部長と私の秘め事
「まぁ、まずはやってみようよ」
カラッとした調子で言われ、私はキョトンと目を見開く。
「ちょっと焦ってグイグイ誘って申し訳ないけど、本来は週末のお泊まりから……って話だったね。なら、次の週末まで我慢する」
そう言われ、私はホッと息を吐く。
けれど涼さんはニヤッと笑って付け加えた。
「でもその分、恵ちゃんに飢えていると思うから、週末は貪るように抱く……かな?」
「ええっ!?」
私は目をまん丸に見開くと、両手で胸元を庇って身を引く。
「……そこまで拒絶感を示すものかな……」
すると涼さんはガックリと肩を落として項垂れる。
「俺たち、昨晩愛し合ったよね……?」
「いや、そこまで不安にならなくていいですから。感情が安定していると見せかけて、結構振り幅が大きいタイプですか?」
「……恵ちゃんがつれない……」
涼さんが泣き真似をするので、私はつい笑ってしまった。
「『貪るように抱く』は言葉の綾だよ。勿論、嫌ならセックスなしで、楽しく恋人同士のひとときを過ごすつもりだ」
「うん、分かってますけど……」
「っていうか、恵ちゃんの家に行ってみたいな。駄目?」
「いやいや! 天下の三日月グループの御曹司を、私の家になんて上げられませんって」
「ちなみに、家はどこ?」
尋ねられ、涼さんの家に上がっておきながら、自分の家の事は全然話していない事に気づいた。
「北区の東十条です」
「何階?」
「二階です」
「危ないでしょー……」
二階に住んでいると知った瞬間、涼さんは悲鳴じみた声を上げ、また項垂れる。
「今まで危ない目に遭わなかった? 下着ドロとかストーカーとか……」
「今んとこ大丈夫でしたね。治安はそう悪くないと思いますけど」
「それはたまたま運が良かったからだって……」
涼さんは本気で心配しているらしく、ソワソワしている。
「ごめん、恵ちゃんの住まいを悪く言いたいわけじゃないんだ。その家に決めるまで、場所や家賃や間取りとか、こだわったポイントはあっただろうし」
こうして気を遣ってくれるのは、実に涼さんらしい。
今の住まいに決めたのは、朱里が住んでいた西日暮里の物件まで、交通機関を使って二十分で行けるからだ。
住んでいる所は商店街のある下町情緒溢れるところで、大型スーパーがないのと沿線なので少し騒音があるのが難点だけれど、まあまあ住みやすい。
朱里がまだ田村と付き合っていた時は、私の家で三人でタコパをした事もある。
結局あいつはクソ男だったと分かったわけだけれど、色んな問題が表に出ていなかった時代は、割と穏やかに過ごせていた。
「……心配してくれるのはありがたいですし、涼さんの家と比べると防犯が甘いのは分かっています。……なるべく早めに同棲できるように気持ちをシフトしていきますから、もうちょっと待っててください」
そう言うと、涼さんは自分に言い聞かせるように、何度か頷いた。
「……分かった。出会って四日目で『今日から一緒に住もう』っていうのも変だしね」
「あはは」
気持ち的には勢いのまま「同棲したいです」と言いたいけれど、少し冷静になれば私たちが出会ったばかりである事を思い出す。
家族にも彼氏ができたと報告していないし、朱里と会議を開いて彼女の意見も聞きたいところだ。
「家族に涼さんを紹介したら、めっちゃ驚かれそうです」
「ぜひ紹介してもらいたいな」
「……順を追って」
快諾できないのが心苦しいけれど、今はとりあえずそう言っておく。
「そうだね。俺はちょっと焦りすぎている」
自嘲した涼さんを見ていると、とても我慢させているように思えて申し訳ない。
でも私もかなり浮かれていると思うから、もう少し冷静になって問題がないか確認してから、自分にゴーサインを出したい。
涼さんを疑っているとかではなくて、二人とも熱に浮かされたような感覚で大きな決め事をするのは危険だからだ。
食後のコーヒーを飲み終えたあと、私は外の景色を見て溜め息をつく。
それから、涼さんに向かって微笑みかけた。
「そろそろ帰りますね」
告げると、涼さんは悲しそうな表情で笑ってから「うん」と頷いた。
カラッとした調子で言われ、私はキョトンと目を見開く。
「ちょっと焦ってグイグイ誘って申し訳ないけど、本来は週末のお泊まりから……って話だったね。なら、次の週末まで我慢する」
そう言われ、私はホッと息を吐く。
けれど涼さんはニヤッと笑って付け加えた。
「でもその分、恵ちゃんに飢えていると思うから、週末は貪るように抱く……かな?」
「ええっ!?」
私は目をまん丸に見開くと、両手で胸元を庇って身を引く。
「……そこまで拒絶感を示すものかな……」
すると涼さんはガックリと肩を落として項垂れる。
「俺たち、昨晩愛し合ったよね……?」
「いや、そこまで不安にならなくていいですから。感情が安定していると見せかけて、結構振り幅が大きいタイプですか?」
「……恵ちゃんがつれない……」
涼さんが泣き真似をするので、私はつい笑ってしまった。
「『貪るように抱く』は言葉の綾だよ。勿論、嫌ならセックスなしで、楽しく恋人同士のひとときを過ごすつもりだ」
「うん、分かってますけど……」
「っていうか、恵ちゃんの家に行ってみたいな。駄目?」
「いやいや! 天下の三日月グループの御曹司を、私の家になんて上げられませんって」
「ちなみに、家はどこ?」
尋ねられ、涼さんの家に上がっておきながら、自分の家の事は全然話していない事に気づいた。
「北区の東十条です」
「何階?」
「二階です」
「危ないでしょー……」
二階に住んでいると知った瞬間、涼さんは悲鳴じみた声を上げ、また項垂れる。
「今まで危ない目に遭わなかった? 下着ドロとかストーカーとか……」
「今んとこ大丈夫でしたね。治安はそう悪くないと思いますけど」
「それはたまたま運が良かったからだって……」
涼さんは本気で心配しているらしく、ソワソワしている。
「ごめん、恵ちゃんの住まいを悪く言いたいわけじゃないんだ。その家に決めるまで、場所や家賃や間取りとか、こだわったポイントはあっただろうし」
こうして気を遣ってくれるのは、実に涼さんらしい。
今の住まいに決めたのは、朱里が住んでいた西日暮里の物件まで、交通機関を使って二十分で行けるからだ。
住んでいる所は商店街のある下町情緒溢れるところで、大型スーパーがないのと沿線なので少し騒音があるのが難点だけれど、まあまあ住みやすい。
朱里がまだ田村と付き合っていた時は、私の家で三人でタコパをした事もある。
結局あいつはクソ男だったと分かったわけだけれど、色んな問題が表に出ていなかった時代は、割と穏やかに過ごせていた。
「……心配してくれるのはありがたいですし、涼さんの家と比べると防犯が甘いのは分かっています。……なるべく早めに同棲できるように気持ちをシフトしていきますから、もうちょっと待っててください」
そう言うと、涼さんは自分に言い聞かせるように、何度か頷いた。
「……分かった。出会って四日目で『今日から一緒に住もう』っていうのも変だしね」
「あはは」
気持ち的には勢いのまま「同棲したいです」と言いたいけれど、少し冷静になれば私たちが出会ったばかりである事を思い出す。
家族にも彼氏ができたと報告していないし、朱里と会議を開いて彼女の意見も聞きたいところだ。
「家族に涼さんを紹介したら、めっちゃ驚かれそうです」
「ぜひ紹介してもらいたいな」
「……順を追って」
快諾できないのが心苦しいけれど、今はとりあえずそう言っておく。
「そうだね。俺はちょっと焦りすぎている」
自嘲した涼さんを見ていると、とても我慢させているように思えて申し訳ない。
でも私もかなり浮かれていると思うから、もう少し冷静になって問題がないか確認してから、自分にゴーサインを出したい。
涼さんを疑っているとかではなくて、二人とも熱に浮かされたような感覚で大きな決め事をするのは危険だからだ。
食後のコーヒーを飲み終えたあと、私は外の景色を見て溜め息をつく。
それから、涼さんに向かって微笑みかけた。
「そろそろ帰りますね」
告げると、涼さんは悲しそうな表情で笑ってから「うん」と頷いた。