部長と私の秘め事
【こんばんは。突然すみません。今、恵の側にいますか? 恵は大丈夫ですか?】

 すると、すぐに既読がついて返事がきた。

【無事で良かった。恵ちゃんと俺はいま病院にいて、彼女は無事。検査をしたけど異常なし。明日は会社を休んでもらう事にした】

 行動の速い涼さんの言葉に安心した私は、ホッと溜め息をつき、尊さんにも伝える。

「良かったな」

「はい」

 そのあとも涼さんとメッセージを交わし、尊さんと共有していると、どうやらこれから私たちが向かう病院に二人がいるみたいだと分かった。

 彼は【恵ちゃんにスマホを渡すね】とメッセージをよこし、少ししてから電話がかかってきた。

「……もしもし? 恵?」

 スマホを耳に宛がって尋ねると、スピーカーの向こうから沈黙が返ってくる。

「もしもし?」

 向こうは病院にいるし、話しづらいのかな? と思っていると、彼女の声が聞こえた。

《……ごめん》

 恵らしくない、今にも消え入りそうな声を聞き、胸がギュッと痛くなる。

「大丈夫だよ! ホラ、めっちゃ声が元気でしょ? しかもお腹空いてるの」

 明るく言うと、電話の向こうで恵が思わずクスッと笑ったのが聞こえた。

「落ち着いたら一緒にご飯食べに行こう? お酒も飲んで、パーッと騒ごう!」

《……うん》

 恵は犯人に対して怒り狂うか、落ち込んでいるかのどちらかだと思っていたけれど、後者だった。

「恵は大丈夫だった? 怪我してない?」

《……うん。大丈夫》

 多分、詳しい事はお互い顔を見て話したほうがいいんだろう。

 そう思った私は、一旦話を置く事にした。

「私、いま病院に向かってるんだ。同じ病院らしいから、待ってて」

《分かった》

 私も恵も、一番にしたかったのは、お互いの声を聞いて安否を確認する事だ。

 第一の目的を果たしたあとは、いつもみたいに対面で話したほうがいい。

 メッセージで【大丈夫】と言う時だって、ゴロゴロしながら打つ時もあれば、つらいのを必死に堪えて笑顔で言う場合もある。またはクシャクシャに泣きながら、言葉だけ強がっている時もある。

 私は恵が強がりな性格なのを誰より知っているし、こんな状況になって彼女が責任を感じてしまうのも理解している。

 だからこそ、ちゃんと会って「大丈夫だよ」と声を掛けて抱き締めてあげたかった。

 いつもは私が恵に励まされているけれど、いざという時は彼女のほうが脆く、トラウマを抱えがちになってしまう事を知っているから。

「……尊さん。私、父の事とか割とトラウマ持ちですが、自分で思っているより打たれ強いかもしれません」

「……ん」

 彼は言葉少なに頷く。

「私は今まで、沢山恵に励ましてもらいました。だからあの子がへこんでいるなら、今度は私が励まさないと」

「朱里のケアは俺がする。エネルギー切れになっても、ちゃんと受け止める奴がいるから安心してくれ」

「はい! 温かい寝床も美味しい食べ物も、イケメン抱き枕ミコトゥーもいますから、私は大丈夫」

「……そこでミコトゥーかよ。本物を抱き枕にしてくれよ」

「んふふ」

「っていうか、そんだけの備えがあると、冬ごもりするクマみたいだな」

「あはは! 最高!」

 不思議な事に、心配する相手がいるとグッと強くなれた。

 確かに誘拐されて暴力を振るわれたのは怖かったけれど、相手が知っている人だったし、すぐスマートウォッチで対応できたから、尊さんが来てくれるという確信があった。

 今は色々ありすぎて恐怖心が麻痺しているだけかもしれないけど、「大丈夫」と思って普通に振る舞っていたら、きっと日々の中に紛れ込んでいくと信じている。

(絶対、こんな思い出を後生大事にとっておいてやるもんか!)

 私は頭の中で、今日の思い出をクッチャクチャに握りつぶし、ペイッと床に捨てると、その上でダンッダンッとジャンプをする。

(今行くよ! 恵!)

 そして心の中で親友に向かって声を掛けた。



**



 目が覚めた時、私――、中村恵は、どうして涼さんがいるのか分からなかった。

 けれど彼が落ち着いて状況説明してくれ、自分が襲われてスマホを奪われた事を理解した。

 間もなく救急車が着き、緊急性はないのに……と、罪悪感を抱きながら救急車に乗り、隊員の人たちに質問されて返事をした。
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