部長と私の秘め事
「えーと……、私と尊さんとで十個入り一箱でしょ。恵と涼さんの所にも、実家にも……」

 私はブツブツ言いながら箱を抱えていく。

「涼には気を遣わなくていいよ」

「恵に食べさせてあげたいんです。私ばっかり美味しい思いをして悪いから」

「……いや、彼女は彼女で、美味いもん食ってると思うけど……」

 ぼやいた尊さんの言葉を無視し、私は箱を抱えて「お願いします」と店員さんに声を掛ける。

 けれどスッと尊さんが出たかと思うと、サクッとカードでお会計してくれた。

「……ありがとうございます。自分のお土産だからいいのに」

「朱里の小遣いは、もっと私的な事に使ったら? ご家族も含めて世話になってる人へのお土産なら、俺も関わってると言っていいし、それぐらい出すよ」

「……なんか、すみません」

「いいって。気にすんな。それより思い残しがないように、気になるもんがあったらジャンジャン買えよ」

「太っ腹~!」

「フー!」とはやし立てると、ボソッと囁かれる。

「あとで体で返してもらうからな」

「!」

 目をまん丸にして驚くと、尊さんは横を向いてクツクツ笑った。

 そのあと、色鮮やかで映えそうな紅葉バターサンドや、神様のお使い、神鹿(しんろく)を象った〝子宝バンビクッキー〟を女子陣へのお土産にした。

 他にもギモーヴでレモン(かん)を挟んでいる〝淡雪花(あわせつか)〟と、験担ぎをして〝杓子せんべい〟も、自分用に買った。

 他にも餡子を包んだお菓子〝桐葉菓(とうようか)〟、牡蠣カレーパンを始め、色んな種類のカレーパンを片っ端から買った。

「……マジで食えるのか?」

「食います。ペロリです。尊さんにもあげますから安心して!」

「いや、そっちの心配じゃなくて……」

「私のお腹の心配はしないでください。こう見えて鍛えていますので……」

 軽く片手を挙げると、尊さんは「おう……」となんとも言えない表情で頷いた。

 そのあともご当地ビールや牡蠣のおせんべい、もはや自分用なのか、お土産用なのか分からないもみじ饅頭を買い込んでから、思い残す事なくフェリーに乗った。





「重くないです? 持ちますって」

 尊さんはフェリーを降りてから駐車場まで、腕に筋肉の線を浮かべて両腕に荷物を持っている。

「いいって。ビールや瓶ものも入ってるし、朱里にはキツい」

 そう言って彼はスタスタと歩いて駐車場まで行き、どうやらスマートキーという奴で、近づいただけでロックが開いた車のトランクに荷物を置いた。

「お疲れ様です」

 私は彼の両手を握り、掌にある赤い食い込み痕をさする。

「いいからいいから。これ、岩国飛行場にある宅配受付で、東京まで送ってもらう」

「そうですね。それが一番楽かも」

 私は頷きつつも、「今回もまた沢山お金を使わせてしまったな……」と反省する。

 尊さんはエンジンをかけてクーラーを浴びつつ、ペットボトルの水をゴクゴク飲む。

 彼が歩いている間、先に行ってもらって自動販売機で二人分の水を買ったのだ。

「サンキュ、生き返った」

「どういたしまして」

 車が走り出したあと、私はぼんやりと「食べ物ばっかり買っちゃった」と考える。

 スタバのご当地カップや、可愛いチャームや御利益のありそうな物が沢山あったのに、結局〝残る物〟は買わなかった。

 尊さんには『もう大丈夫』と言ったけれど、無意識に広島に来た〝理由〟を思うと、手元に残る物を買いたくなかったのかもしれない。

 広島も宮島も何も悪くない。

 ただ、私の心の問題だ。

(次に訪れた時は、何か買おう)

 そう思いながら、私は助手席のシートに身を預け、小さく息を吐いた。



**



 夕方のフライトで広島……、もとい岩国飛行場にある山口県に別れを告げ、東京に着いたのは二十時近くになったあとだった。

「流石に疲れたかも……」

 私はハイヤーの中でぐったりし、恵に【東京戻ったよ】とメッセージを送る。

「お疲れさん。今日は風呂入って爆睡コースだな」

「ですね」

 羽田空港から三田までたわいのない話をして過ごした私たちは、運転手さんにお礼を言って懐かしい……と、つい思ってしまう豪邸マンションに帰った。
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