部長と私の秘め事
「思ってたより水がないですね」

「だな」

 もっとベッチョベチョかと思っていたけれど、地面が出ている所は意外と普通に歩ける。

「くぁー……、すご……、でっか……」

 歩いて行くにつれ、六十トンある大鳥居の大きさを思い知り、顔を上げる角度も変わっていく。

「ちょ、まだ鳥居の全貌が見える間に、記念写真撮りましょう」

「おう」

 私は自撮り棒を構え、尊さんと二人で大鳥居を背景にピースする。

「凄いですねぇ……。でっかぁ……」

「平清盛の時代に、こんなどでかいもんを、しかも木造で作るんだからすげぇよ」

 言ったあと、尊さんはチラッと腕時計を見た。

 時刻はいい感じにお昼過ぎになり、満たした小腹がまた空いている。

「よし、あなご飯いくか」

「よっしゃー!」

 私たちは大鳥居の周りをぐるっと一周したのち、西側出口の宝物館近くにあるあなごめし屋さんを目指した。





 お店は宝物館をすぎた所にあり、私たちは列に並ぶ。

 どうやらミシュランの一つ星を獲得した、一九〇〇年代創業の老舗らしい。

「私、神社とかについては尊さんほど調べてなかったんですけど、あなごめしは調べてたんですよ」

「分かる」

「そしたら……、『みこと屋』っていうお店を見つけて、気になって気になって……」

「だろうと思ってた。あっちも口コミサイトの評価良かったし、気になってたんだけどな」

「次回来たら、今度は『みこと屋』さんに行かないと」

 待合スペースは簡易的だけど日よけがあり、座っていられるからありがたい。

 お喋りしながら順番待ちをしていると、順番がまわって席に着く事ができた。

 お店の外観はこぢんまりとした雰囲気だけれど、中は純和風で中庭があるのがとても素敵だ。

 カウンター席や小上がりもあるけれど、幸いな事に私たちは中庭近くの丸テーブルに座る事ができた。

「なんかいいですね。目に涼しい」

「だな」

 メニューはとてもシンプルで、写真が載った大きな物はなく、テーブルに写真立てみたいな小さな文字だけのメニューがあり、メインのあなごめし一品のみだ。

 それに加えて小鉢などのサイドメニュー、飲み物が書いてあるだけ。

 その余計な物はおかず、シンプルにあなごめしだけでやっていくというスタイルが、とても格好良く思えた。

 私たちはそれぞれあなご丼を頼んだ上に、小鉢のあなごの肝をつつきあう事にする。

「わぁあ……」

 やがて運ばれてきたあなご丼を見て、私は感嘆の溜め息をつく。

 丼の中には、うっすらとタレを纏った白っぽいあなごが綺麗に整列している。

 うな重みたいに大きいのがドンとあるのかと思いきや、一口大にカットされたあなごが並んでいて、芸術作品みたいだ。

「すごーい……。綺麗……」

 私は店内に流れるラジオを聞きながら、お吸い物やお漬物も含めて写真を撮り、ついでにあなご丼を前にした尊さんも隠し撮りした。

 肝吸いは香りが良く、あなごはフワフワな上にタレがとても美味しい。

 あつあつご飯とのコンボが素晴らしく、私は夢中になってあなご丼を頬張った。

 最後にご飯を少しだけ残してお漬物と一緒に食べ、肝吸いを飲みきったあと、あなごの肝を食べる。

「んー!」

 コリコリしていて食感がいいし、味付けも絶妙に美味しい。

「おいふぃ……、ひあわへ……」

 顔をとろけさせていると、向かいから尊さんにパシャッと写真を撮られる。

「あっ、盗撮だ」

「合意の盗撮だよ」

「あとでチェキ代もらいますからね」

「腹がこなれたあと、商店街のコーヒー店でパフェ食べられるみたいだけど、どうだ? 俺もコーヒー豆買いたいし」

「手を打ちましょう」

 さすが尊さん、私の扱い方を分かってらっしゃる。
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