部長と私の秘め事
「頑張ってみます。初恋で初めてまともに付き合う人で、分からない事ばっかりだけど、涼さんに相談して、同性に聞いたほうがいい事はこの面子に聞いて、……なんとか手探りでやっていきたいと思います」

「うん、その意気!」

 私はグッと両手で拳を握り、恵に笑いかける。

 彼女は笑い返したあと、「あ」と声を漏らして私を見る。

「そういえば、おばさんに事件を報告しに行ったの?」

「ああ、うん。事件があった週末に、尊さんと一緒に実家に行った」

 私は当時の事を思いだし、溜め息をつく。

「……まぁ、ちょっと心配させちゃったけど、尊さんがしっかり事情を話して『もうこんな事が起こらないよう、徹底して守ります』って言ってくれて、なんとか落ち着いたかな」

「それなら良かったけど」

「母って色々見透かしていたみたいで、私が昭人と付き合っていた当時、全然幸せそうじゃなかったのは覚えていたんだって。だから今回みたいな事が起こっても、『まさか昭人くんが……』みたいな反応はなくて、考えられる未来の一つではあったみたい。……まぁ、付き合っていた当時、あまり昭人の事を母に言わなかったから、あっちも必要以上に首を突っ込まなかったみたいだけど」

「そういうのあるわよねぇ」

 エミリさんはうんうんと頷く。

「私もダメンズメーカーしてしまってムシャクシャしている時、母に見透かされて『ジム行ってきなさい』って言われたわ……」

 春日さんが遠い目をして言う。

「母って偉大よね~。子供の頃は『口出ししてうるさいな』って思っていたけど、あとから思うと母が懸念してた事って、ほぼすべて当たっていたのよね。……人生経験からでしょうねぇ」

 エミリさんは何度も頷きつつ言う。

「お二人のお母さんってどういう感じの人ですか? うちは割とおっとりとした感じで、恵のところはシニアモデルをやってる、自立したいい女です」

「あらー! カッコイイ!」

 春日さんは私の説明を聞いて小さく拍手をする。

 先に答えたのはエミリさんだ。

「うちの母はあっけらかんとした豪傑ね。……実は小規模ながら会社の経営をしていて、空間デザイナーなの。イベントスペースとか、店舗の内装を手がけてる」

「凄いじゃない! エミリさんの色彩センスがいいの、理解できたわ」

 春日さんは目を見開いて賛嘆の声を上げる。

「私は母から断片的に教わったり、カラーコーディネートの真似事をしてるだけで、本職じゃないから全然よ」

「でもセンスはあると思う!」

 春日さんはそう言って、ビシッとサムズアップする。

 エミリさんは微笑んで頷き、続きを話す。

「アーティスト気質でちょっと気難しいところはあるけど、基本的に行動派で、私が怜香さんの事で悩んでいた時期も『悩むより行動しろ』って言ってたわ……。ある意味鬼」

「ああ……」

 私は怜香さんを相手にした時の感情を思い出し、「そうアドバイスされても難しいよな……」と同意して頷く。

 あの人は……、あのモンスターは、何をどう行動してもいやみを言っただろうしな……。

 そのうち、エミリさんと風磨さんのなれそめや、どうやって怜香さんと戦ってきたかも聞きたい。

 次は春日さんが話し始めた。

「私の母はねぇ~……、……んー…………。…………魔女」

 魔女と聞いて私は「え?」となりつつも、何となく春日さんの母なら頷けると思ってしまった。

「まず、いわゆる美魔女でしょ? エステや美容医療にも通ってるから、本当に年齢不詳の魔女なのよ。それであの歳になっても若い男から言い寄られてるから……、うわぁ……、本当に魔女。いや、浮気はしてないんだけどね」

 春日さんはそう言って、両手で二の腕をさする。

「それに人生経験も豊富だから、私があれこれやって失敗してるのを達観した目で見ていて……、ああ、腹立つ。そういう所も魔女っぽいのよ」

 母を前にしてはさすがの春日さんも娘になってしまうのか、彼女は渋い顔をして腕組みをする。

「こうやって話を聞くと、結構皆さんパワフルなお母様ですね。佳苗さんもだし」

 私がボソッと感想を述べると、彼女達は顔を見合わせる。

「……パワフルは否めないわね。やっぱり能動的に色々やっている姿を見てきたから、私も『母のように自立した女性になろう』と思えたし」

 エミリさんが言い、春日さんも頷く。

「うちの母、生きてるのが楽しそうなのよね。家事は基本的に家政婦さんにお任せしてるけど、自分でも料理をするし、物作りもするし音楽もやる。旅行にも頻繁に行くし、『なんでも体験してみたい』が口癖なの。……我が母ながら尊敬したのは、人生ノートを作って、何歳までに何をやるって目標を作ってる事。……なかなかできないわね」

「それは凄いですね」

 私は小さく拍手をする。
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