部長と私の秘め事
「墓はフェリーに乗った宮島口にあって、妊婦さんは臨月になったら島を出て出産して、昔は百日経ってから島に戻る事になっていたそうだ」
「ちなみに秋になったら紅葉が綺麗なんでしょうけど、別の土地も綺麗だと思うんです。どうしてここまでもみじ推しに?」
「弥山に登った時、伊藤博文の話をチラッとしたけど、彼は信仰心が厚くて何度も弥山に訪れていたらしい。で、茶屋でお茶を出してくれた女の子の手が、紅葉みたいに可愛いって言ったところから始まったんだとか」
「へぇ……、ふーん……」
私は頷きながら、自分の手をパーにして開く。
「そのサイズの饅頭は売ってないぞ」
「想像しただけですって」
お見通しミコに、私は唇を尖らせる。
「あと、気づいてると思うけど、信号もないしゴミ箱もない」
「信号がないのは、コンパクトに観光できるから?」
「まぁ、多分そうだろうな。あちこち歩いて俺も分かったけど、人が大勢いるし道も狭いし、車移動には向いてない。ゴミ箱がないのは鹿が食わんようにらしい。ちなみにトイレが押して入るんじゃなくて、引いて入るようになってるのも、鹿対策」
「なるほどー……。……で、いよいよ到着ですね」
神妙な面持ちで見た先には二本の柱――注連石があり、その上部には割とピーンとしめ縄が張ってある。
周囲を写真に収めたあと、昇殿料三百円を払って、いざ参拝だ。
朱塗りの東廻廊入り口に差し掛かると、「いよいよ厳島神社だ!」という気持ちになって気持ちが引き締まる。
厳島神社は大雑把にMの字に参拝していくコースになり、左下からスタートして東廻廊を通り、真ん中の谷の上の部分に拝殿、本殿がある。
もっと言えばMの谷になっている先端の先に海があり、大鳥居を望める感じなのだ。
そして右手側に抜けると、西廻廊となる。
廻廊の床は細長い横板がズラーッと並んでいるけれど、高潮の対策や波の勢いを弱めるために、板の間の隙間を広くとっていて、それを〝目透し〟と言うらしい。
「尊さん、ピンヒール履いて埋まってください」
「やだよ。嫌がらせか」
私たちはそんな会話をしつつ、廻廊を進む。
外側には屋根から灯籠がぶら下がっているけれど、最初は毛利元就が奉納したんだとか。
でも潮風で腐食してしまって、今は青銅製の物に変えられたそうだ。
東廻廊を進んですぐ左手には、国宝の客神社の拝殿、その奥に本殿がある。
廻廊を挟んで向かい側は、祓殿――お祓いを受ける場所だ。
客神社は複数の男性の神様を祀っていて、厳島神社のメインの神様ではなく、深い関わりのある神様を祀る摂社という神社だ。
大きな神社だと境内に別の小さめのお社が複数あるけれど、摂社の他にも、まったく関係のない神様を祀っている末社もある。
「おお……、これが御本社……」
厳島神社の御本社は手前に祓殿があり、拝殿――参拝客がお参りする場所があり、その奥に幣殿――参拝者がお供え物を捧げる場所があり、その奥に本殿がある。
祀っているのは宗像三女神で、〝道〟の最高神として海上運航、交通安全の御利益があるらしい。
三柱のうち一柱、市杵島姫命は弁財天と同視され、金運、美、芸能の御利益もあるそうだ。
〝厳島神社〟と呼ばれる神社は全国に五百社あるけれど、ここが勿論総本社で、昔は伊都岐島神社と呼ばれていて、市杵島姫命の名前が変化してそう呼ばれるようになったとか。
「……なんか、圧巻ですね。普通の神社ってここまで〝中〟にいる感覚がないですから」
私は少し控えめの声量で言う。
「確かに、普通の神社は外に拝殿があって、お参りしたら終わりだもんな。でもここは朱塗りの柱に囲まれて、神様の家にお邪魔してる感覚が強い。屋根の下っていうのもあるのかも」
私たちはお参りしたあとに言い、失礼にならないようにちょっと角度をつけた所から写真を撮る。
拝殿の外――屋根の外に出ると高舞台があり、その向こうに大鳥居が見える。
「ここで、駅前にいた蘭陵王の舞楽とかを奉納するんだよ」
「へぇ……」
「最初に、大阪の四天王寺から移ってきたって言っただろ? 日本三舞台ってあって、一つが大阪四天王寺の石舞台、もう一つが大阪住吉大社の石舞台、で、もう一つがここ厳島神社の板舞台の、高舞台と平舞台なんだ」
「凄いですね。ここで見られる舞楽って、めっちゃ貴重そう」
「一月は松の内が狙い目みたいだ。他の月も月一ぐらいでやってるのかな。詳細は分からんけど」
今、私たちは中央部分にいて、左右を見ると先ほどの客神社や五重塔が見えたり、西廻廊のほうには能舞台も見える。
西廻廊を歩いて行くと、大きな朱塗り――正確には丹塗りというらしい――の、太鼓橋――反橋が見える。
日本庭園の中に小さめのやつがあるけど、そんな規模じゃなくて、ミコペディアが言うには約二十四メートルあるそうだ。
もとはこちらのほうが入り口だった西側から出て、私たちはとうとう大鳥居へ向かう。
「ちなみに秋になったら紅葉が綺麗なんでしょうけど、別の土地も綺麗だと思うんです。どうしてここまでもみじ推しに?」
「弥山に登った時、伊藤博文の話をチラッとしたけど、彼は信仰心が厚くて何度も弥山に訪れていたらしい。で、茶屋でお茶を出してくれた女の子の手が、紅葉みたいに可愛いって言ったところから始まったんだとか」
「へぇ……、ふーん……」
私は頷きながら、自分の手をパーにして開く。
「そのサイズの饅頭は売ってないぞ」
「想像しただけですって」
お見通しミコに、私は唇を尖らせる。
「あと、気づいてると思うけど、信号もないしゴミ箱もない」
「信号がないのは、コンパクトに観光できるから?」
「まぁ、多分そうだろうな。あちこち歩いて俺も分かったけど、人が大勢いるし道も狭いし、車移動には向いてない。ゴミ箱がないのは鹿が食わんようにらしい。ちなみにトイレが押して入るんじゃなくて、引いて入るようになってるのも、鹿対策」
「なるほどー……。……で、いよいよ到着ですね」
神妙な面持ちで見た先には二本の柱――注連石があり、その上部には割とピーンとしめ縄が張ってある。
周囲を写真に収めたあと、昇殿料三百円を払って、いざ参拝だ。
朱塗りの東廻廊入り口に差し掛かると、「いよいよ厳島神社だ!」という気持ちになって気持ちが引き締まる。
厳島神社は大雑把にMの字に参拝していくコースになり、左下からスタートして東廻廊を通り、真ん中の谷の上の部分に拝殿、本殿がある。
もっと言えばMの谷になっている先端の先に海があり、大鳥居を望める感じなのだ。
そして右手側に抜けると、西廻廊となる。
廻廊の床は細長い横板がズラーッと並んでいるけれど、高潮の対策や波の勢いを弱めるために、板の間の隙間を広くとっていて、それを〝目透し〟と言うらしい。
「尊さん、ピンヒール履いて埋まってください」
「やだよ。嫌がらせか」
私たちはそんな会話をしつつ、廻廊を進む。
外側には屋根から灯籠がぶら下がっているけれど、最初は毛利元就が奉納したんだとか。
でも潮風で腐食してしまって、今は青銅製の物に変えられたそうだ。
東廻廊を進んですぐ左手には、国宝の客神社の拝殿、その奥に本殿がある。
廻廊を挟んで向かい側は、祓殿――お祓いを受ける場所だ。
客神社は複数の男性の神様を祀っていて、厳島神社のメインの神様ではなく、深い関わりのある神様を祀る摂社という神社だ。
大きな神社だと境内に別の小さめのお社が複数あるけれど、摂社の他にも、まったく関係のない神様を祀っている末社もある。
「おお……、これが御本社……」
厳島神社の御本社は手前に祓殿があり、拝殿――参拝客がお参りする場所があり、その奥に幣殿――参拝者がお供え物を捧げる場所があり、その奥に本殿がある。
祀っているのは宗像三女神で、〝道〟の最高神として海上運航、交通安全の御利益があるらしい。
三柱のうち一柱、市杵島姫命は弁財天と同視され、金運、美、芸能の御利益もあるそうだ。
〝厳島神社〟と呼ばれる神社は全国に五百社あるけれど、ここが勿論総本社で、昔は伊都岐島神社と呼ばれていて、市杵島姫命の名前が変化してそう呼ばれるようになったとか。
「……なんか、圧巻ですね。普通の神社ってここまで〝中〟にいる感覚がないですから」
私は少し控えめの声量で言う。
「確かに、普通の神社は外に拝殿があって、お参りしたら終わりだもんな。でもここは朱塗りの柱に囲まれて、神様の家にお邪魔してる感覚が強い。屋根の下っていうのもあるのかも」
私たちはお参りしたあとに言い、失礼にならないようにちょっと角度をつけた所から写真を撮る。
拝殿の外――屋根の外に出ると高舞台があり、その向こうに大鳥居が見える。
「ここで、駅前にいた蘭陵王の舞楽とかを奉納するんだよ」
「へぇ……」
「最初に、大阪の四天王寺から移ってきたって言っただろ? 日本三舞台ってあって、一つが大阪四天王寺の石舞台、もう一つが大阪住吉大社の石舞台、で、もう一つがここ厳島神社の板舞台の、高舞台と平舞台なんだ」
「凄いですね。ここで見られる舞楽って、めっちゃ貴重そう」
「一月は松の内が狙い目みたいだ。他の月も月一ぐらいでやってるのかな。詳細は分からんけど」
今、私たちは中央部分にいて、左右を見ると先ほどの客神社や五重塔が見えたり、西廻廊のほうには能舞台も見える。
西廻廊を歩いて行くと、大きな朱塗り――正確には丹塗りというらしい――の、太鼓橋――反橋が見える。
日本庭園の中に小さめのやつがあるけど、そんな規模じゃなくて、ミコペディアが言うには約二十四メートルあるそうだ。
もとはこちらのほうが入り口だった西側から出て、私たちはとうとう大鳥居へ向かう。