部長と私の秘め事
 水の道を進んで行くと、広い池(濁っているけれど)があり、アーミーダックはそこをスイスイ進んで行く。

 ガッタンゴットンしない分、水上のほうが楽なぐらいだ。

「あっ、ユリシス!」

 私はジャングルの向こうに鮮やかな蝶を見つけ、尊さんの袖を引く。

「お、ホントだ」

「あ、涼さん、こっちもいますよ」

 恵の声がして左を向くと、そちらにもユリシスがいた。

 私たちの声を聞き、他の乗客たちもワッと歓声を上げて写真を撮っている。

 ほどなくしてアーミーダックは地上に戻り、またガッタンゴットンと進んで行く。

 運転手さんが言うには、南米のアマゾンのジャングルは約七千万年前にできたらしいけれど、ケアンズのジャングルは一億五千万年前にできたんだそうだ。

 ツアー終盤、バナナの木を紹介された私は、「わあ!」と声を上げて尊さんに笑われてしまった。

 ケアンズの付近にはバナナ農園が多くあり、レッドダッカバナナというのは、赤みのある皮で甘みが強いんだそうだ。

 約四十五分のアーミーダックツアーが終わったあと、受付では先ほど撮った写真が販売されていた。早い。

「記念に買うか?」

「ほしいです!」

 尊さんに言われて私は頷く。

 隣で恵も「記念に……」と頷いて、涼さんが嬉々としてお財布を出していた。





 そのあと私たちはコアラガーデンに向かい、念願のコアラと対面する事になる。

 ケアンズでコアラを抱っこして撮影できる場所は他にもあるらしいけれど、どうせなら効率良くとの事で、ここに向かった次第だ。

 入園料とは別にコアラ抱っこ代がかかるけれど、コアラのためなら何のその。

 ちなみにコアラの抱っこには身長制限があり、130センチメートル以上ないと駄目らしい。

 ガーデンにはコアラだけじゃなくウォンバットや、クオッカワラビー、クロコダイルなどもいる。

 ウォンバットはもっさりした四足歩行の動物で、つぶらな目がチャーミングだ。

 流石オーストラリアという事で、有袋類である事が特徴に挙げられる。

 ワラビーは、カンガルーのちっちゃいバージョンと思って良く、よく動画でボクシングみたいに殴り合いをしているカンガルーを思えば、非常に小柄で可愛らしい。

 ロックワラビーというのもいて、そちらに比べるとクオッカワラビーはモフモフしてぬいぐるみ感が強い。

「あっ、ワニだ。日向ぼっこしてる」

 水辺には灰色っぽい色のワニがいて、ジッと日光を浴びている。

「涼さんも朱里も、あれを食べたんだ……」

 恵がしみじみと言うので、私は焦って言い訳する。

「さすがにあのワニは食べないからね!? まともにいっても勝てないと思うし」

「万が一にも勝てると思ってるかもしれねぇのが、こえーな」

 尊さんの冷静な突っ込みを受け、恵は横を向いて笑う。

「俺はなんでもペロリだよ~。なんなら、恵ちゃんの事もペロリだよ」

「昼間からセクハラするなら、頭からワニに囓られてきてください」

「ふーん? そんな塩対応する恵ちゃんには、クロコダイル柄の財布でもプレゼントしようかな?」

「やめてくださいっ」

 どうやら涼さんも、最近は恵の岩塩を打ち返す方法を習得してきたみたいだ。

 そんな会話をしつつも園内を進み、とうとうコアラに対面した。

「コアラちゅあ~ん……」

 私が甘ったるい声を上げると、尊さんが「どこかの大泥棒みたいだな」と突っ込む。

 素晴らしいのは、日本の動物園だと動物はガラス越しにしか見られないけれど、ガラスがなく、かなり近くで見られる事だ。

 木に掴まって眠っている子もいるし、ムシャムシャとユーカリの葉を食べている子もいる。

「あのひたすら喰ってる奴の名前は、きっと朱里だな」

「なにをう!?」

 そんな会話をしつつ、私たちはコアラ抱っこの申し込みをし、列に並ぶ。

 やがてスタッフさんがやってきて、コアラの抱っこの仕方をレクチャーしてくれた。

 赤ちゃんをタテに抱くような感じで、左手でお尻を支えて、右手は前に回して上半身を支えるような形だ。

 そしてコアラちゃんとご対面の時がやってきた。

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