部長と私の秘め事

気分転換と挨拶を兼ねた食事へ

 恵の荷物の片づけが終わった頃には北原さんは帰っていた。

 けれど、彼女が紅茶やコーヒー、お茶菓子が置いてある所を教えてくれて「ご自由にお召し上がりください」と言ってくれたので、コーヒーを淹れさせてもらった。

 女子三人でたわいのない話をし、昨晩尊さんが使っていたトランプで遊んだら、予想外にヒートアップする。

 学生時代から今も、恵はスピードの女王だ……。くっ。





 夕方になって尊さんと涼さんが戻り、彼らは再度佳苗さんに挨拶する。

 ゆっくりしていればすぐ警察の人が来てしまうとの事で、その前に私と恵の前に出されたのは最新のスマホだ。

「どうしたんですか?」

「万が一だけど、田村はメッセージアプリを使ってコンタクトしてきたから、証拠物としてスマホを任意提出する可能性がある。スマホがなくなったら不便だろうと思って、新しいのを買ってきた。とりあえず、朱里が使ってる格安SIMを買ったから、使い勝手は同じだと思う。スマホが戻って二台が邪魔なら売るなりなんなり、好きにしてくれ。とにかく、すぐ同期するぞ」

 そう言って尊さんと涼さんは私と恵のスマホを弄り、サクサクと新しいスマホに中身を同期させた。

 アプリによっては旧スマホから完全に引き継がないとならないものもあるけれど、とりあえず一時的なものなので、預けたスマホが戻ってくるまではそのアプリを使わなければいい話で、最低限SNSアカウントと電話、メールが使えるなら御の字だ。

 加えてキノコを育てるゲームと、万歩計ゲームも新しいスマホでできるのでホッとした。

 その作業が終わった頃、警察の人がきた。

 本物の刑事さんを見るのは初めてでとても緊張したけれど、比較的落ち着いて受け答えする事ができた。

 刑事さんは「すみませんね、スマホを少しお借りします」と言ってスマホを預かったあと、後日、現場検証として恵のマンションと、私が誘拐された先のライブハウスの立ち会いも必要だと言った。

 また、昭人や仲間たちの裁判が始まった時は、証言をするために出頭しなければならないらしい。

 本当は恵のマンションは現状維持が好ましかったらしいけど、涼さんの心配性が爆破して引っ越ししてしまったし、彼は警察上層部と知り合いなので特にお咎めはなかった。





「はぁー……、緊張した……」

 刑事さんが帰ったあと、私はグタ……とソファの背もたれに寄りかかる。

 恵もソファの上で体育座りをしていて、膝の間に顔を埋めていた。

「……よし! 気分転換に食事に行こうか!」

 涼さんはパンと手を打って言い、私と恵は顔を上げる。

「気が重たい事があった時、同じ場所にいると停滞した気持ちになってしまう。疲れていると思うけど、着替えてメイクして一緒に出かけよう。美味しい物を食べたら気分が上がると思うし、無理矢理にでも気分転換しないと」

 行動派の涼さんの言葉を聞き、佳苗さんが「イェーイ! シャンパン飲んじゃう!」と張り切った。

「……まったく……」

 恵は苦笑いし、私に向かって手を差しだし「行こうか」と一緒に部屋へ向かった。





 時刻は十八時半で、この近くのレストランに行くなら全然間に合うだろう。

 私はどんなお店でも大丈夫なように、総レースのIラインワンピースにビスチェをつけ、ボレロを羽織った。

 恵はあの立派なウォークインクローゼットの前でまごついていて、私は着替え終わったあと「迷ってるの?」と彼女の顔を覗き込む。

「ブランド服のコーディネートなんて分からないよ。でも手持ちの服なら涼さんが連れて行ってくれるお店に相応しくないだろうし……」

 その時、「はーい!」と佳苗さんがモデル歩きで華々しく登場した。

「何をしに来た。佳苗」

「やーね。手助けよ。恵を着飾る事ができるなんて、滅多にないんだから」

 そう言って、佳苗さんはウォークインクローゼットに入って行く。

 私はシンプルに疑問というか、確かめたい事があって尋ねた。

「佳苗さんはそういう感じなのに、恵があまり服に興味を持っていなかったのは、やっぱり反動とか?」

 すると恵は溜め息をついて頷く。
< 449 / 505 >

この作品をシェア

pagetop