部長と私の秘め事
「もしもし、おはよう」

《おはよう。今日、篠宮さんも来てくださっているの?》

「うん。直接道庭に向かってるよ」

《分かった。道中気をつけてね。篠宮さんに『ありがとうございます』って伝えておいて》

「はーい」

 電話を切ると、尊さんが尋ねてくる。

「お義母さんか?」

「はい。ただの挨拶みたいなもんです。道中気をつけてって。あと、『ありがとうございます』って言ってました」

「ん」

 車の後部座席には、それぞれの家に持っていく手土産が置いてある。

 尊さんに祖父母がどういう人かを話したら、それに合わせた手土産を選んだので、行き先により持っていく物が全部違う。

「あっという間に夏休みになりましたけど、年末になるのもあっという間なんだろうな」

「だな。……というか十二月の一週目週末、空けといてくれるか? 付き合って一周年記念」

「あ」

 私は色んな意味を込めて声を上げる。

 忘れられない去年の十二月一日、日曜日。

 私はまだ昭人を忘れられなくてやけ酒していた。

 そこで尊さんにお持ち帰りされて、うちで致してしまい、ヴァンクリをもらってしまった。

 その週末の七日土曜日、初めて尊さんとデートして、なんだかんだで付き合う事になったんだけれど……。

 スマホのカレンダーアプリを確かめてみたら、丁度六日、七日が土日になっている。

「バタバタしていて、付き合って一か月記念とか、そういう事はやってやれなかったけど、一年記念はちゃんとやりたいと思って」

「ありがとうございます。楽しみにしていますね」

 そんな事を気にしなくても、毎日豪邸で過ごせて、町田さんの美味しいご飯を食べられている。

 外食、デートと言ったら高級な所に連れて行ってくれるし、服もコスメも美容系も満たされていて、お嬢様みたいな生活を送っている。

 それ以上の事を望んだらいけないと思うのに、尊さんは私を大切にし、甘やかそうとしてくれている。

「来年の誕生日、鼻血が出るほどチョコあげますからね」

「ははっ、気持ちは受け取っとく」

「あっ、そっか。甘い物あまり得意じゃなかったんでしたっけ。……なら……、何がいいかな」

「俺としては、一日朱里を独占できる権とかが希望だけど」

「えー? 何ですか、それ。毎日独占してるじゃないですか」

「来年の二月十四日は土曜日だし、一日朱里を抱き締めて、スマホ見るのも禁止にしてゆっくりまったりするとか……」

「ポリネシアンセックスみたいですね」

 そう言うと、尊さんは「ぶふっ」と噴き出す。

「……ホント、そういう知識よくあるな……」

「お年頃ですから」

 ポリネシアンセックスとは、五日間かけて二人の関係性を深めていくやり方で、五日目まで挿入できない行為だ。

 初日はどう愛撫してほしいかを口頭でいい、抱き締めるだけ。

 二日目は触れるだけのキスとハグだけ、三日目になってディープキスが解禁され、四日目になって胸やお尻、背中などへのタッチが可能になる。

 そして五日目になって、やっと挿入可能という、我慢強い人じゃないとできないプレイなのだ。

「ポリネシア発祥ですし、南の島に行ったら、自然に囲まれてゆっくりせざるを得ないじゃないですか。そういう時にいいのかもしれませんね」

「じゃあ、ハネムーンは南の島にするか?」

「そ、それはまだ考え中……。せっかくの記念の旅行ですし、行きたい所も沢山あるし」

「だな。海外旅行は行こうと思えば行けるけど、結婚の記念なら沢山思い出ができる場所がいいな」

「えへへ……」

 私は結婚の事を考え、照れ笑いする。

「尊さんはドレスの希望とかあります? ……男の人って、こういうの興味ないんだっけ」

「んー、朱里が望む物を着てほしいと思うけどな。正直、何を着ても似合いそうだし」

「ありがとうございます。うーん、もうちょっとしたら色々悩んでみよう。私、尊さんには丈の長いやつ着てほしいな」

「モーニングコートとか、フロックコート?」

「多分それ」

 私は花婿姿の尊さんを想像し、ニヤニヤする。
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