部長と私の秘め事
 ヴィシソワーズも割と粘度が高くて、ちょっとやそっとでは零れないようになっているし、すくって飲んで零すリスクを抑え、直接カップから飲む工夫をしている。

 テリーヌ類も、固めてあると食べやすいので、私は「うんうん」と頷きながら、見るも美しい前菜を美味しくいただく。

 次にアラカルトで頼んだサラダが出て、モリモリと野菜を食べる。

 パンも出されたけれど、メインディッシュのソースをぬぐって食べるのが好きなので、単品で食べるのは我慢する。

 待ちに待ったメインディッシュには、牛フィレ肉のソテーにカシスのソース、夏野菜のソテーが添えられた物が出てきた。

 そのあとはチーズの盛り合わせを赤ワインと一緒にいただき、デザートはマンゴーのムース、そのあとにフルーツの盛り合わせだ。

(満足~)

 食後のホットコーヒーも、勿論陶器のカップで出してもらえるので、特別感が凄い。

 多分、時間的に映画を一本見終えた頃に、みんな就寝タイムに入るんだろう。

 寝たい気持ちはあるけれど、映画を沢山見たいし、みんなが寝ているなか、夜食をいただきながら映画を見るなんて、背徳感たっぷりの事がしたい。

(恵は体内時計に逆らわない人だから、寝ちゃうんだろうな)

 チラッと通路を挟んだ席にいる恵を見ると、コーヒーを飲んでいた彼女は私の視線に気付き、ヒラヒラと手を振った。

(フライト時間は九時間あるんだし、日本時間で考えたら早朝までみたいなもんか。悩みどころだな~。せっかくフルフラットになるから、寝たい気持ちもあるけど……)

 悩みながらも私は映画を一本見終え、もう一本見始める。

 二本目を見ている途中で、周りの人は寝る支度を始めたけれど、私はもう少しあとに寝る事にした。

 途中で恥を捨て、チキンとパスタとカレーを頼み、パクパク食べながら映画を楽しむ。

(……うん、多分空の上にいるし、これはカロリーゼロだな)

 そう思いながら三本目の映画を見始め、見終わった頃に眠気を覚えたので、〝巣〟を整えてもらってから寝た。





 毛布越しにお腹をポンポンと叩かれ、私はアイマスクを外して目をしょぼしょぼさせる。

 すると仕切りの間から尊さんが顔を覗かせ、「朝」と言った。

 大きな欠伸をしてから、モソモソと〝巣〟を解除しようとすると、客室乗務員さんが気づいて手伝ってくれた。

「はぁ……。寝たらお腹空いちゃった」

「マジか、元気だな」

 尊さんと朝の挨拶をしたあと、通路を挟んでの恵にも手を振る。

 すでに起きて映画を見ていたらしい彼女は、またヒラヒラと手を振り返してくれた。

 客室乗務員さんが朝食のオーダーを取りに来たので、私はオムレツメインの洋食を頼み、ついでにパスタなどのプラスアルファも無事頼んだのだった。

 スマホを見て時刻を確認すると、すでに現地時間に時計が合っていた。

 これも以前に母が言っていたけれど、昔は海外に着いたら自力で現地の時刻に時計を合わせなければならなかったが、今は衛星を介した通信機器の発達で、自動的にスマホの時刻が変わるんだそうだ。

 と言っても日本とシドニーは二時間しか時差がなく、さらにケアンズは時差は一時間だ。なので今回、時差ボケの心配はしなくていい。

 現地のほうが少し時間が進んでいるので、一日をちょっとゆっくり過ごした程度で済む。

 ご飯を食べたあと、少ししてから飛行機は降下し始め、現地時間六時二十分にシドニー国際空港――キングスフォード・スミス空港に着いた。





「うわぁ……。地上だ」

 長時間飛行機に乗っていたからか、私はまだどこかフワフワする感覚を抱きながら、飛行機と空港を繋ぐボーディングブリッジを歩く。

「あー、安心して水分とれるかも」

 恵が言うと、涼さんがハッと心配した顔で尋ねる。

「トイレ我慢してた? 水買ってあげるから、沢山飲んで!」

「いや、そんな我慢してたってほどじゃないんで」

 建物の中とはいえ、もう冬になっている南半球に来たので、みんな上に一枚羽織っている。

「次の乗り継ぎまで三時間あるから、ゆっくりしよう。免税店が開いてるなら、買い物もいいし」

 涼さんの言葉を聞き、「はっ……、コスメ……!」と一気に眠気が覚める。

「ほしい物があるなら、なんでも買うぞ」

「あぁ~……、尊さん甘やかさないで……」

「もしもほしい物があるなら、後悔しないように買っておけ。日本では税金がかかる」

「マジそれ……」

 私はうめくように言い、両手で頭を抱える。

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