部長と私の秘め事
「悪いけど、私もさっきエミリさんからチラッと聞いたわ。災難だったわね」

 春日さんは先ほどまでのテンションはどこかへ、真剣な表情で心配してくれる。

「……結局は元彼がやけくそになった訳なんですが、……どうしてこうなったのかなっていう思いもあって、なんか複雑です」

 私が溜め息混じりに言うと、恵が「ふんっ」と鼻息荒く言う。

「先に浮気して朱里をフッて、そのあと会社で何股もしておいて、浮気相手に捨てられたからって朱里とヨリを戻したいと思ってたんですよ? あり得なくないです?」

「ないわ~」

「ナシナシ。それで二人に暴力を振るったんでしょ? あり得ない! 最低。クズ」

 春日さんは語気荒く言ったあと、ハッとして付け加える。

「仮にも元彼なのにごめんね?」

「いえ、もう一年以上前にフラれて、そのあとは尊さんと出会って私はラブラブで幸せですし、彼はもう赤の他人です」

「そうよね。女の恋は上書き保存って言うし、今の彼氏が最高なら昔の彼氏なんてどうでもいいわね」

 春日さんはうんうんと頷き、点心を口に入れる。

「この場に男がいたら『そこまで言うの可哀想』って田村の肩を持つんでしょうかね。男は庇い合う習性があるように思えますけど、正直意味分かんないです」

 恵は不愉快そうに言う。

 学生時代、私と恵、昭人は三人きりで行動していたわけではなく、昭人の友達も交えて遊ぶ事もあった。

 昭人はどちらかというと大人びた格好付けだったけれど、その男友達は年相応に子供っぽい感じの人だった。

 私と恵はその当時から男子に媚びるタイプではなく、塩対応気味だったので、彼は結構な頻度で『酷くね?』と半笑いでウザ絡みしていた。

 恵はそういうノリを嫌っていたし、私は特になんとも思わずに別の事を考えていた。

 でも確かに男子同士妙な連帯感があるのは事実で、恵が昭人に『そういうの私いやだ』と言った時も、その男の子は昭人を庇っていたな……と今思いだした。

「そういう性質はあるかもしれないけど、まともな男性は悪い事をした人を庇ったりしないと思うわよ。むしろ本当の友達なら、『罪を償って戻って来い。待ってる』ぐらいは言うんじゃない?」

 エミリさんが言い、私たちは「そうですね」と頷く。

 次に運ばれてきた、お肉と野菜のXO醤炒めを食べつつ、恵は言った。

「これで私も朱里も、悪縁が切れて幸せになれると信じたいです。しばらく不幸は起こらないと思いたいと願うぐらい、酷い目に遭ったので」

「そうね。はい、えーんがちょ!」

 春日さんはいきなりそう言って、人差し指と中指を絡ませて笑う。

「あはは! 懐かしい! 私も!」

 私も真似をし、恵も同じ手をする。

「こりゃあ、今回の女子会のラストは、全員でえんがちょポーズするしかないかな」

 エミリさんが言い、私はクスクス笑う。

「尊さんに写真を見せたら、『変わったピースだな』って言いそう」

「……涼さんはそもそも、えんがちょとか知ってるのかな……」

 恵がぼやくように言った時、春日さんはキラーンと目を光らせて食いついた。

「恵ちゃんの彼氏、涼さんって言うの? 苗字は?」

「う……。……いや、あの……。源氏名みたいですが、三日月涼っていう人です」

 恵が渋々と答えると、春日さんは「えーっ!?」と声を上げて驚いた。

「もしかして三日月グループの〝不落の御曹司〟!?」

「なんですか、その二つ名」

 恵は真顔で突っ込む。

「いやいや、ちょっと界隈では有名なのよ。美形で何もかも持っている物凄いスーパーセレブなのに、女っ気がなくて『もしかしてゲイ?』って言われてる人」

「ぶふぉっ」

 私はその説明を聞き、噴き出し掛けて必死に堪える。

「……春日さんも狙ってたんですか?」

 恵がおずおずと言うと、彼女は「まっさかー! やっだー!」と手首のスナップを聞かせて宙を叩いた。

「あの人は怖いわぁ……。何度か話した事があるけど、お腹の底が知れなくて怖い! 何重にも仮面を被って、決して本心を見せない魔人みたいな人よ。私そういう化け物とやり合う胆力ないのよ……、か弱いから……」

 そこまで言ったあと、春日さんはハッと恵を見てフォローする。

「ごっ、ごめんね! お付き合いしているのよね。あなたの三日月涼はどこから?」

「ぶふぉおっ!」

 春日さんが風邪薬のCMみたいに言うものだから、私たち三人は盛大に噴き出してしまった。

 笑っているところで次の料理が出され、次はスッポンと干し貝柱、フカヒレのスープだ。

 スッポンスープって飲んだ事がないので恐る恐るだったけれど、意外とクセがなく普通の美味しいお出汁のスープみたいだ。

 少しとろみがあって熱いので、私はフウフウ冷ましながら飲んだ。

 恵はスープを一口飲んだあと、照れながら話し始める。
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