部長と私の秘め事
ケアンズ2日目
「悪い、不幸自慢して勝ちたかった訳じゃなくて。色々言われたけど、俺たちは今、ケアンズで最高に楽しい時間を過ごせてるし、カジノでも勝ったし、結婚するし、最高の友達がいるし。……変えようのない過去を悲しむ気持ちは分かるけど、前向いていこうぜ。多分、朱里のいた学校でここまで幸せな人生を送ってる人って、中村さんぐらいしかいないんじゃないか?」
「確かに!」
私はクシャッと笑い、尊さんの胸板に顔をグリグリと押しつける。
「朱里も俺も、どん底の期間が長かった分、これから人生のピークがくると思おうぜ。最高の幸せはずっとは続かないかもしれないが、朱里の大切な人は俺が守るし、付き合う人は選べばいい。朱里は愉快な女だし、優しい、いい女だ。お前は物凄く価値がある。自分の価値を下げそうな相手とは、無理に付き合わなくていいし、断る勇気を持っていい」
「……はい」
足元を闇でできた泥にすくわれてしまいそうな時、いつでも尊さんが手を引っ張って光の差す所に導いてくれる。
十二年前も、今も変わらず。
私はこの話を始めたきっかけを思い出し、微笑んだ。
「尊さんが私を陽キャって感じてくれるなら、きっと今、安心できる場所で何にも怯えずに生きていられるからだと思います。……それに、私はすぐクヨクヨしちゃうけど、尊さんのほうがずっと芯の強い人です」
「俺はしっかりした土壌になるから、朱里はその上で綺麗な花を咲かせてくれよ」
「なら、私は土の痛みを知る花になりますね」
私は尊さんの頬に手を添え、チュッと唇を重ねるだけのキスをする。
そのあと、少し考えてから言った。
「顔のついてる、ニコニコフラワーでしょうか?」
「ぶふ……っ、お前の顔がついてたら、意志が強そうだ。根っこでできた足で、スタコラ走っていくんじゃないか?」
「やだ、それなんかもう、何かのゲームのモンスターみたいじゃないです?」
「中村さんの花がスッタカ走ってくのを、涼フラワーが猛スピードで追いかけてくんだよ」
「ひはははははははは! 涼さんフラワー、スピード速そう!」
私たちは訳の分からない話で盛り上がり、大笑いする。
じっくりと話をすると、暗い思い出の多い人生だから、過去にあった嫌な出来事を語りやすい。
当時は相談できる人が少なく、相手に言い返す事ができなかったから、今もわだかまっている想いを誰かに知ってもらい、肯定してもらいたい欲がある。
けれど尊さんの言う通り、どれだけ振り返って過去の嫌な人に文句を言っても、〝今〟その人たちに声が届く訳じゃない。
みんなそれぞれの想い、傷を抱えながら、目先の楽しみや未来の幸せを信じて生きていくしかないのだ。
「おやすみなさい」
寝る準備をしたあと、私はキングサイズベッドで尊さんにくっつき、囁く。
「明日は、今日以上に幸せになれるって思っとけ」
尊さんはそう言って、願いを込めるように私の額にキスをする。
私はこの上ない幸せを感じながら、足元の窓越しに見える南半球の夜空を見て、目を閉じた。
**
翌朝、お馴染みのビュッフェでは、甘いの、甘くないの、色んな種類のパンがあり、シリアルも充実している。
偏見で海外はあまり野菜を食べないイメージがあったけれど、サラダバーには色んな野菜があり、フルーツも豊富だ。
冷蔵庫の中には、グラスに入ったジュースやスムージーもある。
他にもオムレツをその場で焼いてもらったり、お馴染みのソーセージ、ベーコン、他の玉子料理、炒飯みたいなのもあった。
部屋に戻ったあと、メイクをして日焼け止めをガッツリ塗り、Tシャツにショーパン、靴下にスニーカー、髪はポニーテールにしてキャップを被った。
尊さんはいつも通り半袖Tシャツにデニム、キャップとサングラス。
ホテルのロビーで会った涼さんと恵も、お互い似たような感じだった。
その日は、スカイレール・レインフォレスト・ケーブルウェイという、世界遺産の熱帯雨林やバロン滝を見下ろせる、ながーいロープウェイに乗ってキュランダという村に向かう。
キュランダを観光したあとは、キュランダ高原鉄道に乗ってケアンズの街に戻る予定だ。
私たちはホテルを出てタクシーに乗り、ケアンズの街並みを見ながら二十分ほどで、ロープウェイの乗り場のある、スミスフィールド・ターミナルへ行く。
そしてワクワクしながら、緑色のロープウェイに乗った。
ロープウェイは四人乗りで、乗り場の所では勿論ゆっくり動いてくれるけれど、いざ直線コースになると、思いの外向かいのゴンドラが速く過ぎ去ってびっくりした。
「緑ばっかりですね」
「土地いっぱい、熱帯雨林だからな。ぶっちゃけこのロープウエイは自然を楽しむものだ」
「確かに、景色はいいですよね」
足元はもっさりした緑の山、遠くにはケアンズの街と畑、さらに奥に海と空。
それだけのシンプルなパノラマだけれど、東京に比べると自然一杯で贅沢だ。
頂上のキュランダ駅までは7.5キロあり、途中に二つ駅があるけれど、片道一時間はかかる。
素晴らしいパノラマなんだけれど、人間、同じ景色を見てばかりも飽きてしまうので、私たちは雑談をし始めた。
「確かに!」
私はクシャッと笑い、尊さんの胸板に顔をグリグリと押しつける。
「朱里も俺も、どん底の期間が長かった分、これから人生のピークがくると思おうぜ。最高の幸せはずっとは続かないかもしれないが、朱里の大切な人は俺が守るし、付き合う人は選べばいい。朱里は愉快な女だし、優しい、いい女だ。お前は物凄く価値がある。自分の価値を下げそうな相手とは、無理に付き合わなくていいし、断る勇気を持っていい」
「……はい」
足元を闇でできた泥にすくわれてしまいそうな時、いつでも尊さんが手を引っ張って光の差す所に導いてくれる。
十二年前も、今も変わらず。
私はこの話を始めたきっかけを思い出し、微笑んだ。
「尊さんが私を陽キャって感じてくれるなら、きっと今、安心できる場所で何にも怯えずに生きていられるからだと思います。……それに、私はすぐクヨクヨしちゃうけど、尊さんのほうがずっと芯の強い人です」
「俺はしっかりした土壌になるから、朱里はその上で綺麗な花を咲かせてくれよ」
「なら、私は土の痛みを知る花になりますね」
私は尊さんの頬に手を添え、チュッと唇を重ねるだけのキスをする。
そのあと、少し考えてから言った。
「顔のついてる、ニコニコフラワーでしょうか?」
「ぶふ……っ、お前の顔がついてたら、意志が強そうだ。根っこでできた足で、スタコラ走っていくんじゃないか?」
「やだ、それなんかもう、何かのゲームのモンスターみたいじゃないです?」
「中村さんの花がスッタカ走ってくのを、涼フラワーが猛スピードで追いかけてくんだよ」
「ひはははははははは! 涼さんフラワー、スピード速そう!」
私たちは訳の分からない話で盛り上がり、大笑いする。
じっくりと話をすると、暗い思い出の多い人生だから、過去にあった嫌な出来事を語りやすい。
当時は相談できる人が少なく、相手に言い返す事ができなかったから、今もわだかまっている想いを誰かに知ってもらい、肯定してもらいたい欲がある。
けれど尊さんの言う通り、どれだけ振り返って過去の嫌な人に文句を言っても、〝今〟その人たちに声が届く訳じゃない。
みんなそれぞれの想い、傷を抱えながら、目先の楽しみや未来の幸せを信じて生きていくしかないのだ。
「おやすみなさい」
寝る準備をしたあと、私はキングサイズベッドで尊さんにくっつき、囁く。
「明日は、今日以上に幸せになれるって思っとけ」
尊さんはそう言って、願いを込めるように私の額にキスをする。
私はこの上ない幸せを感じながら、足元の窓越しに見える南半球の夜空を見て、目を閉じた。
**
翌朝、お馴染みのビュッフェでは、甘いの、甘くないの、色んな種類のパンがあり、シリアルも充実している。
偏見で海外はあまり野菜を食べないイメージがあったけれど、サラダバーには色んな野菜があり、フルーツも豊富だ。
冷蔵庫の中には、グラスに入ったジュースやスムージーもある。
他にもオムレツをその場で焼いてもらったり、お馴染みのソーセージ、ベーコン、他の玉子料理、炒飯みたいなのもあった。
部屋に戻ったあと、メイクをして日焼け止めをガッツリ塗り、Tシャツにショーパン、靴下にスニーカー、髪はポニーテールにしてキャップを被った。
尊さんはいつも通り半袖Tシャツにデニム、キャップとサングラス。
ホテルのロビーで会った涼さんと恵も、お互い似たような感じだった。
その日は、スカイレール・レインフォレスト・ケーブルウェイという、世界遺産の熱帯雨林やバロン滝を見下ろせる、ながーいロープウェイに乗ってキュランダという村に向かう。
キュランダを観光したあとは、キュランダ高原鉄道に乗ってケアンズの街に戻る予定だ。
私たちはホテルを出てタクシーに乗り、ケアンズの街並みを見ながら二十分ほどで、ロープウェイの乗り場のある、スミスフィールド・ターミナルへ行く。
そしてワクワクしながら、緑色のロープウェイに乗った。
ロープウェイは四人乗りで、乗り場の所では勿論ゆっくり動いてくれるけれど、いざ直線コースになると、思いの外向かいのゴンドラが速く過ぎ去ってびっくりした。
「緑ばっかりですね」
「土地いっぱい、熱帯雨林だからな。ぶっちゃけこのロープウエイは自然を楽しむものだ」
「確かに、景色はいいですよね」
足元はもっさりした緑の山、遠くにはケアンズの街と畑、さらに奥に海と空。
それだけのシンプルなパノラマだけれど、東京に比べると自然一杯で贅沢だ。
頂上のキュランダ駅までは7.5キロあり、途中に二つ駅があるけれど、片道一時間はかかる。
素晴らしいパノラマなんだけれど、人間、同じ景色を見てばかりも飽きてしまうので、私たちは雑談をし始めた。