部長と私の秘め事
「そもそも、天照大神とコンビを組む事が許された、豊受大御神って何者ですか? お参りが終わったあとに何ですが。外宮に住んでいいほどお気に入りなんでしょうか」
「はい、上村さんいい質問ですね」
尊さんが言い、他の皆さんは私たちのやり取りをニコニコして見ている。
「四八七年、雄略天皇の時、天照大神が天皇の夢に出て言ったらしい。『自分一人じゃ大変だから、身の回りの事をやってくれる神様呼んでね~』って」
「なんと!」
思いも寄らない天照大神の親しみやすさに、私はケラケラ笑う。
「それでもともと丹後――、京都にいた豊受大神宮……、豊受姫が呼ばれたって訳だ。那智の時に伊弉冉尊がカグツチを生んだ時に、陰部をやられて倒れたって話をしたろ。そのあとに生まれた和久産巣日っていう神の子供が、豊受姫とされてる。和久産巣日は五穀や蚕、桑の神で、豊受姫も食物や穀物の神だ。……まぁ、和久産巣日は『日本書紀』ではカグツチの子供とされてるけど」
「へぇ~……。じゃあ、尊さんと町田さんみたいなものですね。一人暮らしじゃ色々大変なミコトと、そのお世話をする町田さん。納得しました」
それを聞いて、周りにいた皆さんが噴きだした。
彼も思わず笑い、付け足す。
「羽衣伝説ってあるだろ」
「ああ、あの水浴びしてたら服を泥棒された奴ですね」
「そうそう。『丹後国風土記』では、その羽衣をとられた天女が豊受姫ともされてる」
「へぇー……。何て言うか……、不幸体質のヒロインみたいな神様ですね」
「そうとも言えるな。大企業の社長の家政婦をやって、美貌のあまり男に執着されるとかな……」
そうやって考えると、めっちゃ親近感が湧いた。
「その羽衣伝説も丹後型では天に帰れなくなった天女が老夫婦の子供になって、酒造りで大繁盛して富をもたらすも、自分の子供じゃないと追い出されて、結果的に豊受姫という神の形で地上に留まるパターン。これは山間部の伝承では、天女の父親が求婚してくる男に難題を出す、七夕伝説に繋がる場合もある。……近江型では、天に帰れなくなって男と結婚し子供を産むが、羽衣を見つけて天に帰るパターン。子供を置いてく説もあるし、一緒に連れてく説もある」
「どのパターンでも苦労者ですねぇ……」
話しながら私たちは来た道を戻り、緩くカーブする石段を登って別宮・多賀宮へ向かった。
石階段の上にあったのは、御正宮と似た印象の茅葺き屋根のお宮だ。
「……こういう事を言ったら罰当たりかもしれませんが、那智大社の朱塗りのお宮と比べると地味ですね」
「まぁな。でもさっきも説明した通り、御正宮は二十年に一度建て替える訳だろ? いちいち煌びやかな装飾をしてたら、シンプルに破産しねぇか? 替えるのは建物だけじゃなくて、衣とか道具とか他の物も全部総入れ替えだしな。……それに外宮で最も位の高い御正宮が茅葺きなら、それより格下であるそれぞれのお宮も、それ以下にならないといけねぇんだと思う」
「あっ、確かに……」
私は納得し、ポンと手を打つ。
「この多賀宮は、御祭神が豊受大御神荒御魂だ」
「……豊受……同じ神様?」
首を傾げて尋ねると、尊さんは頷く。
「同じ神様なんだけど、和御魂っていう優しい面と、荒御魂っていう荒々しい、力強い面とがあるんだ。さっきは感謝の気持ちでお参りを……って言ったけど、こっちはもっと俗物的な願いを捧げてもいいと思う」
「なるほどー!」
俗物的なお願いをしたい私はホッと安心し、順番待ちをして参拝する。
そしてゆっくりと階段を下りたあと、来た道を戻って神楽殿の所から左折し、北御門の方へ向かって歩く。
途中、御正宮を横手から見える部分で尊さんが立ち止まった。
「あそこに三角屋根が見えてるだろ。御饌殿って言って、内宮と外宮の神様が一緒に食事をする所なんだ」
「へぇ~!」
「一日二回食事をするのも祭になってて、日別朝夕大御饌祭って呼ばれてる。この千五百年の間、応仁の乱とか関ヶ原とか、どんな事があっても食事を欠かした事がないらしいぞ」
「すごーい!」
もう少し進むと、ロープが張られた向こうに、木の柵に囲まれた建物が見えた。
「はい、上村さんいい質問ですね」
尊さんが言い、他の皆さんは私たちのやり取りをニコニコして見ている。
「四八七年、雄略天皇の時、天照大神が天皇の夢に出て言ったらしい。『自分一人じゃ大変だから、身の回りの事をやってくれる神様呼んでね~』って」
「なんと!」
思いも寄らない天照大神の親しみやすさに、私はケラケラ笑う。
「それでもともと丹後――、京都にいた豊受大神宮……、豊受姫が呼ばれたって訳だ。那智の時に伊弉冉尊がカグツチを生んだ時に、陰部をやられて倒れたって話をしたろ。そのあとに生まれた和久産巣日っていう神の子供が、豊受姫とされてる。和久産巣日は五穀や蚕、桑の神で、豊受姫も食物や穀物の神だ。……まぁ、和久産巣日は『日本書紀』ではカグツチの子供とされてるけど」
「へぇ~……。じゃあ、尊さんと町田さんみたいなものですね。一人暮らしじゃ色々大変なミコトと、そのお世話をする町田さん。納得しました」
それを聞いて、周りにいた皆さんが噴きだした。
彼も思わず笑い、付け足す。
「羽衣伝説ってあるだろ」
「ああ、あの水浴びしてたら服を泥棒された奴ですね」
「そうそう。『丹後国風土記』では、その羽衣をとられた天女が豊受姫ともされてる」
「へぇー……。何て言うか……、不幸体質のヒロインみたいな神様ですね」
「そうとも言えるな。大企業の社長の家政婦をやって、美貌のあまり男に執着されるとかな……」
そうやって考えると、めっちゃ親近感が湧いた。
「その羽衣伝説も丹後型では天に帰れなくなった天女が老夫婦の子供になって、酒造りで大繁盛して富をもたらすも、自分の子供じゃないと追い出されて、結果的に豊受姫という神の形で地上に留まるパターン。これは山間部の伝承では、天女の父親が求婚してくる男に難題を出す、七夕伝説に繋がる場合もある。……近江型では、天に帰れなくなって男と結婚し子供を産むが、羽衣を見つけて天に帰るパターン。子供を置いてく説もあるし、一緒に連れてく説もある」
「どのパターンでも苦労者ですねぇ……」
話しながら私たちは来た道を戻り、緩くカーブする石段を登って別宮・多賀宮へ向かった。
石階段の上にあったのは、御正宮と似た印象の茅葺き屋根のお宮だ。
「……こういう事を言ったら罰当たりかもしれませんが、那智大社の朱塗りのお宮と比べると地味ですね」
「まぁな。でもさっきも説明した通り、御正宮は二十年に一度建て替える訳だろ? いちいち煌びやかな装飾をしてたら、シンプルに破産しねぇか? 替えるのは建物だけじゃなくて、衣とか道具とか他の物も全部総入れ替えだしな。……それに外宮で最も位の高い御正宮が茅葺きなら、それより格下であるそれぞれのお宮も、それ以下にならないといけねぇんだと思う」
「あっ、確かに……」
私は納得し、ポンと手を打つ。
「この多賀宮は、御祭神が豊受大御神荒御魂だ」
「……豊受……同じ神様?」
首を傾げて尋ねると、尊さんは頷く。
「同じ神様なんだけど、和御魂っていう優しい面と、荒御魂っていう荒々しい、力強い面とがあるんだ。さっきは感謝の気持ちでお参りを……って言ったけど、こっちはもっと俗物的な願いを捧げてもいいと思う」
「なるほどー!」
俗物的なお願いをしたい私はホッと安心し、順番待ちをして参拝する。
そしてゆっくりと階段を下りたあと、来た道を戻って神楽殿の所から左折し、北御門の方へ向かって歩く。
途中、御正宮を横手から見える部分で尊さんが立ち止まった。
「あそこに三角屋根が見えてるだろ。御饌殿って言って、内宮と外宮の神様が一緒に食事をする所なんだ」
「へぇ~!」
「一日二回食事をするのも祭になってて、日別朝夕大御饌祭って呼ばれてる。この千五百年の間、応仁の乱とか関ヶ原とか、どんな事があっても食事を欠かした事がないらしいぞ」
「すごーい!」
もう少し進むと、ロープが張られた向こうに、木の柵に囲まれた建物が見えた。