部長と私の秘め事
「この家の中でも歩数を稼げそうだね」
「あはは! 確かに」
部屋に入ると、恵のベッドの横には敷き布団がセットされてあった。
しかも旅館みたいにピシッとしている。さすが涼さんクオリティ。
歯磨きはお風呂上がりにしたので、私たちはそれぞれ布団に潜り込み、恵がおずおずと言う。
「……フェ、フェリシア。……で、電気を……けし……」
《すみません。何と言っているのか分かりません》
不慣れな恵が不明瞭に言うものだから、フェリシアが言葉を理解しなかったらしい。
私は布団の中で声もなく笑い、恵は「もぉ……。手動のほうがいいじゃん」と真っ赤になってうなっている。
「恵、ワンモア!」
「んンっ! フェリシア、電気を消して」
《分かりました》
今度はパッと部屋のライトが消え、私は恵に「良かったね」と笑い混じりに言う。
「……これ、結構心が折れそうだわ」
「分かる。私も最初そうだった」
そのあと、どちらからともなく溜め息をついた。
「疲れたね」
「うん。なんか、一週間分の疲れがドドッときた感じ」
「事情聴取とか、めんどくせー」
恵が溜め息をつく。
「私たちは被害者なわけだし、きっと事情聴取が終わったらもうそんなに関わらずに済むんじゃないかな」
今頃、昭人の家族にも連絡がいって、田村家は大騒ぎになっているだろう。
彼のご両親には会った事があるから、なんとも気持ちが暗くなる。
(でも、もう一年前に縁が切れた人なんだし、これで終わらせないと)
私は自分に言い聞かせ、目を閉じる。
「明日起きたら、きっと美味しいご飯を食べられるし、久しぶりに何も気にせず恵と一日ゆっくり過ごせる。息抜きだと思ってゆっくりしようか」
「そうだね」
暗闇のなか、恵が溜め息をついた音が聞こえる。
「おやすみ、恵」
「おやすみ」
こうやって同じ部屋で「おやすみ」を言い合うのは久しぶりだな、と思いながら、私は今日起こった出来事をなるべく思い出さないようにして、寝る努力をした。
**
翌朝目が覚めたのは、七時半頃だった。
(あっ、会社……)
思わずガバッと飛び起きたけれど、自分が見知らぬ部屋で寝ているのを自覚し、すぐに昨日何が起こったかを思いだした。
「おはよ」
恵の声がしてそちらを見ると、彼女はベッドに座ってスマホを弄っていた。
「あ、起きてたんだ」
「彼ら、もう起きてるみたいだよ」
「えっ? ホント? ちょっとお手洗い行ってくる」
私は慌てて起き上がってトイレで用足しをし、洗面所で顔を洗う。
部屋に戻ると、恵は着替えを始めていた。
私が布団をたたみ始めると、恵は無言で手伝ってくれる。
「ありがと」
「どういたしまして」
私も恵も、普通にパーカーにジーンズ姿でリビングダイニングに向かう。
するとダイニングでは音量控えめでカフェミュージックが掛かっているものの、二人の姿はない。
ヒョコッとキッチンを覗くと、シャツにベスト、スラックス姿の二人が、アームバンドをして朝ご飯を作っていた。
「ウウ……ッ!」
私は架空の鼻血が流れそうになるのを感じ、ときめいた胸元と鼻を押さえる。
「しっかりしろ、朱里。傷は浅いぞ」
そこでお決まりのセリフを言ってくれるのは、さすが親友だ。
「おはよう、二人とも。よく眠れた?」
涼さんが朝から爽やかな笑顔を向けてくれ、私はその麗しさに拝みたくなりながらもコクコクと頷く。
「お陰様で」
「朱里、中村さん、スクランブルと目玉どっち?」
尊さんに尋ねられ、私は「スクランブル!」と挙手して勢いよく返事をする。
「あ、じゃあ私も同じ物で」
「ラジャ」
二人は手際よく動いていて、手伝おうとするも、何をしたらいいか分からずまごつく。
「何かやる事ありますか?」
恵がズバッと尋ねると、涼さんがニッコリ笑う。
「じゃあ、ラビティーの着ぐるみパジャマを着て、そこでラビティーダンスを踊ってくれるとか……」
「寝言は寝て言ってください」
昨晩、あれだけのデレを見せたのに、恵は相変わらずソルトだ。
「マジレスすると、大体の手順は終わってるから、あとは食べるだけだ。座ってな」
尊さんがそう言ったけど、何もしないのは気が引けるので、とりあえず私は待機して運ぶ物ができたら運ぼうと思い、邪魔にならない所に座らせてもらった。
「あはは! 確かに」
部屋に入ると、恵のベッドの横には敷き布団がセットされてあった。
しかも旅館みたいにピシッとしている。さすが涼さんクオリティ。
歯磨きはお風呂上がりにしたので、私たちはそれぞれ布団に潜り込み、恵がおずおずと言う。
「……フェ、フェリシア。……で、電気を……けし……」
《すみません。何と言っているのか分かりません》
不慣れな恵が不明瞭に言うものだから、フェリシアが言葉を理解しなかったらしい。
私は布団の中で声もなく笑い、恵は「もぉ……。手動のほうがいいじゃん」と真っ赤になってうなっている。
「恵、ワンモア!」
「んンっ! フェリシア、電気を消して」
《分かりました》
今度はパッと部屋のライトが消え、私は恵に「良かったね」と笑い混じりに言う。
「……これ、結構心が折れそうだわ」
「分かる。私も最初そうだった」
そのあと、どちらからともなく溜め息をついた。
「疲れたね」
「うん。なんか、一週間分の疲れがドドッときた感じ」
「事情聴取とか、めんどくせー」
恵が溜め息をつく。
「私たちは被害者なわけだし、きっと事情聴取が終わったらもうそんなに関わらずに済むんじゃないかな」
今頃、昭人の家族にも連絡がいって、田村家は大騒ぎになっているだろう。
彼のご両親には会った事があるから、なんとも気持ちが暗くなる。
(でも、もう一年前に縁が切れた人なんだし、これで終わらせないと)
私は自分に言い聞かせ、目を閉じる。
「明日起きたら、きっと美味しいご飯を食べられるし、久しぶりに何も気にせず恵と一日ゆっくり過ごせる。息抜きだと思ってゆっくりしようか」
「そうだね」
暗闇のなか、恵が溜め息をついた音が聞こえる。
「おやすみ、恵」
「おやすみ」
こうやって同じ部屋で「おやすみ」を言い合うのは久しぶりだな、と思いながら、私は今日起こった出来事をなるべく思い出さないようにして、寝る努力をした。
**
翌朝目が覚めたのは、七時半頃だった。
(あっ、会社……)
思わずガバッと飛び起きたけれど、自分が見知らぬ部屋で寝ているのを自覚し、すぐに昨日何が起こったかを思いだした。
「おはよ」
恵の声がしてそちらを見ると、彼女はベッドに座ってスマホを弄っていた。
「あ、起きてたんだ」
「彼ら、もう起きてるみたいだよ」
「えっ? ホント? ちょっとお手洗い行ってくる」
私は慌てて起き上がってトイレで用足しをし、洗面所で顔を洗う。
部屋に戻ると、恵は着替えを始めていた。
私が布団をたたみ始めると、恵は無言で手伝ってくれる。
「ありがと」
「どういたしまして」
私も恵も、普通にパーカーにジーンズ姿でリビングダイニングに向かう。
するとダイニングでは音量控えめでカフェミュージックが掛かっているものの、二人の姿はない。
ヒョコッとキッチンを覗くと、シャツにベスト、スラックス姿の二人が、アームバンドをして朝ご飯を作っていた。
「ウウ……ッ!」
私は架空の鼻血が流れそうになるのを感じ、ときめいた胸元と鼻を押さえる。
「しっかりしろ、朱里。傷は浅いぞ」
そこでお決まりのセリフを言ってくれるのは、さすが親友だ。
「おはよう、二人とも。よく眠れた?」
涼さんが朝から爽やかな笑顔を向けてくれ、私はその麗しさに拝みたくなりながらもコクコクと頷く。
「お陰様で」
「朱里、中村さん、スクランブルと目玉どっち?」
尊さんに尋ねられ、私は「スクランブル!」と挙手して勢いよく返事をする。
「あ、じゃあ私も同じ物で」
「ラジャ」
二人は手際よく動いていて、手伝おうとするも、何をしたらいいか分からずまごつく。
「何かやる事ありますか?」
恵がズバッと尋ねると、涼さんがニッコリ笑う。
「じゃあ、ラビティーの着ぐるみパジャマを着て、そこでラビティーダンスを踊ってくれるとか……」
「寝言は寝て言ってください」
昨晩、あれだけのデレを見せたのに、恵は相変わらずソルトだ。
「マジレスすると、大体の手順は終わってるから、あとは食べるだけだ。座ってな」
尊さんがそう言ったけど、何もしないのは気が引けるので、とりあえず私は待機して運ぶ物ができたら運ぼうと思い、邪魔にならない所に座らせてもらった。