部長と私の秘め事
 海でゆっくり遊んだあと、近くにある温泉施設に行き、夜はまた余った食材を食べる。

 今回予約したキャンプ場の区画が、電源のある所なので、涼さんの持って来た小型冷蔵庫が活躍している。

 勿論、お風呂に行ったりなんだりの時は、順番にテントの見張りをしてだけど。

 夜にビーチで花火をした時は、何と言うか……、バカ兄二人が涼さんに向かって可愛子ぶりっこしててうざかった。

〝孝子〟と〝恭子〟が「花火こわぁい」「涼さん手ぇ握っててぇ~」と乙女アピールするので、私は突っ込む気力も失い、ズズズ……と長くなっていくへび玉を見つめていた。

 めぼしい花火をし終わったあと、ラストに線香花火をしたんだけれど、桐の箱に入ってるので訳が分からない。

「どうせ恵ちゃんと花火するなら、いいのしたかったから」

 涼さんはそう供述していたけれど、儚い花火に幾ら出したのかと思うと、頭が痛い。

 それでも、悪くないなと思った。

 家族との夏休みキャンプは毎年楽しみにしていたけど、相手が家族なだけにちょっとだるいと感じている自分もいて。

 でもそこに涼さんが加わると、とても新鮮だった。

 中村家はいつも明るいけど、涼さんが加わってさらに鬱陶しい……、いや、バカみたいに明るくなって、みんな生き生きしているように見える。

 これもまた、新しい変化なのだと思った。

〝変わる〟事は恐いけれど、いつまでも独身ではいられない。

 朱里と篠宮さんは遠からず結婚するし、私の事を望んでくれる涼さんがいるなら、彼のいる人生を当たり前と思っていかなくちゃならない。

(……うん、いいんじゃないかな)

 少し前の私は、『朱里とずっと一緒にいられるなら、それでいい』と思っていた。

 彼女と〝同じ〟になるために結婚しなきゃいけないなら、自分の邪魔をしない〝適当な誰か〟を見つければいいと思っていた。

 けれど涼さんは、そんな考えをしていた事が恥ずかしくなるぐらい、ちゃんと私に向き合ってくれている。私だけじゃなく、家族みんなにもだ。

(ある意味、私は涼さんに大きく変えられたって言っていいんだろうな)

 夜になり砂浜は昼間の熱さを失っている。

 私は少しヒヤリとしたそれを手で玩びながら、右手で持った線香花火に見入る。

「普通の線香花火より火花の勢いがいいように思えます。あと、持ちがいいですね」

「お気に召したなら、何より」

 ある程度花火を楽しんだあと、兄たちはテントに戻っていった。

 私は涼さんと二人で、砂浜に座って夜の海を眺める。

「……海って不思議ですよね。昼間はあれだけ綺麗で魅力的なのに、夜になると真っ黒になって、何が潜んでいるか分からない」

「Googleマップで世界地図を見て、旅行した気分になる遊びをする事があるんだけど、世界中をグルグル回していると、海の面積がとても広くて、深い部分は濃い色になっていて、それがやけに恐いと感じてしまうんだ」

「……涼さんでもそういう遊び、するんですね」

 彼からそんなエピソードを聞いて、ちょっと親近感を抱く。

「するよ? まだ行った事のない場所は沢山あるし、危険で行けない場所もあるからね」

「……でも、分かる気がします。私たちは普段陸に住んでいて、海に行くって言っても、海遊びをするのは波打ち際だけなんですよね。沖の世界なんてまったく知らない。本当に海の怖さを知っているのは、漁師さんとか、クルーズ船を扱う会社とか、そういう人だと思います」

「俺、クルーズ船での旅行もした事あるけど、沖で停泊してると本当に静かなんだ。世間で言う〝海の音〟ってビーチで波同士がぶつかったり、砂浜を波が摩擦する音だったり、陸ありきだ。でも沖にいくと海の波はただうねっているだけで、ほとんど音がしない。クルーズ船にいるとエンジン音やスクリューが波を砕く音が聞こえるけど、それも止まると本当に静かな世界だと思う。……俺はそういうものへの〝畏れ〟を忘れちゃいけないな、って思ってる」

 涼さんは手で砂を掴み、サラサラと零していく。

「三日月グループの御曹司と言われて周りからチヤホヤされて、魅力的な物がなんでも揃っている場所にいると、どんどん自分が嫌な奴になっていくように思える。だから俺はよく、自分を知らない人が大勢いる外国とか、自然の多い場所に行く。そこで驕り高ぶる自分をリセットするんだ。『この人たちにとって、自分はちっとも〝凄い〟人じゃない』『大自然を前にすれば、お前はただの小物だ』ってね」

「それも意外です。そういう事をしなくても、自分をコントロールできると思ってました」

「みんな俺を買いかぶってくれるけど、俺もしょせんは人だからね。間違える事もあるし、調子に乗る事もある。……だからこそ、自分をリセットしたり、忖度ない尊に〝確認〟したり、調整しながら生きているよ」

「篠宮さん、結構重要なキーパーソンなんですね」

 私はむっつりスケベ副社長を思い浮かべ、頷く。

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