部長と私の秘め事
「私、人の恋バナ聞くのだーい好きなんです。彼女たちと女子会させてもらえるなら、どれだけでも協力します。その代わり、ちょっときわどい話もしたいです」

 んー! そっちかぁ!

 私は笑顔で固まり、変な汗を垂らす。

 エミリさんも、最初はライバルと思っていただろうに、こんな求められ方をするとは思っていなかったらしく、呆気にとられた顔をしていた。

「よし、朱里行ってこい」

 尊さんが私の背中をポンと叩く。あっさりだなぁ!

「エミリは?」

 風磨さんが気遣わしげに彼女を見る。

「私も問題ありません。むしろ、こんなご提案をいただけるとは思っていませんでした。ぜひじっくりお話してみたいです」

「じゃあ、決まりですね。二人とも、お酒はいける口ですか?」

 尋ねられ私はこっくり頷いた。

「大っ好きです」

「ああ、こいつの酒好きは俺が保証する」

 尊さんが変な太鼓判を押してくれる。

「エミリもなかなか強いと思うよ。僕の前でクタクタになって介抱させてくれる……、なんて夢を見させてくれない女性だから」

 風磨さんがそう言い、彼女は「やめてくださいよ」と照れ笑いしている。

 うん、エミリさん、そこは照れるところじゃないと思うよ。

「じゃあ、決まり! 二人ともあとで連絡先を教えてくださいね」

 春日さんは笑顔でそう言ったあと、尊さんを見て悪い笑みを浮かべた。

「……で、あなたの企みは?」

 尋ねられ、尊さんは機嫌良さそうに笑う。性格の悪さ的にどっちもどっちっぽいな。

「じゃあ、聞いてもらおうか」

 尊さんは息を吐いてから言い、〝時限爆弾〟の内容を一部話し始めた。

 以前に風磨さんに話せないと言った事については、まだ伏せたまま――。



**



 約束の十四時の三十分前には、私たちは一階にあるラウンジカフェへ移動していた。

「こんにちは」

 そこに現れたのは、尊さんのお父さんの亘さんだ。

 彼は怜香さん以外の全員が集合しているのを見て、瞠目して少しのあいだ固まっていた。

 けれど尊さんを見て、諦念の笑みを浮かべる。

 亘さんが何か言う前に、尊さんが口を開いた。

「〝始める〟前に親父にも言っておきたい事がある」

 大切な話があると察して、亘さんは椅子に座った。

 彼がホールスタッフにコーヒーを頼んだあと、尊さんは淡々と話し始める。

「俺が長年、あの人にどう扱われてきたか、あんたはよく知っているはずだ」

 言われて、亘さんは覚悟を決めた表情で頷く。

「……謝っても謝りきれない。私の優柔不断さでお前たち母子を苦しめ、さらには怜香と風磨も苦しめる事になった」

「今さら謝ってほしいなんて思ってない。母は死んだ。そして俺たちがあの人にされた事も変えられない。……だが俺と朱里の結婚に一切口だししないなら、すべて水に流す」

 尊さんがここまで強く怜香さんを恨んでいるのは、やっぱり長年家の中でも迫害され続けたからだろう。

 その影響が結婚後も続くなら我慢できない、だからその前に怜香さんに厳しい現実を突きつけておこうという心づもりなんだと思う。

 でも私としては、会社をクビになったりしないなら、そんなにやりすぎなくてもいいけど……と思ってしまう。

 けど怜香さんが尊さんに酷い言葉を言った事については、撤回してほしい。

 考えている間も、二人の会話は続く。

「何が起こっても受け入れよう。お前が私の息子である事は変わらない。こう見えても、私は尊の父親だ。お前が自分の幸せを掴みたいと願っているなら、無条件で応援したい」

 様々な感情が混じった表情で言う亘さんは、イケオジだけれど、とても苦労を積み重ねた顔をしていた。

 あの強烈な妻を持ち、婚外子がいる状態で何も感じなかった……なんていったら、とんでもない悪人になってしまう。

(むしろ、風磨さんが模範的で王子様的存在になったのは、周りの空気を読んで〝いい子〟であろうとした結果なんだろうな)

 私はチラッと風磨さんを見てそう思った。

 想像だけど、彼はエミリさんの前でなら、抑圧してきた自分を解放できているのかもしれない。

「このあと、あんたや風磨、春日さんの前であの人の悪事を暴く。相当な修羅場になる事を覚悟してくれ。それでも妻として側に置くなら、あんたの自由だから好きにすればいい。俺はあの人を追い詰め、今後俺たちに関わらないよう約束させる。あんたはその約束がきちんと守られるよう見張っていてほしい。それが唯一の望みだ」

 かつて深く愛した女性の息子から「あんた」と呼ばれ、望まれるのは「妻がこれ以上やらかさないように監視してくれ」という事。父親として、なかなかつらい状況だ。

 亘さんは尊さんの事を大切な息子と思っているだろうけど、尊さんはとっくに父親への信頼や愛情をなくしてしまったんだろうな。

 私は乾ききった父子関係を目の当たりにして、とても悲しくなった。

「…………分かった。二人の幸せのためならどんな協力も惜しまない」

 悄然として言う亘さんを前にして、私はどうしても我慢する事ができず口を開く。

「……自社の社長に、暴言を吐く事をお許しください」

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