルなTシャツとジーンズなので、ありがたくそうさせてもらった。

「家まで送っていくよ」

「いいんですか?」

 目を瞬かせると、涼さんは「勿論」と笑って車のキーを手に取る。

「じゃあ、お世話になりました」

 玄関でペコリと頭を下げると、涼さんに「これ、持って行って」とブランド物のショッパーを見せられる。

 中を見ると、お風呂に入る時に使わせてもらったボディケア類、それに基礎化粧品やコスメがぎっしり入っている。

「俺の家で使う分はまだあるし、ぜひ普段から使ってほしいんだ。車まで持っていくよ」

「あー……、ありがとうございます」

 確かに沢山の服は家に持っていけないけど、多少のコスメならなんとかなるかもしれない。

 それにずっと使っていたファンデーションやアイシャドウが、そろそろ底見えしていたので、次があるのはありがたい。

「お泊まりは週末って言ったけど、気軽に夕ご飯とか食べに来てよ。食材はたっぷりあるし、冷蔵庫の中にある作り置きを勝手に食べてもいいし」

「勝手に人の家に上がって、冷蔵庫の中身をあさる人にはなりたくありませんよ」

 思わず言い返すと、涼さんはまたショボン……としてしまった。すまない。





 六本木のマンションから東十条にある私の賃貸アパートまで、車で三十分ほどの道のりだった。

「ここかぁ……」

 涼さんは商店街の近くにある、年期の入った三階建ての建物を見上げ、吐息混じりに言う。

 ……うん、何を言われなくても、彼の言いたい事は分かる。

 彼が住んでいる物凄いマンションに比べて、セキュリティはザルだし、色々言いたい事があるのは分かる。

「今度、家の中を片づけたあとなら来てもいいですよ」

「分かった!」

 そう言うと、涼さんはパッと笑顔になり、私を抱き締めてきた。

「またね、恵ちゃん」

「はい。色々お世話になりました」

 挨拶をしたあと、涼さんはもう一度私をギュッと抱き締めてから、路駐していた車に乗って走り去っていった。



**



「あっ、恵からメッセだ」

 リビングでゴロゴロしていたら、ピコンとスマホが鳴り、私は飛び起きる。

 尊さんはキッチンでお昼の準備をしていて、手伝うと言ったけれど「簡単な物だからいいよ」と断られてしまった。

【ただいま。やっと家に帰った。セレブの家と自分の家とのギャップが酷くてクラクラする】

 彼女らしいメッセージを見て、私は思わず笑顔になる。

【うまくいきそう?】

【涼さんはすぐにでも同棲したがってる。ご家族にも会わせたいと言ってて、気持ちはありがたいけど急展開すぎて。自分としても気持ちが盛り上がってしまっていて、今は冷静な判断がくだせないと思ったから、一旦逃げ帰ってきた】

 確かに恵の言う事には一理ある。

【それでいいと思うよ。会社で働いていつも通りに過ごして、日常に戻ってから冷静に考えてみるのもアリなんじゃないかな。私もランドに行って『わーっ!』となっちゃったけど、シラフでラビティーカチューシャは被れないわ】

【マジそれな】

 ランドでの高揚感、魔法にかかった感は凄い。

【朱里先輩、今度恋バナ聞いてよ】

【勿論! エミリさんと春日さんも召喚しちゃう?】

【そういえば春日さん、神くんとどうなったか気になるね。よし! 女子会だーっ!】

 恵は某有名ロックバンドの曲名のように宣言し、キャラクターがドラムを叩きまくっている動くスタンプを送ってくる。

「朱里、飯」

 その時、キッチンから尊さんの声がし、私は「はーい」と返事をする。

【ご飯食べてくるね。恵もちょっとゆっくり休みなよ】

【分かった】

 そのあと、私は二人にも連絡しておく旨を伝え、一旦メッセージを終えた。
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