部長と私の秘め事
「昨晩はすぐ寝た?」

 恵に尋ねると、「うん」と頷いた。

「お腹いっぱいだし、お酒も飲んだし気疲れしたし、スヤリンコだよ」

「……俺がムードのある曲を流して、ガウン姿で髪を掻き上げて『おいで』って言っても、『うっす』と言って横で寝始めたよね……。恵ちゃん、俺の扱い方分かってきたね……」

 涼さんが悲しげに言うので、私はケタケタ笑ってしまう。

「だって相手してる気力なかったから……。すんません。次はそのボケ、受け止めるので」

「ボケでもないんだけど?」

 悲鳴じみた声を聞き、私はさらに笑う。

「花になった夢は見なかった?」

「へ? 花?」

 恵が不思議そうな顔をするので、私と尊さんはクスクス笑う。

「なに? 内輪ネタ?」

 彼女が不審そうな顔をしたので、私は慌てて昨晩のフラワーネタを話す。

「なにそれ、ホラーじゃん」

「恵ちゃんは向日葵だよね~」

「私、涼さんは赤いバラに思えます。動物イメージもライオンだし、王様!」

 私が挙手して言うと、尊さんが「確かにみんなそう言うな」と同意する。

「朱里は何かな? 華やかな花のイメージだけど……。芍薬や牡丹……も綺麗だけど、ダリアも合ってるかも」

「ラナンキュラスもいいよな」

 みんなからお花のイメージを言われ、私は「えへへ……」と照れる。

「尊さんは?」

「俺はトリカブトでいいよ」

「こんな時まで自分を卑下しないで!?」

 慌ててフォローしようとすると、涼さんがいい事を言ってくれた。

「俺、尊は紫っぽい花のイメージがあるんだよな。藤とかライラックとか、一つ一つは小さいけど、シャラッとした花が似合うと思う」

「なんも出ねぇぞ」

「えー? 緑と金色のオーストラリアンカラーの、カンガルー柄ブーメランパンツ穿いてくれるんじゃないの?」

「先生、三日月くんが虐めます」

 尊さんが挙手して言うと、恵が冷ややかに言った。

「三日月くん、廊下でスクワットね」

「中村先生の命令なら喜んで!」

 どんどん場内がカオスになってきたぞ。

「恵ちゃんの女教師コス、想像したら燃える~!」

「ゾワッとするからやめてください」

「どんどん言葉を選ばなくなってきたね? でも燃える!」

 こんなに塩対応する女性は初めてだからか、涼さんも新しい性癖をこじ開けられているんじゃないだろうか。

 冷たくされるほど、喜んでいるように思える。

 チラッと尊さんを見ると、親友の新たな一面を見て気の毒そうな顔をしていた。





 そんな感じでワチャワチャ話しているとあっという間で、私たちは最初の駅レッドピークで降りた。

 降りた先は熱帯雨林に囲まれた木道があり、大きな木の横には解説の看板があり、二人に訳してもらった。

 この地点でまだ2.7キロで、キュランダまではさらにロープウェーに乗って4.8キロあるらしい。

 また景色を見ながらたわいのない話をしていた時――。

「尊さん、あれ見て!」

 私は鬱蒼とした森の中に、チラチラとする鮮やかな青を見つけて指さす。

「あー、よく見つけたね、朱里ちゃん。あれはユリシスだよ」

「ユリシス?」

 首を傾げると、尊さんが教えてくれる。

「日本名はオオルリアゲハ。こっちではユリシスと呼ばれる蝶だ。一回見ると幸せになる、体に留まったらさらに幸運に、三回見たら金持ちになるらしい」

「えっ? マジですか!? あと二匹見つけないと!」

 そのあと、恵と二人で窓の外に釘付けになりながら会話を進めていると、眼下に川が見えてきた。

 ――と思ったら、なんだか物凄い規模の滝がある。

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