部長と私の秘め事
「俺も涼も恋人を安全な家に連れ帰りたい。でも一番大切にすべきは二人の気持ちだ。朱里も中村さんも恋人と一緒にいたいけど、親友の側にもいたいんじゃないかと思って、俺から提案させてもらった」

 私は目を見開いたまま、おずおずと頷く。

「……いたい。……尊さんとも恵とも一緒にいたいです」

 すると涼さんはニコッと笑った。

「なら決定だ。ラーメン食べたあと、みんなでうちに来てお泊まり会しよう」

「わ、わぁ……」

 涼さんの家にお邪魔できるとは思っていなくて、私は控えめに声を上げて拍手する。

「涼さん、ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げた恵の肩を、涼さんはポンポンと叩く。

「俺もそうしたほうがいいと思ったから、場所を提供しただけだ。恵ちゃんも朱里ちゃんも、明日は会社を休んでうちでゆっくりしておいで。夕方には四人で事情聴取を受ける事になると思うけど、それまで心を落ち着かせておいたほうがいい」

「はい、そうします」

 返事をした恵は、無意識にギュッと私の手を握ってくる。

「じゃあ、とりあえずラーメン食いに行くか」

「はい!」

 尊さんに言われ、私たちは夜の病院を出て、それぞれの車に乗った。



**



 ラーメン屋は六本木に、午前十一時から翌朝の午前九時まで営業しているお店があるらしく、そこに行く事にした。

 一度涼さんのマンションの駐車場に車を停めたあと、私たちは歩いて移動し、大きい通りに面したラーメン屋さんに入った。

 店名に〝虎〟が入っているだけあり、お店の外には虎の置物が飾られてある。

 内装はウッド調に統一されていて、屏風に描かれた虎をイメージした壁紙が印象的だ。

「わあ、美味しそう……」

 メニューを開いた私は開口一番言い、指でメニュー名を追いながら「この子もいい……」とうっとりしながら独り言を言う。

「朱里ちゃんは、なかなか生命力溢れる感じだね」

 ボックス席の向かいに座った涼さんが言い、それを聞いた恵は笑う。

「この子から食欲を奪ったら、何も残らないと思いますよ」

「なにをう、失礼な」

 私は言い返しながらも、真剣にメニューを見続ける。

 お店は豚骨ラーメンが売りらしいけれど、牛骨ラーメン、昆布水ラーメン、それぞれつけ麺もあり、どれも食べたくて仕方がない。

 散々迷ったあと、私は牛骨醤油ラーメンにトッピングをつける事にした。

 恵は塩の昆布水ラーメン、尊さんと涼さんは看板商品のお店の名前がついたラーメンだ。

 六本木の中心部にあるラーメン店にいると、先ほど自分が誘拐されていたのが嘘みたいに思える。

「ラーメン食べ終わったら、俺は一旦家に戻るな」

「えっ? お泊まりしないんですか?」

 尊さんに言われ、私は聞き返す。

「いや、泊まるけど、着替えとか充電器とか必要なもんあるだろ。それを取ってくる」

「あっ、はい。分かりました。じゃあ、お願いします」

 そのあと、私たちは努めて事件の事は話さず、先日行ったランドの感想や、次に四人でどこに行くかなどを話して過ごした。

 トッピングマシマシのラーメンが運ばれてくると気持ちはクライマックスになり、私は歓声を上げてラーメンの写真を撮ると、ハフハフと熱がりながら美味しいラーメンを味わった。





 お会計は涼さんがもってくれ、十五分ほどかけて彼のマンションまで戻ったあと、尊さんは一人で車に乗って一度三田のマンションに戻った。

「……ビビるよ」

「もうビビってるよ……」

 私と恵は超高層マンションを前に囁き合う。

 すぐ近くにあるビルも高層ビルのはずなのに、涼さんのマンションは一際高くててっぺんが想像できない。

「ヘリポートってあるんですか?」

「あるよ。この辺の高層ビルは、大体完備していると思う」

 涼さんの返事を聞いて「ほー」となっていると、彼はコンシェルジュさんにあとから尊さんが訪れる事を伝えていた。

 やがて私たちはエレベーターに乗り、最上階にある涼さんの豪邸にお邪魔した。

「うわぁ……」

 玄関に入った瞬間、大きな空間が広がっていて私は声を上げる。
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