部長と私の秘め事
「でも全然時間前だからOKよ。私たちは早めに着いちゃったから、先にシャンパン飲んでたの。朱里さんもどう?」

「はい、いただきます」

 シャンパンを注文して少し話した頃、予約時間の五分前になって恵が現れた。

「……ど、どうも……」

 私たち三人は、恵の姿を見て声なき悲鳴を上げた。

 ――可愛い!

 恵はブラッドオレンジのシャーリングトップスを着ていて、それがイエベ秋の彼女にとても似合っている。

 細身の彼女だから、胸元がクシュクシュつぃた生地も着こなせるし、大きめに開いたスクエアネックから綺麗な鎖骨が覗き、そこに黄色い宝石のラインネックレスが輝いているのも素敵だ。

 短めのトップスの下からは、ハイウエストの黒いマーメイドスカートが覗き、膝下からはレースを使ったフリルになっていて、全体的にシンプルなのに華やかさもある。

 前下がりボブは片方を耳に掛けるようにピンで留め、耳にはネックレスと同じ、黄色い宝石が縦に連なっているピアスが揺れていた。

「ハァァ!」

 私は感極まり、サッとスマホを出すとパシャパシャと恵を撮影する。

「やだ! 見せたくない!」

 真っ赤になって怒った恵はムスッとし、スタスタと空いている席に近づいてストンと座ってしまう。

「撮っちゃったもんね……」

 けれど私はスマホをかざし、片手でピースしてみせる。

「あとで朱里もスクープしてやるからね……」

 恨みがましそうに恵が言った時、春日さんはクスクス笑って「相変わらず仲がいいわねぇ」と言う。

 そのあと、彼女は恵の分のシャンパンとコース料理を持ってきてくれるよう、スタッフに頼んだ。

「さーて、恵ちゃんの身に何が起こったのかなぁ~?」

 個室からスタッフが出て行ったあと、春日さんはパンと手を打ってからスリスリと擦り合わせ、楽しそうに恵を見ている。

「それより春日さんは、神くんとどうなったんですか」

 けれど恵がサラッと切り返すと、彼女は途端に真っ赤になり、モジモジしだした。

「えーっ!? やだぁ、それ聞いちゃうのぉ?」

「聞いてほしいくせに何言ってんだか……」

 春日さんを見て、エミリさんがボソッと突っ込む。

「ずっと聞きたかったから教えてくださいよ~」

 私がさらに煽ると、春日さんは「ふひひっ」と笑ったあと、神くんとのその後を話し始めた。

「出会ったあと、お互いの大体の情報は教え合ったのよ。それで、お互い結婚を意識する歳だし、面倒臭い家を抱えてるし、いっちょ真剣に付き合ってみようかという事になって」

 私はパチパチパチと小さく拍手する。

「私、年上だから嫌じゃないか凄く気になっていたんだけど、ユキくんは全然気にしていないみたいで良かった。それで彼、年下なのに色んな事がスマートなの。エスコートも自然にしてくれるし、…………私、生まれて初めて男性にご馳走になっちゃった……!」

 春日さんは両手をワナワナと震わせ、目を見開いて言う。

「面倒臭いこだわりを捨てられて、良かったじゃないですか」

 恵がボソッと突っ込む。

「ご馳走処女奪われちゃった……。ぐふっ」

 春日さんはニヤァ……と笑い、横を向いて不審な笑い方をする。

「その本性は、しばらく隠しておいたほうがいいわね。神くんの前で、どういうキャラを演じてるの?」

 エミリさんに尋ねられ、春日さんはクネクネしながら言う。

「やっぱり年上だし、頼れるお姉さんって思ってもらいたいけど、意外とユキくんってしっかりしてて、『甘える練習もしてみてくださいよ』って言ってくれて……。どぅふっ」

 春日さんはそこまで言い、盛大ににやつく。

 その時、せいろに入った三種の点心が運ばれてきて、私たちは「わー」と歓声を上げて小さく拍手する。

「うまっ、おいしっ、うみゃー……」

 彩りも綺麗な点心をハフハフと食べていると、恵にパシャッと写真を撮られた。

「篠宮さんに『おたくの猫がうみゃいうみゃいと言ってます』と伝えておこう」

「もー」

 少し照れると、エミリさんが気遣わしげに私たちを見てきた。

「春日さんの話の途中で悪いけど、二人は事件に巻き込まれてPTSDとか大丈夫なの?」

 尋ねられ、私と恵は顔を見合わせる。
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