部長と私の秘め事

東京に戻って

「ただいまー」

 私は誰もいないマンションに挨拶する。

 ちなみにセキュリティがしっかりしているマンションではあるけれど、尊さんは防犯のために決まった時間になったらスマートカーテンが閉じ、照明がつくように設定していたらしい。

 電気代などが勿体なく感じるけど、『〝何か〟があるよりずっといい』らしい。

 帰宅した時点でお風呂はすでに沸いていて、こういう時はフェリシアに連動した家電があると便利だなと思う。

 私は充電器や基礎化粧品など、すぐ使う物をスーツケースから出し始める。

「先に風呂入れよ。一回座っちまったら、尻に根が生えるから」

「よくご存知で……」

「朱里の尻は柔らかいから、すぐ根が生えそうだな」

「尊さんのお尻は岩なんですか? 私がスクラブマッサージしてあげましょうか?」

「いいからいいから、さっさと入れ」

 彼はクスクス笑ってバスルームを指さし、私は「お先にいただきます」と着替えを持って洗面所に向かった。



**



 朱里がバスルームに向かったあと、俺――篠宮尊は、冷蔵庫で冷やしていたビールを開け、喉を鳴らして飲んだあと涼にメッセージを入れる。

【東京帰った】

 するとすぐに既読がつき、返事がくる。

【お疲れさん。どうだった?】

【まぁ、なんとか収まったと思う】

 一言目にそう返事をしたあと、俺は大雑把に夏目さんと会って話した事を涼に伝えた。

【それでいいんじゃないか? お前もすぐ気持ちの整理をつけるのは難しいだろうし、あんまり考えるな。分かってるだろうけど、同行した朱里ちゃんもかなりのダメージを負ってると思う。過ぎ去った事を振り返ってグチグチ話すより、無理矢理にでも忙しく日常を送れよ。そのうち『まぁいっか』ってなるから】

【そうする。サンキュ。近いうち、中村さん越しに朱里が土産を渡すと思う】

【気を遣わなくていいのに。でも恵ちゃんは喜ぶと思う。ありがと】

 涼とのメッセージはそれで終わり、俺は無心で片付けの続きをする。

 洗濯物を洗濯機に放り込み、いつも使っている物を所定の場所に置き、最後に朱里の分も、スーツケースのキャスターを拭いた。

 家の中は綺麗に片付いていて、出かけている間も町田さんが来て掃除をしてくれていた事が分かる。

「はぁ……」

 ビールを一缶飲みきった俺は、一度部屋に行って着替えを持ったあと、洗面所に向かって服を脱ぎ始めた。



**



「なんで!?」

 トリートメントを流しているとバスルームのドアが開く音がし、尊さんが入ってきたのが分かった。

「最初に私を抱いた時の再現ですか?」

「そんな事もあったな」

 尊さんは後ろでかけ湯をしながら笑う。

「野獣ミコリン」

「野獣なのか、可愛いのか、どっちかにしてくれよ」

「あの時は〝部長〟のこと嫌いでしたし、こんな関係になると思いませんでした」

「……あの時はずっと想い続けた女をやっと抱けると思って、童貞みたいながっつき方をしたな」

 彼の言葉を聞き、私は髪を絞ってクリップで留めながら、赤面して言う。

「その話、詳しく」

「ここから先は有料です」

「えーっ!?」

 立ちあがってシャワーを浴びた私は、チャポンと浴槽に浸かる。

 そして彼を見ないように後ろを向き、ツンツンして言った。

「課金してでも聞くもんね」

「成人指定のお宝スナップくれたら考える」

「言い方が昭和か!」

 突っ込んだあと、私は尊さんを振り向いて胸を寄せる。

「……こういうのとか?」

 バスチェアに座って髪を濡らしていた尊さんは、チラッとこちらを見て妖艶に笑った。

「やべ、勃つ」

「~~~~…………っ」

 そう言った尊さんこそお色気ムンムンで、私は顔を真っ赤にしてまた壁を向いた。
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