部長と私の秘め事
 BBQはちゃんと屋根付きの所に専用の鉄板などがある。

 人によっては食材も現地任せで、手ブラで来られるコースもあるそうだ。

 涼さんは張り切って食材を仕入れていたので、中村家は全員ワクワクしている。

 ……気持ちは分かるんだけど、あからさまに涼さんのお肉に期待しないでよ……。

「すげーっ! 霜降りA5ランクの……、肉っ!」

 孝兄が両手の人差し指で、ビシッとお肉を指さす。

 肉……。確かに肉だ。

 カルビなどの普通の肉から、大きなサーロインステーキ、ラムチョップ、クラフトベーコンに高級ソーセージ、ブランド鶏肉、ジビエまである。

「そして~……、伊勢エビっ!」

 恭兄、何のテンションだ。リーゼントみたいに伊勢エビを頭に乗せようとするな。

「すっごぉ~い! プリップリの帆立にサザエにハマグリにアワビ~! イカにタコに牡蠣! 牡蠣を食べたらパパが若返っちゃう!」

「お母さん、落ち着いて」

「カニが大きいよ……。僕、こんなに立派なカニ、拝んだ事ない。拝んでおこう」

「お父さん、拝まないで。カニ教に入信しないで」

 私は高級食材を前に、大興奮の家族を宥めるのに必死だ。

「僭越ながら、タンパク質ばっかりだとバランスが悪いかな? と思って、サラダを持ってきました。こっちはカルパッチョ。焼きのほうは、キノコやアスパラ、糖度の高いトウモロコシや、他の野菜もあります」

「やだぁ~! できる男はできる~! ついでに美味しい~! ジューシー!」

「お母さん、落ち着いて」

 私は同じ言葉を繰り返す。

 しかしそうなるのはちょっと分かって、涼さんが用意してきたサラダは、都内にあるサラダ専門店で買った物だ。

 勿論お洒落だし、美味しいしで、美容に気を遣う母がテンション爆上げになるのは分かる。

「涼さん……。俺、今日から涼さんの下僕になります。ポチと呼んでください」

「孝兄、プライドどこ行った」

 私が深い溜め息をつくと、恭兄にネチネチと絡まれる。

「恵はこのレベルの生活が当たり前になったんだな~。妹が手の届かないセレブになって、兄ちゃんは誇らしいけど寂しいよ」

「ちょっと、そういうのやめてよ」

 思いきり嫌な顔をして言うと、涼さんが高級店で買ってきた焼きそば麺を手にして、にっこり笑う。

「俺、肉を焼きますから、手分けして海鮮と焼きそば、米炊きやりましょうか」

 お米も勿論、涼さんが持って来た高級米だ。

 あのでかい車の後ろに、みっちみっちに食料が詰まっていたので、いっその事スーパーでも開けそうだ。

「僕、焼きそばはちょっと得意だから」

 父はニコニコして挙手する。

「お義父さん、さすがです! お義父さんの焼きそば、楽しみにしていますね!」

「俺! 俺は三鷹のヴィーナスって呼ばれてるので、貝やりますね!」

「恭兄、貝から生まれたんだ。……っていうか、共食いじゃん」

 あれ、ヴィーナスは海の泡だっけ。どうでもいい。

「ついでに花火も持って来たので、夜に海でやりましょうね!」

「はーい!」

 家族全員いいお返事をして、あっという間に涼さんに中村家が掌握されてしまった。

 恐ろしい人……。

「私、お米研いでくるね」

 私はプラスチックケースに入ったお米と、その他道具を持って炊事場に向かう。

(とりあえず、うちの家族とは問題ないと思っていいのかな。一時間どころか、秒で溶け込んだ陽キャパワーと財力凄い……)

 私はキャップの下でクスッと笑い、「敵わないな」と呟く。

 黙々と手を動かしていると、波のように〝いつもの感情〟が押し寄せてくる。

 ――こんな私が涼さんの相手でいいのかな?

 いつもの私らしからぬ、ウジウジした考えだけれど、こればかりは自信を持ちきれない。

(一回のBBQで、何か月も生活できそうな値段の食材を、ポンと出すんだもんなぁ……)

 というか、すっかり中村家は手懐けられてしまったけど、涼さんの財力を前にひれ伏した感じなんだろうか。

 それとも、それとこれとは別で、あとでちゃんと話すんだろうか。

「……よし」

 考えながらもお米を研いで二つの飯盒に入れると、目盛りまで水を入れて浸水させておく。

「けーいちゃん」

「わっ」

 と、いきなり涼さんに声を掛けられ、私は一センチぐらいその場から跳び上がった。

「ど、どうしたんですか」

「勝手に仕切っちゃってごめんね」
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