部長と私の秘め事
「肌と唇を密着させて、真空状態にして強く吸う。それだけ。もしつかなかったら、何回かトライするとか、俺みたいに歯を少し立てるとか」

「……やってみます」

 私は手首を縛られたまま、涼さんの首に腕を回し彼の首筋に顔を近づける。

(なるべく服に隠れそうな所……)

 上のほうは見えやすそうだし、下のほうが面積があってやりやすそうだ。

「ん……」

 私は、はぷ、と彼の口筋に唇を当て、思いきり吸ってみた。

 最初は上手く吸えたと思っていたけれど――。

 ちゅううううう……、ちゅーぅううぅう……。

 唇の隙間から空気が入ったのか、なんとも間抜けな音が漏れ、私は真っ赤になって顔を離す。

「たっ、たんま! 今のナシ!」

 慌てて涼さんの首にかけた腕を外そうとしたけれど、彼は私をグッと抱き締めて離さない。

「はい、リトライ」

 そして笑顔で言うので、思わずポカリと彼の肩を叩いてしまった。

「スパルタ……」

 そのあと、羞恥に見舞われながらも何度かチャレンジし、涼さんの首筋にキスマークをつける事に成功した。

 少し酸欠になった私がハーハーしていると、涼さんは脇に置いたスーツのポケットから手鏡を出し、首元を確認して満足そうに頷いていた。

 その手鏡がシャネルなものだからビックリしたけれど、片方が拡大鏡になっているから、使いやすいんだそうだ。

「我が儘を聞いてくれてありがとう。じゃあ、お礼に沢山気持ち良くしてあげようね」

 涼さんがとろけるような笑顔で言い、私は顔を引きつらせて後ずさる。

「いっ、いや……っ、満足したならそれで……」

 先ほどの愛撫の流れがキスマークに移ったので、それはそれでラッキーと思っていたけれど、忘れていなかったようだ。……当たり前といえばそうなんだけど。

「俺は恩を受けたら千倍にして返すタイプだから」

「重すぎる」

 思わず突っ込みを入れたけれど、「まぁまぁ」と宥められ、抱き上げられるとベッドルームにつれて行かれた。

 大きなベッドに横たえられたあと、涼さんはまた私の頭をヨシヨシと撫でつつ、丁寧にあちこちキスをしてくる。

「ん……っ、ん……」

 頬や首筋にキスをされるとくすぐったく、思わず首を竦めてしまう。

 涼さんは雪が降るような優しいキスをしつつも、途中で少し強めに吸ってくる。

「あの……、キスマーク増やさないでくださいね?」

「大丈夫だよ。さっきみたいに歯を立ててないだろ?」

「ん……」

 言われて安心するものの、スリップ越しに胸を揉まれて艶冶な息を漏らしてしまう。

 モゾモゾと脚をすりあわせていると、涼さんは私の太腿を左右に広げてその間に腰を入れてきた。

「……っあの! ……もうちょっと暗くしてほしいです」

 恥ずかしくて要望を伝えると、涼さんはフェリシアに命令してベッドルームの照明を半分の明るさにした。

 この部屋は大きなメインのライトはなく、壁際に埋まっている間接照明や、スタンドライト、枕元のライトなどの複数からなっている。

 どれもフェリシアに対応しているようで、明るさの程度も電球色、昼白色、昼光色など、色味も調節できるらしい。

「なんなら、ムードのある曲でもかける?」

 悪戯っぽく言われて「いや、そこまでは」と拒否したけど、涼さんは「フェリシア、ベン・ウェブスターをかけて」と命令し、すると雰囲気のあるジャズが流れ始めた。

(は……、恥ずかしい……っ)

 カーッと赤面すると、涼さんは私の額にキスをしてから微笑む。

「やっぱり環境から整えてから、大切にメインディッシュをいただかないとね」

 涼さんは悪戯っぽく囁いたあと、私の唇にキスをし、ねっとりと舐めながら再びスリップの肩紐を左右に落とした。

「綺麗な肌……。それにいい匂いがする」

 彼は独り言のように呟き、再び首筋からデコルテへと丹念にキスをしていく。

 同時に太腿に這った手がゆっくりと上下し、指先が触れるか触れないかのタッチに、私はゾクゾクして顔をあおのかせた。

 思い出すと、スリップの下は何も着ていない。

(どうしよう……、始まっちゃう……)

 一生懸命引き延ばしたのに、とうとう二度目のアレが始まってしまう。

 緊張していると、それを感じた涼さんが尋ねてきた。

「怖い?」
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