部長と私の秘め事
 仕事で冷酷な一面を見せる姿も、完璧な御曹司と言われる澄ました面も、私たちに見せる必要はない。

 そして私も、涼さんにツンツンする必要はない。

 尊さんは、物事も人も色んな面を持っていて、自分が認識している面がその人、出来事のすべてじゃないと言っていた。

 けれど恋をする人は「好きな人だからすべて知りたい」と言うかもしれない。

 でも付き合っている人が自分にとって〝いい相手〟なら、無理にそれ以外の部分を暴かなくてもいいのだろう。

 私も、尊さんの『荒れていた』時代を詳しく深掘りすべきじゃない。

 宮本さん以外にも大勢の女性と〝関係〟していたかもしれないけど、今は私だけだと分かっているし、その人たちが現れる気配もない。

 私がそんな事を考えている間、二人はバカラのテーブルに向かい、ディーラーさんと英語で話をしている。

 バカラはディーラーさんがカードを配り、プレイヤーと呼ばれる先攻が勝った場合は2倍、バンカーと呼ばれる後攻が勝ったら1.95倍、引き分けになったら9倍の配当があるらしい。

 その際、カジノの取り分であるコミッション(手数料)が5%引かれる。

 バンカーが6点で勝った場合だけ、配当金から50%引かれるのを、シックスバンカーハーフと言われるそうだ。

 二枚のカードの合計が8、または9になると、ナチュラルエイト、ナチュラルナインとして無条件で勝つ。

 バカラでも10以上のカードは意味を持たず、0扱いされてしまう。

 たとえばエースとクイーンが出たら1、4と9が出ると合計13になり、一の位の3、エースと9だと0。

 基本的に二枚ずつカードが配られるけれど、〝条件〟を満たせば、三枚目のカードを追加する事もできる。

 三枚目のカードを追加する条件は、プレイヤーとバンカーとで違っていて、とても難解なルールになっている。

 配られたカードの合計が、プレイヤーの場合0から5まで、バンカーが0から2までの場合、三枚目のカードを引ける。

 プレイヤーのカードの合計が6、7だった時は、バンカーだけが三枚目を引く。

 バンカーのカード二枚の合計が3から6の場合、プレイヤーが引いた三枚目のカードの数字により、バンカーも三枚目を引けるかが変わってくる。

 ……と、こんな感じでルールがややこしいけれど、私たちがルールを覚えてプレイしなきゃならない訳じゃない。

 まぁ、尊さんや涼さんならスルッと覚えそうだけど。

「バカラはすぐ終わるから、待っててくれ。終わったらホテルに戻ろう」

「はい」

 尊さんに言われ、私たちは二人の後ろに立って待つ。

「勝ちますように」

 私は尊さんの背後に立ち、両手をかざして念を送る。

「……勝ちますように」

 すると恵も同様にして、振り向いた涼さんにニコッと笑われていた。

 尊さんも涼さんも、全額プレイヤーに賭けた。

(わぁ……、これ、バンカーが勝ったら二人で大負けだ)

 これまでのゲームで、私たちはともかく、尊さんと涼さんはそれなりの勝ちを積み重ねている。

 最初、彼らが五万円近くチップに変えたお金は、慣れなのか運なのか分からないけれど、三十万円近くに膨れ上がっていた。

 それに加えて、私たちのなけなしのチップがプラスされている。

 自分の分はどうでもいいけど、総額三十万以上を全部スると思うと、怖くて堪らない。

「うわぁ……、アアアア……」

 私はバックンバックン心臓を高鳴らせ、恵の手をギュッと握る。

「マジ心臓に悪い。もう二度とカジノ来ない」

 恵もまた、顔色を悪くしてブツブツ文句を言っていた。

 やがて、バンカーとプレイヤーに二枚ずつカードが配られ――、オープン!

(プレイヤーは!?)

 息を呑んでカードを見ると、なんと、6と3の9、ドンピシャ!

「よしっ!」

「っしゃ!」

 尊さんと涼さんはハイタッチし合い、私と恵はお互いを抱き締め合ってヘナヘナと崩れ落ちてしまった。

「マジもうやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ……」

「心臓口から出る死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」

 しゃがみ込んでいる私たちを見て、尊さんと涼さんは笑顔で笑い飛ばす。

「なーにやってるんだよ。ほれ、立て」

 尊さんは私の腋の下に手を入れ、ヒョイッと立たせる。

 隣では恵も同様にされていた。

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