部長と私の秘め事
「ようこそドリンク、どうしよう……」

 一旦席に座ってメニューを眺めた私は、せっかくの休みだし、悪い事をしてやろうと思い、シャンパンをいただく事にした。

 尊さんと涼さんはワイン、恵はノンアルコールのスパークリングだ。

 他にもゴソゴソすると、ポーチの中に基礎化粧品やリップ、歯ブラシやアイマスク、耳栓なども入っているのが分かった。

「ドキドキするね~、恵」

「そう言っておきながら、フライトが始まったら朱里は映画に釘付けでしょ」

「分かってるじゃないか、ちみ……」

「尊さんも映画見るんですよね?」

 隣のボックスの彼に話しかけると、「ああ」と返事がある。

「国際線では、日本で公開される前の映画が見られるからいいよなぁ……」

 そう言いつつ、彼はモニターのメニューをあれこれ操作している。

 ビジネスクラス、ファーストクラスに慣れている彼も、やっぱり飛行機に乗るとテンション上がるのだと思うと、微笑ましくなってしまった。

 ウェルカムドリンクをいただき、和気藹々と過ごしている間、飛行機はエコノミークラスの乗客の搭乗を待ち、離陸体制に入った。

 ドキドキしているとエンジンがかかり、飛行機が静かに滑走路に向かっていく。

 ポーンというサイン音を聞いたのは、広島ぶりだけれど、それでも飛行機に乗る時は毎回テンションが上がる。

 やがてエンジンの音が大きくなり、グッと後ろにGがかかって飛行機が滑走路を走っていく。

(うひょー! きたきたー!)

 私はドキドキしつつ、パーティション越しに尊さんと手を握り合っていた。

 そして車輪の摩擦感がなくなると、フワッと機体が浮かぶ。

 窓の外を見ると、地上の光がぐんぐん小さくなっているのが分かった。

(んー……)

 これから海外に行くんだと思うと、ドーパミンじゅわ~、アドレナリンじゅわ~だ。

 だからと言って、旅先で調子に乗らないでおこうと、自分を戒める。

 高度が安定したあと、私はさっそくリモコンを操作して映画を見始める。

 メニューを見ていくと、『マインクラフト/ザ・ムービー』や『#真相をお話しします』のような最新作もあるし、私の大好きな『グランド・イリュージョン』もある。

 かと思えば『ハムナプトラ』や『グーニーズ』『E.T.』のような名作もあり、『スター・ウォーズ エピソード』シリーズも揃っている。

『トップガン マーヴェリック』は大好きな映画でもう一回見たいし、『LIFE!/ライフ』も大好きな映画だ。

 気がつけば私は鼻息荒くメニューをめくり、まず楽しい気持ちになろうと、『マインクラフト』を見始めた。

 しばらくして機内食の提供が始まり、和食も美味しそうだけれど、洋食でお願いする事にした。

 メニューを見ると、コース料理の他にもアラカルトがあり、サラダなどはコース料理の途中で出してくれるみたいだ。

 他にもサンドイッチやチキン、パスタ、カレー、カップ麺、チーズ盛り合わせにフルーツ、アイスなどがある。

(サンドイッチ、チキン、パスタ、カレーはマストだな……。恵に『食いすぎ』って怒られるかもだけど、滅多に乗れない国際線。心残りはないように……。ちゃんと残さず食べますので……)

 私はメニューに向かって両手を合わせて拝み、空を食い尽くす決意した。

「……尊さん、機内食沢山食べていい?」

 それでも気になって隣にいる彼に尋ねると、ヒョコッと顔を出した彼は呆れたように言う。

「俺に断りを入れなくてもいい。無理な我が儘を言う訳じゃないし、朱里以外の誰でも提供してくれる物だ。自分の事を大食いって思ってるかもしれないけど、世界には上には上がいるからな。自分が世界一の大食いと思わない事。遠慮すんな」

 トントンと腕を叩かれ、私は「よし!」と決意を固めた。

 とりあえず、コースにサラダ、メインのあとにチーズ盛り合わせ、デザートのあとにフルーツも入れてもらう事にした。

 小腹が空いた時の楽しみがあるとは、なんて素敵な飛行機なんだろう。

 私はなるべく、ハラペコ魔人に思われないようにスッと澄まして、客室乗務員さんにオーダーした。

 食事と一緒に白ワインを頼み、アミューズにオリーブ、そしてサクサク囓れるチーズ風味のパイが出た。

 そのあと蒸された海老にトマトのジュレがかかった物、小さなカップに入ったヴィシソワーズ、生ハムとモッツァレラチーズ、穴子と夏野菜のゼリー寄せ、香ばしく焼き上げたコーンを上に載せ、下にはコーンの甘みを生かしたムースで作ったテリーヌが出された。

 よく考えられているなと思ったのは、有名シェフとコラボした高級料理だけれど、食材が傷まないように生魚などは避けるとか、生っぽくてもジュレで包むなどの工夫をしている事だ。

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