部長と私の秘め事
「可愛いでちゅね~……」

 私はコアラを落とさないようにしっかり抱き、ニコニコ笑顔で写真を撮ってもらう。

 コアラの毛は硬いと言われているけれど、割とそうでもない。

 四人それぞれ写真を撮ってもらったあと、私たちはもう一度ゆっくりガーデン内を歩き、セクシーな寝姿のカンガルーを写真に撮ったりした。

「ゴロゴロしてる時の朱里ってああいう感じだよね。無駄にセクシーだし、睫毛長いし」

「ちょっ……、どういう意味かな!?」

 恵に言われて突っ込むと、隣で尊さんが「ぶふっ」と笑っている。

「あー、袋に赤ちゃんいる」

「ホントだ」

 私と恵は馴染み深いとは言えないカンガルーに夢中になり、何枚も写真を撮る。

「カンガルーはこっちでは本当に身近な動物で、日本だと鹿みたいな感覚らしい」

「へー! そういえば、鹿肉も食べますもんね……」

「すぐ食べるほうに考える……」

 恵にジト目で見られた私は、「えへへ……」と照れ笑いする。

 クオッカは笑っているように見えるので、〝世界一幸せな動物〟と言われているらしい。

 笑ってるだけでそう言われるのは、ちょっと荷が重そうに思えるけど……。

 クオッカはコアラとさほど変わらない体の大きさで、でも地面をノソノソ歩いているので、なかなか顔を上げた瞬間を拝めない。

「笑ってなくても可愛いよね~。恵みたいに」

 隣にいる親友のほっぺをムニュー、とすると「やめい」と言われる。

「朱里ちゃん、分かってるね~。恵ちゃんはツンツンしてても魅力倍増で、笑った瞬間に曇天が晴れて太陽が現れるんだよねぇ……」

「そこまでアマテラスじゃないです。人をなんだと思ってるんですか」

「俺はいつでも日照不足だよ」

「急に日照権を訴えてこないでください」

「そこでいい肥料とお水を上げたら、涼さんフラワーが咲くんですね」

 話をさっきのネタに繋げると、全員がドッと笑った。

 ウォンバットは基本的に夜行性の上に、モグラのように巣穴で暮らす性質を持っているので、自然な作りのトンネルの奥にいて、残念ながら姿を拝む事はできなかった。

 そのあと、キュランダ鉄道の時間が迫っていたので、遅れないように早めの行動をとる事にした。

 なにせ一日の運航本数が決まっていて、往復それぞれ二本だけ。

 その上、全席指定なので乗り遅れたら大変だ。

 指定席については、お昼過ぎにスマホのSMSに連絡がくるので、それを確認して乗る事になる。

 つくづく、英語が分かる人が一緒にいて良かった。

 私と恵もまったくできない訳じゃないし、学生時代にある程度の勉強はした。

 けれど社会人になったあと、仕事相手は日本人ばかりだし、英語を披露する事はそうない。

 ネットを見ていても、ブラウザの機能で自動的に翻訳してくれるので、気がついたらどんどん英語力が落ちていった。





 キュランダ鉄道は、茶色い車体に白い窓枠があり、天井は黒っぽい外装をしている。

 内装は基本的に向かい合わせのボックス席で、八人掛けか六人掛け。

 ボックス席の片側に通路がある作りで、日本の電車のように通路の反対側の席がない。

 通路側はキャメルカラーの木目調になっていて、窓は開いているけれど柵があって身を乗り出せないようになっている。

 どこに座れるかまでは指定できないけれど、人数が多かったからか、幸いにも窓側に座る事ができた。

 キュランダ鉄道は観光のための列車だ。

 山の上のキュランダ村、もしくは麓のケアンズ駅を出発して、二時間を掛けて目的地に着く。

 観光スポットとしては、下車して見学できるバロン滝、乗ったまま見られるストーニー・クリーク滝、旅行会社のパンフレットとかにもよく出る、有名なヘアピンカーブでは、ぎゅーんと曲がったキュランダ鉄道を撮影できる。

 いざ定時になって鉄道が動き始めたあと、私たちはゆっくり景色を楽しんだ。

 ヘアピンカーブに差し掛かると、十四両ある鉄道が撮影できて壮観だ。

「鉄オタの人、喜びそう」

「ほんそれ。私、鉄オタじゃないけど、これはちょっと壮観だよね」

 恵と二人で窓側に張り付いて撮影したあと、サッと尊さん、涼さんに変わってあげた。

 二時間かけて鉄道の旅を楽しんだあと、私たちはホテル近くのケアンズ駅に降り立った。

「はー! 疲れたね」

「スーパーでも寄って、夕食までホテルで休むか?」

「賛成です! 飲み物ほしい!」

 私と尊さんはそんな会話をし、涼さん、恵と一緒にゾロゾロとスーパーマーケットへ向かった。
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