部長と私の秘め事

涼の家にお泊まり

 壁には趣味のいい絵画が飾られていて、床の上には彫刻などもあって、ちょっとした美術館みたいだ。

「お金持ちの家だ……」

 思わず呟くと、恵が「お金持ちなんだよ」と頷く。

「あとからじっくり見学していいから、とりあえず中に入ってお茶でもどうぞ」

 涼さんはそう言い、スライドドアを開けて奥に入っていく。

「ほわぁあ……」

 私はカンフー映画の主人公みたいな声を上げ、運動会でもできそうなリビングダイニングに大きな窓、その向こうに見える夜景と東京タワーを見て、あんぐりと口を開ける。

 大きな窓はビルの角に面していて、そこには二本の円柱があるけれど、ここまで広い空間があるなら、柱があるのも頷ける。

「あれ気持ちいいよ」

 恵が指さしたのは、ベッドみたいなソファだ。意味が分からないぐらいでかい。

「ここで寝られそう」

「だよね」

 私たちは頷き合い、恵はスプリングコートを脱いでから普通のソファに座った。

「口をゆすぎたかったら洗面所を使ってもいいよ。三人分のコップや歯ブラシ、出しておこうか」

 涼さんが言い、スタスタと歩いて行くので私たちも思わずついていく。

 彼は胡蝶蘭が飾ってある広い洗面所に着くと、引き出しから高級そうな歯ブラシを三本出し、洗面所用らしいグラスを三つ置く。

「お風呂も準備しておくから、沸いたら自由に入ってどうぞ。その頃には尊も来てるだろうから、着替えもあるだろうし」

「ありがとうございます。恵は着替えあるの?」

 尋ねると、彼女はサッと目を逸らしてボソボソと言う。

「……い、一応……、この家に着替えを……」

 それを聞いて、私はネチャア……と笑った。

「恵ちゃんの部屋、先日より色々整えたから、お茶の用意をしている間に見てみて」

 涼さんは悪戯っぽく笑い、キッチンに戻りつつ言う。

「さっきも言ったけど、家の中は自由に見てどうぞ。もう恵ちゃんの家でもあるからね」

 そう言って彼は先に戻ってしまう。

「恵の部屋、見てみたい」

「う、うん……。……自分の家って言っていいのか分からんけど……」

 彼女は自信なさげに言い、電気をつけて廊下の奥へ進んでいく。

「凄く部屋が沢山あるね。ここに今まで一人で住んでたんだ」

「ね、アホみたいだよね」

「容赦ないなぁ」

 私は恵の忖度のない言い方に、ケタケタと笑う。

 廊下の左手にはキッチンに通じるドアと三つの洋室があり、右手にはランドリールームにお手洗い、洗面所にお風呂が複数ある。

「ここ、漫画部屋で篠宮さんが入り浸ってたんだって」

「へえ!」

 ちょっと見せてもらうと、図書室のように本棚がぎっしりある部屋で、座って読書を楽しめるよう、座り心地の良さそうなソファもあった。

 いわば、高級な漫喫だ。

「尊さん、漫画読むんだ」

「もともと、漫画を読むどころじゃない育ち方をしてきたから、大学生時代に涼さんと出会って、色々と娯楽や息抜きを教えてもらったみたいだよ。あとから涼さんに、色々聞いてみたら?」

「そうしてみる」

 こういう話を聞くと、本当に彼は私の知らない尊さんを知っているんだな、と感じた。

(いいな……)

 彼の親友に嫉妬するなんてみっともないけど、好きな人だからあます事なく尊さんの情報を聞きたいと思ってしまう。

「……で、ここが私の部屋らしいんだけど……」

 恵は他人行儀に言い、一番奥の部屋の電気をつける。

「おお……! お洒落!」

 インテリアは全体的にナチュラルテイストで、ブラウンとオフホワイトで統一されていた。

 ゆったりとしたセミダブルのベッドには、柔らかそうなパイル地のオフホワイトのベッドカバーがかかり、枕元にはモカブラウンの飾り枕が複数置かれてある。

 ベッドサイドにはタッチセンサーのライトがあり、アンティークな作りでとても可愛い。

 壁際には木製のチェストがあり、その上にはディフューザーとオレンジ系で統一されたお花、スマートスピーカーがあった。

 寝転べるサイズのブラウンのソファには、ベージュ、モカブラウン、焦げ茶色の三つのクッションが置かれていて、一つはフワフワしたファー素材でできている。

 ラグの上にある木目調のテーブルは、半分がガラスになっていて、中に物を置けるようになっていた。

 ソファの正面にはテレビがあり、サウンドバーもある。勿論、ブルーレイなども完備だ。

 書き物などをするためのデスクもあり、黒いレザーのハイバックチェアには白いファーのクッションが置かれてある。

 デスクには新品の薄型ノートパソコンも置かれていて、配線が表に出ない作りになっていた。

 木製のドレッサーの引き出しにはデパコスがぎっしり詰まり、白い革製の円柱型椅子には、鋲が打ってあるのがお洒落だ。

 壁面には大きな女優ライトのついた鏡があり、使わない時は鏡を気にしなくていいように、上部にはロールスクリーンカーテンもついている。

 部屋の隅には小さめの冷蔵庫もあり、布の掛かった全身鏡も置かれてあった。

 広々としたウォークインクローゼットには、ブランド物の服が収納されているけれど、まだまだ入る余地がある。

「凄いね……。女子が憧れる夢の部屋だ」

 私はスタンドライトのセンサーに触れ、パッとつけてみながら言う。

 恵もこの部屋を初めてみたのか、呆然とした表情で室内を見回していたけれど、溜め息をついてソファに腰かけた。

「……いいのかな」

 そして自信なさげに言うものだから、私は彼女の隣に座ってギュッと抱き締めた。

「イーンダヨ」

「ビールか」

 恵は脱力したように笑い、ビシッと私に軽くチョップして突っ込んでくる。

「……私、尊さんと付き合うようになって、つくづく思うけど、愛されてなんぼだと思う」

「朱里が言うと説得力があるね。変わったもん、朱里」

 私は「でしょー」と笑って恵の腕を組み、彼女と一緒にソファの背もたれに身を預ける。

「涼さん、運命の人だよ。結婚……は視野に入れてくれてるでしょ?」

 これは私の一方的な望みだけれど、親友の尊さんがあれだけ『本気だ』と言っていたなら、それしかないと思ってる。

「……多分」

 恵はボソッと言って小さく頷く。

「自信持ちなよ。恵の男運は、今クライマックスを迎えて、ビンビンなの」

「ビンビンってなに」

 彼女はクシャッと笑って突っ込む。

 ひとしきり笑ったあと、私たちは腕を組んだままソファにもたれ掛かり、どちらからともなく息を吐く。
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