部長と私の秘め事
伊勢神宮・内宮
「外宮の御正宮が神明造っていう建築物で、左右に棟持柱っていう立派な柱があるんだ。妻って、屋根のてっぺんのラインから続く面があるんだが」
尊さんはそう言って、指でツゥッと空中を横に撫で、両手を揃えて下ろす。
「その両妻を支えている柱なんだ」
「なるほど。……って、涼さんが妻になったって思っちゃったの、秘密にしておきます」
「ぶふぉっ」
尊さんは噴き出し、「ノリノリでフリルのエプロンつけてそうだな」と付け加える。
「そうやって外宮の御正宮から、内宮の鳥居に変わって二十年。さらに役目を終えたあと、カンナをかけて新品同然に戻したあと、同じ三重県の桑名市にある船着き場で、天明年間に神宮の〝一の鳥居〟が建てられた、〝七里の渡し〟や、伊勢国の入り口と言われている、亀山市の〝関の追分〟の鳥居になる」
「へー! 再利用してるの偉い!」
「そこまでで六十年だが、そのあともさらにカンナをかけて綺麗にして、とてもありがたい物だから、全国のお宮に分けられて朽ち果てるまで使われるらしい。だから全国の神社に、かつて伊勢神宮で使われていた……って鳥居が結構あるみたいだ」
「サスティナビリティ……」
感心しつつ橋を歩き、五十鈴川を写真に収める。
「内宮だけでも年間五百万人ぐらい訪れてるらしく、この橋は参拝するのに往復するだろ? で、一千回は通られてる。それを二十年で、二億人以上は渡っている事になる」
「ふえー! 億千万!」
今まで橋の大変さを考えた事ってなかったけれど、二億人以上の人に踏まれた橋が気の毒になってくる。
「だから場所によっては、かなりすり減ってるらしい」
「そっと歩かないと……」
「で、朱里が今写真に収めた川の向こう、この辺は神宮の森と言われて、甲子園球場の一四百個分相当と言われてる」
「わーお! 神様、土地持ち!」
「この辺の森を宮域林って言って、式年遷宮に必要な木材は、この辺りから調達しているそうだ。……だが一回の式年遷宮で、一万本の檜が必要になるから、資源が枯渇しちまう。森を守るために植林を始めたのが明治天皇の時代だ。……前回の式年遷宮では三割が宮域林の木材で賄ったらしく、式年遷宮で必要な一万本をすべてこの宮域林の木で賄えるようになるには、あと三百年は必要らしい」
「わぁ……、壮大。その頃になっても、伝統が守られてるといいですね」
「だな。あと三百年経ったら、それ以降はずっと宮域林の木だけで式年遷宮が行えるそうだ」
「なんか凄いなぁ……」
観光地として、映える橋を渡ってすぐ終わり、と思いそうだけれど、ミコペディアのお陰で周りの森にも畏敬の念を抱けている。
宇治橋を渡った私たちは、さらに奥へ進んでいく。
「あとからもう一つ橋を渡るんだが、川って〝境界〟って言われてるだろ。霊的な意味での境界とか」
「あー……、三途の川?」
思いついた単語を口にすると、尊さんは頷く。
「まぁ、あの世じゃねぇけど、神域という意味では異界と言っていいのかもしれない。こうやって二重に川に囲まれている事で、奥の神格が高くなっている……とも言えるんじゃないかな。那智の滝みたいに、川、水には何らかのエネルギーがあって、常に流れている新しい水ほど神聖化されているというか……。ほら、淀んでいるため池みたいなのは、危険なイメージがあるだろ」
「あっ、分かります」
某、井戸で有名なホラー映画を思い出したのは、今は言わないでおこう。
鳥居をくぐってさらに奥に進むと、右手側に五十鈴川が見えた。
「昔はあそこで禊をしてから参拝していたそうだ。でも全員がやったら大変な事になるから、その代わりに手水」
「あー!」
私は深い納得を得て、ポンと手を打つ。
「……という事で、手を洗ってみるか」
私たちはゾロゾロと連れだって、五十鈴川へ向かう。
流れはとても静かで、水面も穏やかだ。
ほとりでしゃがむと手を洗えるぐらいの段差で、私はタオルハンカチを出してから手を洗う。
「川の中にお金入ってますけど、お賽銭ポイントですか?」
「いや、違うな。ここは入れちゃいかん場所だ」
「あー、聞けて良かった。なんかみんなやってるの見ると、『そうなのかな?』って思ってやっちゃい勝ちですよね」
そこに、弥生さんが参戦してきた。
「分かるわぁ~! 私あちこちで、お賽銭ばらまきポイントだと思ったら、惜しげもなく小銭撒いちゃう」
「正月の餅撒きじゃないんだから」
尊さんがボソッと突っ込む。
尊さんはそう言って、指でツゥッと空中を横に撫で、両手を揃えて下ろす。
「その両妻を支えている柱なんだ」
「なるほど。……って、涼さんが妻になったって思っちゃったの、秘密にしておきます」
「ぶふぉっ」
尊さんは噴き出し、「ノリノリでフリルのエプロンつけてそうだな」と付け加える。
「そうやって外宮の御正宮から、内宮の鳥居に変わって二十年。さらに役目を終えたあと、カンナをかけて新品同然に戻したあと、同じ三重県の桑名市にある船着き場で、天明年間に神宮の〝一の鳥居〟が建てられた、〝七里の渡し〟や、伊勢国の入り口と言われている、亀山市の〝関の追分〟の鳥居になる」
「へー! 再利用してるの偉い!」
「そこまでで六十年だが、そのあともさらにカンナをかけて綺麗にして、とてもありがたい物だから、全国のお宮に分けられて朽ち果てるまで使われるらしい。だから全国の神社に、かつて伊勢神宮で使われていた……って鳥居が結構あるみたいだ」
「サスティナビリティ……」
感心しつつ橋を歩き、五十鈴川を写真に収める。
「内宮だけでも年間五百万人ぐらい訪れてるらしく、この橋は参拝するのに往復するだろ? で、一千回は通られてる。それを二十年で、二億人以上は渡っている事になる」
「ふえー! 億千万!」
今まで橋の大変さを考えた事ってなかったけれど、二億人以上の人に踏まれた橋が気の毒になってくる。
「だから場所によっては、かなりすり減ってるらしい」
「そっと歩かないと……」
「で、朱里が今写真に収めた川の向こう、この辺は神宮の森と言われて、甲子園球場の一四百個分相当と言われてる」
「わーお! 神様、土地持ち!」
「この辺の森を宮域林って言って、式年遷宮に必要な木材は、この辺りから調達しているそうだ。……だが一回の式年遷宮で、一万本の檜が必要になるから、資源が枯渇しちまう。森を守るために植林を始めたのが明治天皇の時代だ。……前回の式年遷宮では三割が宮域林の木材で賄ったらしく、式年遷宮で必要な一万本をすべてこの宮域林の木で賄えるようになるには、あと三百年は必要らしい」
「わぁ……、壮大。その頃になっても、伝統が守られてるといいですね」
「だな。あと三百年経ったら、それ以降はずっと宮域林の木だけで式年遷宮が行えるそうだ」
「なんか凄いなぁ……」
観光地として、映える橋を渡ってすぐ終わり、と思いそうだけれど、ミコペディアのお陰で周りの森にも畏敬の念を抱けている。
宇治橋を渡った私たちは、さらに奥へ進んでいく。
「あとからもう一つ橋を渡るんだが、川って〝境界〟って言われてるだろ。霊的な意味での境界とか」
「あー……、三途の川?」
思いついた単語を口にすると、尊さんは頷く。
「まぁ、あの世じゃねぇけど、神域という意味では異界と言っていいのかもしれない。こうやって二重に川に囲まれている事で、奥の神格が高くなっている……とも言えるんじゃないかな。那智の滝みたいに、川、水には何らかのエネルギーがあって、常に流れている新しい水ほど神聖化されているというか……。ほら、淀んでいるため池みたいなのは、危険なイメージがあるだろ」
「あっ、分かります」
某、井戸で有名なホラー映画を思い出したのは、今は言わないでおこう。
鳥居をくぐってさらに奥に進むと、右手側に五十鈴川が見えた。
「昔はあそこで禊をしてから参拝していたそうだ。でも全員がやったら大変な事になるから、その代わりに手水」
「あー!」
私は深い納得を得て、ポンと手を打つ。
「……という事で、手を洗ってみるか」
私たちはゾロゾロと連れだって、五十鈴川へ向かう。
流れはとても静かで、水面も穏やかだ。
ほとりでしゃがむと手を洗えるぐらいの段差で、私はタオルハンカチを出してから手を洗う。
「川の中にお金入ってますけど、お賽銭ポイントですか?」
「いや、違うな。ここは入れちゃいかん場所だ」
「あー、聞けて良かった。なんかみんなやってるの見ると、『そうなのかな?』って思ってやっちゃい勝ちですよね」
そこに、弥生さんが参戦してきた。
「分かるわぁ~! 私あちこちで、お賽銭ばらまきポイントだと思ったら、惜しげもなく小銭撒いちゃう」
「正月の餅撒きじゃないんだから」
尊さんがボソッと突っ込む。


