部長と私の秘め事
「ちょっと大目に見てくれよ。今、少しずつ諦めようと努力してる最中だから。……ま、ぶっちゃけ上村には三年前にフラれてるんだけど」
「えっ? もう告白したんですか!?」
三年前と言ったら、私が入社する前だ。
「当時は速水部長と付き合ってなかったそうだけど、彼氏がいるって言われて、サラッとフラれたよ」
私は突然の展開についていけず、黙りこくる。
「三年前にフラれて今でもちょっかい掛けてんのか、未練がましいって思われるだろうけど、……それぐらい真剣だったし、すぐ風化できる想いでもなかったんだよ。上村に『これからもいつも通り接していいか?』って言ったらOKもらったし、フラれたからってよそよそしくするのは何か違うし」
「はぁ……」
私は大きな溜め息をつき、両手で顔を覆う。
(思っていたより、ずっと一途な男だった)
そこがいい、と言えばその通りだ。
六条さんは明るくてみんなに好かれているから、色んな女性をとっかえひっかえしていても、おかしくない雰囲気がある。
だからこそ、凄く一途な男性だと知って「やっぱり六条さんはそうじゃないと」と頷く自分がいる。
そのいっぽうで、相手が上村さんだと知って不戦敗するしかないと考える自分もいる。
「……綺麗ですもんね、彼女」
「んー、確かに美人だけど、それだけじゃないんだよな」
六条さんが上村さんに惹かれる理由は、見た目以外にも色々あるのだろう。
けれどそれを掘り下げて知りたいとは思わなかった。
好きな人が想い人の魅力を語るのを聞くほど、私は人間ができていない。
「……想いを風化させてる途中なら、応援しますよ」
「サンキュ」
彼はクシャッと笑い、「はぁ……」と溜め息をついて脚を投げ出す。
「……ありがとな、沙根崎。打ち明けられて、少し気持ちが楽になった」
「誰にも言わないから、安心してください」
「疑ってねーって。お前は義理堅い性格をしてるし、他人の大切な想いを軽んじる行為って、一番嫌うタイプだろ」
まさにその通りな事を言われ、どうしてここまで私の事を理解しているのに、私を好きになってくれないのか、だんだん腹が立ってきた。
「あのですね!」
私は六条さんの袖を掴み、喧嘩腰ギリギリの勢いで彼を見つめる。
「ん?」
彼はいつもとまったく変わりない様子で、パチクリと目を瞬かせた。
――あぁ、ムカつく。
心の中で暴れ馬がいななき、後ろ足で立ちあがった。
「上村さんの事を忘れた頃、私なんてどうですかね!?」
自分の想いは秘めておこうと思っていたはずだったのに、私は気がつけば六条さんの腕をグッと掴み、思いきり彼を睨んで告白していた。
六条さんは呆気にとられた表情で私を見て、しばし言葉を失う。
――勢いで言っちゃったー!
ブワッと変な汗を掻いて後悔するものの、もう遅いので引き続き彼を睨んだ。
六条さんは私を見つめ返したあと、尋ねてくる。
「沙根崎、俺の事好きなの?」
「好きですが、何か?」
照れ隠しで喧嘩腰になるの、本当にやめたい……。
すると彼は小さく笑い、「や、悪い」と断りを入れ、そのあともクスクス笑い続ける。
「ごめんごめん。こんな、喧嘩売るように告白されたの、初めてで……」
「はぁ、愛想がなくてすみません」
謝ったあとに無理矢理笑おうとしてみたけれど、歯を剥きだしにして鼻の頭がピクピクしてしまい、多分子供が見たら泣く顔をしている。
「ぶふ……っ! 無理に笑わなくていいって! はー……、お前を見てると祖父ちゃんが飼ってた、人に懐かない犬を思いだすよ」
六条さんはそう言ったあと、気持ちをとりなおして笑った。
「ありがとな! 嬉しい」
そう言ってくれたけれど、続く言葉は分かっていた。
「でも、今すぐは応えられない」
「……分かってますよ。いま話を聞いたばっかりですから」
私は返事をし、ジュースをくーっと飲む。
(どこまでもまっすぐで、正直なあなただから好きになったんです。今さら自分を偽って付き合ってもらっても、まったく嬉しくありません)
六条さんは少し考えたあと、私を見て微笑む。
「答えを出すまで待っていてくれるか?」
「多分」
「多分かよ」
「えっ? もう告白したんですか!?」
三年前と言ったら、私が入社する前だ。
「当時は速水部長と付き合ってなかったそうだけど、彼氏がいるって言われて、サラッとフラれたよ」
私は突然の展開についていけず、黙りこくる。
「三年前にフラれて今でもちょっかい掛けてんのか、未練がましいって思われるだろうけど、……それぐらい真剣だったし、すぐ風化できる想いでもなかったんだよ。上村に『これからもいつも通り接していいか?』って言ったらOKもらったし、フラれたからってよそよそしくするのは何か違うし」
「はぁ……」
私は大きな溜め息をつき、両手で顔を覆う。
(思っていたより、ずっと一途な男だった)
そこがいい、と言えばその通りだ。
六条さんは明るくてみんなに好かれているから、色んな女性をとっかえひっかえしていても、おかしくない雰囲気がある。
だからこそ、凄く一途な男性だと知って「やっぱり六条さんはそうじゃないと」と頷く自分がいる。
そのいっぽうで、相手が上村さんだと知って不戦敗するしかないと考える自分もいる。
「……綺麗ですもんね、彼女」
「んー、確かに美人だけど、それだけじゃないんだよな」
六条さんが上村さんに惹かれる理由は、見た目以外にも色々あるのだろう。
けれどそれを掘り下げて知りたいとは思わなかった。
好きな人が想い人の魅力を語るのを聞くほど、私は人間ができていない。
「……想いを風化させてる途中なら、応援しますよ」
「サンキュ」
彼はクシャッと笑い、「はぁ……」と溜め息をついて脚を投げ出す。
「……ありがとな、沙根崎。打ち明けられて、少し気持ちが楽になった」
「誰にも言わないから、安心してください」
「疑ってねーって。お前は義理堅い性格をしてるし、他人の大切な想いを軽んじる行為って、一番嫌うタイプだろ」
まさにその通りな事を言われ、どうしてここまで私の事を理解しているのに、私を好きになってくれないのか、だんだん腹が立ってきた。
「あのですね!」
私は六条さんの袖を掴み、喧嘩腰ギリギリの勢いで彼を見つめる。
「ん?」
彼はいつもとまったく変わりない様子で、パチクリと目を瞬かせた。
――あぁ、ムカつく。
心の中で暴れ馬がいななき、後ろ足で立ちあがった。
「上村さんの事を忘れた頃、私なんてどうですかね!?」
自分の想いは秘めておこうと思っていたはずだったのに、私は気がつけば六条さんの腕をグッと掴み、思いきり彼を睨んで告白していた。
六条さんは呆気にとられた表情で私を見て、しばし言葉を失う。
――勢いで言っちゃったー!
ブワッと変な汗を掻いて後悔するものの、もう遅いので引き続き彼を睨んだ。
六条さんは私を見つめ返したあと、尋ねてくる。
「沙根崎、俺の事好きなの?」
「好きですが、何か?」
照れ隠しで喧嘩腰になるの、本当にやめたい……。
すると彼は小さく笑い、「や、悪い」と断りを入れ、そのあともクスクス笑い続ける。
「ごめんごめん。こんな、喧嘩売るように告白されたの、初めてで……」
「はぁ、愛想がなくてすみません」
謝ったあとに無理矢理笑おうとしてみたけれど、歯を剥きだしにして鼻の頭がピクピクしてしまい、多分子供が見たら泣く顔をしている。
「ぶふ……っ! 無理に笑わなくていいって! はー……、お前を見てると祖父ちゃんが飼ってた、人に懐かない犬を思いだすよ」
六条さんはそう言ったあと、気持ちをとりなおして笑った。
「ありがとな! 嬉しい」
そう言ってくれたけれど、続く言葉は分かっていた。
「でも、今すぐは応えられない」
「……分かってますよ。いま話を聞いたばっかりですから」
私は返事をし、ジュースをくーっと飲む。
(どこまでもまっすぐで、正直なあなただから好きになったんです。今さら自分を偽って付き合ってもらっても、まったく嬉しくありません)
六条さんは少し考えたあと、私を見て微笑む。
「答えを出すまで待っていてくれるか?」
「多分」
「多分かよ」