部長と私の秘め事
「……朱里ほど俺を理解している女はいないな。……確かに念のためを思ってゴムは持ってきてるけど、……朱里が言う通り、他の女の事でムシャクシャした気持ちでお前を抱きたくない。朱里の事を愛しているからこそ、抱く時はお前の事だけ考えて、ゆっくり丁寧に愛撫して、行為に没頭したいんだ。つらい現実を忘れるために抱くなんて、オナホみたいな扱いをしたくない」
尊さんの心からの言葉を聞き、私は少し笑うと冗談を言う。
「ラブドール朱里ちゃん」
「おいおい……」
呆れたように笑った尊さんにつられ、私も小さく笑う。
良かった。
笑った事で少しいつもの自分に戻れた気がする。
ムードがないと言われても、これがいつもの私たちだ。
感情に呑まれて勢いのまま行動せず、愛し合う時はお互いに向き合う。
モヤモヤがある時は納得いくまで話し合って、セックスしなくたって気持ちを分け合う事はできる。
「私の事が好きで好きで、大切で堪らないの、知ってますよ」
「朱里はまだ、本当の俺の愛の重さを千分の一も分かってない」
尊さんは冗談めかして言い、私の鼻を摘まんでクニクニと左右に揺さぶる。
「〝本当の尊さん〟に第三の目が開いて、翼が出て来ても好きですからね」
さらに冗談を言うと、彼は声もなく笑い崩れた。
笑いが収まった頃、私はそろりと尋ねた。
「……困らせる事を聞いてもいいですか?」
「何でも答えるよ」
「凜さんと付き合っていた時の事が知りたいです。どういうデートをしていたかとか、どんな物を食べて、どんな会話をしたかとか」
「んー……」
尊さんは私の頬をもちもちと弄りながら、静かに息を吐いてから語り始めた。
「当時、仕事で覚える事が多くて大変だったし、俺は篠宮ホールディングスに入社する事を諦めるように受け入れたものの、まだ反発心で一杯だった。〝仕事〟である以上、無責任な事はしないけど、いつもムッツリと黙って怒ったような雰囲気を発していて、同僚には『話しかけづらい』って思われていただろうな」
分かる気がした私は、コクンと頷いた。
「入社してすぐ、新入社員がコンビになって行動するようになった。そのほうが指導役も効率がいいんじゃないか、って方針からだ。それで偶然、夏目さんとコンビを組む事になった。彼女は就職のために上京して、まだ東京に馴染んでいない感じだった。たまに方言が出る事もあったし、イントネーションもちっと違う時もあった。それで『珍しいな。どこの出身だろう』と興味を持った」
確かに、同僚に地方色の強い人がいたら、その人の郷里が気になるかもしれない。
「俺が〝事情〟でとっつきにくい性格をしているのに対して、夏目さんはやる気に満ちてハキハキした元気な性格だった。……最初に飲みに誘ってきたのは、彼女からだ。『仕事について相談したい』って言われたから、コンビで責任を被る以上、きちんと打ち合わせをしたほうがいいと思って、勉強会みたいな形で隔週で食事や飲み会に行く事にした」
そういう流れになるのは自然だろう。
私も積極的に「同期と仲良くしたい」と思わなくても、仕事でミスをしないため、同期で打ち合わせをするなら参加したと思うから。
「お互いぎこちなく、よそよそしい空気がある中、夏目さんは一生懸命仲良くなろうとしてくれていた。彼女は積極的に話しかけ、プライベートな事も教えてくれた。最初は『仕事と関係ねーだろ』と思ってたけど、聞いているうちに彼女の為人を知って、少しずつ気を許したんだと思う」
「……割と、凜さんに対してもツンツンミコのままだったんですね。最初から意気投合したのかと思ってました」
「……当時の俺はダークモードだったからな。そう簡単に人に気を許さないんだよ。涼でさえ、四年間大学が一緒で、ずっと付きまとうように話しかけてきたから、絆されて仲よくなった感じだ。俺を『反応のないつまんねー奴』と思って関わるのをやめていたら、今頃あいつと親友になっていないと思う」
「努力の人……」
思わず呟くと、彼はクスッと笑って息を吐き、続きを語る。
「そうやって少しずつ夏目さんと仲良くなっていった。当時の上司がちょっとやな奴だった事もあって、お互い愚痴を言うポイントは同じだった。同じ不満を持つと、人間って絆が深まるだろ? 酒飲んで酔っ払った俺は、怜香や自分の境遇への恨みも込めて、上司の悪口を言う事でスッキリしていた。……距離が近くなるほど、夏目さんは〝女子〟の仮面を外して素の顔を見せてきた。もともとあまり女子らしさを気にするタイプじゃなかったみたいで、座敷で胡座をかくし、男の前でもげっぷするし、あまりにがさつで呆れたな」
「……でも、そこが魅力的だったんでしょ?」
すると尊さんは小さく笑い、私の髪の毛を弄りながら言った。
尊さんの心からの言葉を聞き、私は少し笑うと冗談を言う。
「ラブドール朱里ちゃん」
「おいおい……」
呆れたように笑った尊さんにつられ、私も小さく笑う。
良かった。
笑った事で少しいつもの自分に戻れた気がする。
ムードがないと言われても、これがいつもの私たちだ。
感情に呑まれて勢いのまま行動せず、愛し合う時はお互いに向き合う。
モヤモヤがある時は納得いくまで話し合って、セックスしなくたって気持ちを分け合う事はできる。
「私の事が好きで好きで、大切で堪らないの、知ってますよ」
「朱里はまだ、本当の俺の愛の重さを千分の一も分かってない」
尊さんは冗談めかして言い、私の鼻を摘まんでクニクニと左右に揺さぶる。
「〝本当の尊さん〟に第三の目が開いて、翼が出て来ても好きですからね」
さらに冗談を言うと、彼は声もなく笑い崩れた。
笑いが収まった頃、私はそろりと尋ねた。
「……困らせる事を聞いてもいいですか?」
「何でも答えるよ」
「凜さんと付き合っていた時の事が知りたいです。どういうデートをしていたかとか、どんな物を食べて、どんな会話をしたかとか」
「んー……」
尊さんは私の頬をもちもちと弄りながら、静かに息を吐いてから語り始めた。
「当時、仕事で覚える事が多くて大変だったし、俺は篠宮ホールディングスに入社する事を諦めるように受け入れたものの、まだ反発心で一杯だった。〝仕事〟である以上、無責任な事はしないけど、いつもムッツリと黙って怒ったような雰囲気を発していて、同僚には『話しかけづらい』って思われていただろうな」
分かる気がした私は、コクンと頷いた。
「入社してすぐ、新入社員がコンビになって行動するようになった。そのほうが指導役も効率がいいんじゃないか、って方針からだ。それで偶然、夏目さんとコンビを組む事になった。彼女は就職のために上京して、まだ東京に馴染んでいない感じだった。たまに方言が出る事もあったし、イントネーションもちっと違う時もあった。それで『珍しいな。どこの出身だろう』と興味を持った」
確かに、同僚に地方色の強い人がいたら、その人の郷里が気になるかもしれない。
「俺が〝事情〟でとっつきにくい性格をしているのに対して、夏目さんはやる気に満ちてハキハキした元気な性格だった。……最初に飲みに誘ってきたのは、彼女からだ。『仕事について相談したい』って言われたから、コンビで責任を被る以上、きちんと打ち合わせをしたほうがいいと思って、勉強会みたいな形で隔週で食事や飲み会に行く事にした」
そういう流れになるのは自然だろう。
私も積極的に「同期と仲良くしたい」と思わなくても、仕事でミスをしないため、同期で打ち合わせをするなら参加したと思うから。
「お互いぎこちなく、よそよそしい空気がある中、夏目さんは一生懸命仲良くなろうとしてくれていた。彼女は積極的に話しかけ、プライベートな事も教えてくれた。最初は『仕事と関係ねーだろ』と思ってたけど、聞いているうちに彼女の為人を知って、少しずつ気を許したんだと思う」
「……割と、凜さんに対してもツンツンミコのままだったんですね。最初から意気投合したのかと思ってました」
「……当時の俺はダークモードだったからな。そう簡単に人に気を許さないんだよ。涼でさえ、四年間大学が一緒で、ずっと付きまとうように話しかけてきたから、絆されて仲よくなった感じだ。俺を『反応のないつまんねー奴』と思って関わるのをやめていたら、今頃あいつと親友になっていないと思う」
「努力の人……」
思わず呟くと、彼はクスッと笑って息を吐き、続きを語る。
「そうやって少しずつ夏目さんと仲良くなっていった。当時の上司がちょっとやな奴だった事もあって、お互い愚痴を言うポイントは同じだった。同じ不満を持つと、人間って絆が深まるだろ? 酒飲んで酔っ払った俺は、怜香や自分の境遇への恨みも込めて、上司の悪口を言う事でスッキリしていた。……距離が近くなるほど、夏目さんは〝女子〟の仮面を外して素の顔を見せてきた。もともとあまり女子らしさを気にするタイプじゃなかったみたいで、座敷で胡座をかくし、男の前でもげっぷするし、あまりにがさつで呆れたな」
「……でも、そこが魅力的だったんでしょ?」
すると尊さんは小さく笑い、私の髪の毛を弄りながら言った。