部長と私の秘め事
「……別に、本当に大した事はないのよウチは。付き合いが長いからラブラブ期間も過ぎちゃってるし、デートしてもすでに熟年カップルみたいな空気感を醸し出しているし……」
「それが聞きたいんじゃないですか」
恵、ナイスアシスト。
エミリさんは「うーん……」と考え込み、溜め息をつく。
「本当に話す事がないのよ。朝起きて一緒に動画を見ながら体操するでしょ? で、一緒にご飯作って、一緒に出社して。仕事もずっと一緒。接待で食事やらあっても同行するから浮気の心配もないし、帰ったあとも風磨さんはチマチマとプラモデルを作ってるから、基本的に外出しない。……私から誘って動物園や大きい公園の散歩に誘って一緒に行くとか、ドライブとか、キャンプに行く事もあるけど、基本的に逆らわず同行してくれて、一緒に楽しんでくれる。夜は週に二回ぐらい。……そんな感じよ? 特に私の話は面白くないのよ」
「憧れの夫婦像じゃないですか」
私がニコニコして拍手すると、恵が「まだ結婚してないけどね」と突っ込む。
「恵ちゃんは? さっき話が途中だったじゃない」
さっきオフサイドだったからか、エミリさんが的確なパスを渡してくる。
「そうそう! 恵は一番大活躍したんだから、報告しないと! 今やトップストライカーだよ!?」
「何の話をしてんの……」
恵は呆れ顔で私を見たあと、大きな溜め息をついて腕組みをする。
エミリさんもだけど、喋り渋りをする人って、どうして皆腕組みをするのか……。
「……正直、付き合い始めだから、まだそんなに話せる事はないんですよね……」
「え……、エッチ……した?」
春日さんは真っ赤になり、ニヤニヤしながら尋ねてくる。小学生男子か!
そして恵も正直なもんだから、そっぽを向いて赤面している。
「したんだー! フッフゥー!」
春日さんは一気にご機嫌になり、両手の人差し指で天井をツンツンして喜ぶ。
デザートは数種類の中から選べるようになっていて、私は杏仁豆腐にした。
「……ど、どうだったの? 恵ちゃんってお付き合いした事なかったんでしょ?」
デザートをつつきながらも春日さんは執拗に質問し、恵は食べる事に集中してやり過ごそうとしている。
けれど、ある程度食べてから溜め息混じりに言った。
「……さっきも言った通り、凄く優しいですよ。こっちが初めてだって事を忘れるぐらいでした。……多分、涼さんとならいい関係を築いていけるんじゃ……と思ってます。……でも、だからこそ大切に過ごしていきたいっていうか、きっと私の人生に一回しか訪れない大きな幸運だから、しっかり向き合わなきゃって思います」
そう言った恵は少し思い詰めた表情をしていて、佳苗さんからアドバイスは受けていたものの、やっぱり当事者としては彼女ほど達観して考えられないんだろう。
気持ちは物凄く分かる。
佳苗さんは自立した素敵な女性の考えを持っているけれど、私たちはまだ彼女ほどしっかり稼げていない。
もしも尊さんの手を放してしまったら、大きな喪失感を抱えて働くどころじゃなくなってしまうと思う。
秘書として側にいるのも叶わなくなり、他部署に異動になるか、最悪退社。
彼ほど素敵な人はいないと分かっているからこそ、次の恋愛なんて考えられない。
恵の気持ちが分かったのか、春日さんは茶化すのをやめて真剣に返事をする。
「分かるわ。真剣にお付き合いしたいからこそ、色々慎重になっちゃうわよね。でも楽しんでいかない? 『これをやったら嫌われるかも』ってビクビクしていたら、きっと三日月さんは悲しむと思う。それに彼はそんなに小さい男じゃないと思うのよね。自分が全力で愛せる女性を探すため、今までずっと待っていた訳でしょ? それでやっと恵ちゃんと出会って『よし! 全力で愛すぞ!』ってなったんだから、恐れる事はないと思うのよね」
「私も同意見。仕事柄、経営者とか富裕層とお近づきになる事が多いけど、彼らは無駄な事をしないわ。時間だけは買えないって分かってるから、一部の人を覗き、遊びで女性と付き合って評判を落とすとか、汚い別れ方なんてしないわけ。頭のいい経営者って自分の損になる選択肢を作らないのよね。相手に『どっちがいい?』って選ばせる時も、結局はどちらも自分の得になる選択肢だった……って事が多い」
エミリさんの話を聞き、私は「涼さんならやりかねない……」と頷く。
「恵ちゃんには悪いけど、遊ぼうと思えばもっと適役がいたと思うわよ」
春日さんに言われ、恵は「そうですね」と頷く。
私にとって恵は何物にも代えがたい存在だけど、彼女は自分の事をごく普通の一般女性と認識している。
私も尊さんを相手にすると似た気持ちになるので、とても分かる。
だからこそ、彼らみたいな何でも兼ね揃えた男性なら、自分よりもっと美人で頭が良くて、お色気ムンムンな女性との出会いがあったに違いないと確信する。
けど、春日さんとエミリさんが言ってくれたように、そういう女性たちを選ばずに自分を選んでくれたんだから、その気持ちを信じなきゃ……と思う。
恵は少し黙って何か考えていたけれど、やがて「うん」と頷いてデザートを一口食べた。
「それが聞きたいんじゃないですか」
恵、ナイスアシスト。
エミリさんは「うーん……」と考え込み、溜め息をつく。
「本当に話す事がないのよ。朝起きて一緒に動画を見ながら体操するでしょ? で、一緒にご飯作って、一緒に出社して。仕事もずっと一緒。接待で食事やらあっても同行するから浮気の心配もないし、帰ったあとも風磨さんはチマチマとプラモデルを作ってるから、基本的に外出しない。……私から誘って動物園や大きい公園の散歩に誘って一緒に行くとか、ドライブとか、キャンプに行く事もあるけど、基本的に逆らわず同行してくれて、一緒に楽しんでくれる。夜は週に二回ぐらい。……そんな感じよ? 特に私の話は面白くないのよ」
「憧れの夫婦像じゃないですか」
私がニコニコして拍手すると、恵が「まだ結婚してないけどね」と突っ込む。
「恵ちゃんは? さっき話が途中だったじゃない」
さっきオフサイドだったからか、エミリさんが的確なパスを渡してくる。
「そうそう! 恵は一番大活躍したんだから、報告しないと! 今やトップストライカーだよ!?」
「何の話をしてんの……」
恵は呆れ顔で私を見たあと、大きな溜め息をついて腕組みをする。
エミリさんもだけど、喋り渋りをする人って、どうして皆腕組みをするのか……。
「……正直、付き合い始めだから、まだそんなに話せる事はないんですよね……」
「え……、エッチ……した?」
春日さんは真っ赤になり、ニヤニヤしながら尋ねてくる。小学生男子か!
そして恵も正直なもんだから、そっぽを向いて赤面している。
「したんだー! フッフゥー!」
春日さんは一気にご機嫌になり、両手の人差し指で天井をツンツンして喜ぶ。
デザートは数種類の中から選べるようになっていて、私は杏仁豆腐にした。
「……ど、どうだったの? 恵ちゃんってお付き合いした事なかったんでしょ?」
デザートをつつきながらも春日さんは執拗に質問し、恵は食べる事に集中してやり過ごそうとしている。
けれど、ある程度食べてから溜め息混じりに言った。
「……さっきも言った通り、凄く優しいですよ。こっちが初めてだって事を忘れるぐらいでした。……多分、涼さんとならいい関係を築いていけるんじゃ……と思ってます。……でも、だからこそ大切に過ごしていきたいっていうか、きっと私の人生に一回しか訪れない大きな幸運だから、しっかり向き合わなきゃって思います」
そう言った恵は少し思い詰めた表情をしていて、佳苗さんからアドバイスは受けていたものの、やっぱり当事者としては彼女ほど達観して考えられないんだろう。
気持ちは物凄く分かる。
佳苗さんは自立した素敵な女性の考えを持っているけれど、私たちはまだ彼女ほどしっかり稼げていない。
もしも尊さんの手を放してしまったら、大きな喪失感を抱えて働くどころじゃなくなってしまうと思う。
秘書として側にいるのも叶わなくなり、他部署に異動になるか、最悪退社。
彼ほど素敵な人はいないと分かっているからこそ、次の恋愛なんて考えられない。
恵の気持ちが分かったのか、春日さんは茶化すのをやめて真剣に返事をする。
「分かるわ。真剣にお付き合いしたいからこそ、色々慎重になっちゃうわよね。でも楽しんでいかない? 『これをやったら嫌われるかも』ってビクビクしていたら、きっと三日月さんは悲しむと思う。それに彼はそんなに小さい男じゃないと思うのよね。自分が全力で愛せる女性を探すため、今までずっと待っていた訳でしょ? それでやっと恵ちゃんと出会って『よし! 全力で愛すぞ!』ってなったんだから、恐れる事はないと思うのよね」
「私も同意見。仕事柄、経営者とか富裕層とお近づきになる事が多いけど、彼らは無駄な事をしないわ。時間だけは買えないって分かってるから、一部の人を覗き、遊びで女性と付き合って評判を落とすとか、汚い別れ方なんてしないわけ。頭のいい経営者って自分の損になる選択肢を作らないのよね。相手に『どっちがいい?』って選ばせる時も、結局はどちらも自分の得になる選択肢だった……って事が多い」
エミリさんの話を聞き、私は「涼さんならやりかねない……」と頷く。
「恵ちゃんには悪いけど、遊ぼうと思えばもっと適役がいたと思うわよ」
春日さんに言われ、恵は「そうですね」と頷く。
私にとって恵は何物にも代えがたい存在だけど、彼女は自分の事をごく普通の一般女性と認識している。
私も尊さんを相手にすると似た気持ちになるので、とても分かる。
だからこそ、彼らみたいな何でも兼ね揃えた男性なら、自分よりもっと美人で頭が良くて、お色気ムンムンな女性との出会いがあったに違いないと確信する。
けど、春日さんとエミリさんが言ってくれたように、そういう女性たちを選ばずに自分を選んでくれたんだから、その気持ちを信じなきゃ……と思う。
恵は少し黙って何か考えていたけれど、やがて「うん」と頷いてデザートを一口食べた。