部長と私の秘め事
「はい、ごちそうさまでした! 美味しかったです!」

「本当なら肉メインのほうが喜ぶと思ったけど、高原のお嬢さんに憧れてるなら、ちょっと映える物もたまにはいいかと思って」

「それ! たまには女子らしい事もしたいんですよ」

 そう言う私のSNSアプリは、食べ物の投稿ばかりだ。

 コスメの投稿もするんだけど、最近は町田さんの映えながらもバランスのいい食事が嬉しくて、毎日写真を撮っている。

 尊さんとデートした時の、ゴージャスなホテルとかも写真に収めているけれど、自慢していると思われたら嫌なので、ハッシュタグは使っていない。

 自分の備忘録にして、フォローしている恵とかが見てくれたら、それでいいと思っている。

 私たちはレストランを出て、再び軽井沢観光に向かった。



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 そのあと、私たちは国の重要文化財に指定されている、旧三笠ホテルを見学した。

 ホテルとついているけれど、今は宿泊はできないらしい。

 駐車場はホテルから徒歩五分ぐらい離れた所にあり、そこから周囲の雰囲気を楽しみながら歩いた。

 しかし、日差しは容赦ないので、高原のお嬢さんデビューである。

「尊さんも日傘に入れてあげる。ミトコも美白に気をつけないと」

「最近肌荒れしちゃって、嫌だわ」

 尊さんはネタに乗りつつ、日傘を持ってくれる。

「いひひ。ミトコになら、私のとっておきの化粧水使わせてあげる」

 そう言っても、化粧品のほとんどは尊さんが買ってくれた奴だけど……。

「それにしても、綺麗な建物ですねぇ」

 私は日傘の下でスマホを構え、パシャッと写真を撮る。

 建物の壁は焦げ茶色の木製で、軒下から屋根まで、括弧みたいな形のボーンが伸びているのは、ブラケットというらしい。

 一番特徴的なのは、窓を飾る幾何学模様のボーンだ。

 今の住宅では外が見づらいと言われて終わりかもしれないけれど、昔は如何に美しい建物を建てるかが重要だった……のかもしれない。真実は闇の中。

 入り口にある【三笠ホテル】という緑色の看板が、昔ながらの右から読む横書きで、趣がある。

 それはともかく、ロビーに入ると思わず「おお……」と声が漏れる。

 天井は白木が交差していて格天井みたいで、シャンデリアが下がっている。

 思っていたより天井が低いので、シャンデリアが割と近いけれど、なかなか雰囲気がある。

 他にもホテルらしく、どっしりとした木製のフロントカウンターがある。

 ロビーのソファセットや木製の丸テーブル、壁際には暖炉もあり、それぞれに説明の看板がついていた。

 というか……。

「尊さん、これ見て」

 壁には三笠ホテルの案内が掲示されてあるのだけれど、その中に【三笠ホテルのもう一つの楽しみ方】と書かれてあり、【来客が途切れた時に、二階の一、二号室にスキップしている女の子の霊が……】的な内容があり、びっくりしてしまった。

「公式で宣言するんですね」

「まぁ……、客寄せするには目立ってなんぼだからな」

「なるほど。そしてあの看板見てください。洋式のホテルだから、十三号室がないんですって。逆に四、九号室はあるんですって」

「ユダか……」

「私、ジェイソンを思い出しました」

「十三が忌み数字なの、それもあるよな。キリスト教では十三日の金曜日は不吉な日らしいから。……あと、北欧神話で招かれざる十三人目の客がロキで、そいつのせいでラグナロクが起こったとかも」

「なるほど」

 奥を覗いてみると左右対称になった建物の右側は、エレベーターとお手洗いがある。

 左手に行くとお土産屋さんがあり、昔のホテルのルームキーを模したキーホルダーや、キャッシュトレー、トートバッグに絵はがき、マグカップなどお馴染みの物が売られている。

 赤絨毯の階段とギャラリーを越すと客室があり、スイートルームが見学できた。

 柄物のカーテンに小花柄の布団カバーがついたベッド、壁際には暖炉、深緑色のカウチには、軽井沢らしく昔のテニスラケットが置かれてあった。

 一階の突き当たりは半円状のサンルームになっていて、半円を二分割して使うようになっていた。

 戻って階段を上がり、二階に向かうとロビーの真上はカフェになっている。

 そして昔の客室がズラリとある訳だけれど、一部は展示室になっていたり、『やまぶき』と『ふじ』の部屋は綺麗に整えられ、貸し部屋になっていた。

 海外の人とか、コスプレイヤーさんが喜びそうだ。

 そして、二階の突き当たりにもサンルームがあり、大体見終わったので出る事にする。





 そのあと、私たちは軽井沢駅のすぐ近くにあるショッピングモールに向かい、プラプラとお店を見て歩き、北欧のトロール一家のカフェで一息ついたあと、月野リゾートの月のや軽井沢へ向かった。



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