部長と私の秘め事
それぞれの新生活と出会い
朱里は高校一年生の時に田村昭人という男子生徒と同じクラスになり、告白されたらしい。
報告を聞いた俺は、何とも言えない気持ちになった。
遠くから見守っている娘が、顔も知らない男と付き合い始めたのを聞いたような感覚だ。
さらなる変化として、朱里の母親が再婚した。
母子家庭だった二人の生活が安定するのは歓迎だが、継父には連れ子がいて、兄と妹は朱里と年齢が近いと聞いた。
(絶対なんかあるだろ……)
その状況を想像しただけで、俺は頭を抱えてしまった。
中村さんも同じ事を考えたようで、今まで以上に朱里の相談に乗ると言っていた。
いっぽうその頃、俺は篠宮ホールディングスに入社していた。
篠宮家と会社から逃れられないと諦めた俺は、他の新入社員と一緒に毎日を過ごすようになった。
せめて家に帰ったら安らげるように、三田の少しいいマンションを買った。
会社に勤めるに当たって、俺は速水尊と名乗る事になる。
怜香いわく『風磨が跡継ぎになるのは当たり前。でも浮気相手の息子が篠宮の姓を名乗り、同じ会社にいるのは耐えられないわ』との事だ。
親父は怜香の意見を受け入れ、俺はこの会社で働くならどんな立場でも同じだと思い、諾々と受け入れた。
だがいい事もあり、会社に入ってすぐ出会いがあった。
同じ班に配属されたのは、宮本凜という名前の、サッパリとした性格の女性だ。
『速水くんは今日もかったるそうな顔をしてるなぁ』
朝、始業前にぼんやりとスマホを見ていると、宮本にバシッと肩を叩かれた。
『いてーよ、馬鹿力』
『鍛え方が足りないんじゃない?』
宮本はカラカラと笑い、隣の席に座る。
彼女はスラッとした長身で、トレードマークのように黒いストレートロングヘアを一本に縛っている。
スリムな体型で脚が長く、パンツスーツがとてもよく似合っていた。
それまでの俺は何回も女性に告白され、本気ではない付き合い方をしては、理由もなく別れていた。
だから女性を見ると、あまり関わりたくない、面倒だという気持ちが先立つ。
なのに宮本と話していると、とても心地いいし楽だ。
色恋など考えずポンポン言い合い、宮本も俺を男として見ず、ただの同僚として付き合ってくれる。だからこそ宮本とはこのままの関係でいたいと願った。
なのに意識するほど、彼女の女性らしさに気づいてしまう。
一本縛りにした首に掛かる柔らかそうな後れ毛に、白く細いうなじ。
どれだけ威勢が良くても、側にいると自分より背が低く華奢な体型なのを思い知る。
他の男性社員は『宮本は美人だけど女として見られないわ』と笑い交じりに言い、俺はその言葉を聞いて内心で安堵していた。
俺たちは新人コンビとして、先輩の力を借りながら様々な案件に取り組んでいった。
意気投合し、何をするにも一緒なので、当たり前に一緒に昼飯を食い、仕事帰りに飲んだ。
だが宮本は酒を飲んで酔っ払った時は正体不明になり、吐くわ絡むわで大変だ。
何度も一緒に飲むうちに、俺は宮本を家まで送るようになっていた。
その日も仕事帰りに焼き肉を食い、シメににんにくがたっぷり入ったラーメンを食べたあと、酔い潰れた宮本を送った。
『……おい、宮本。起きろ』
宮本の部屋の前で、俺はペチペチと彼女の頬を叩く。
『んー……』
いい気分になってウトウトしている宮本は、グフッとげっぷをする。
『お前、くせぇよ。シメだからってにんにく足すなよ』
『速水くんだって、にんにく足したくせに……』
宮本は真っ赤な顔で言い返したあと、バッグからキーケースを取りだす。
『速水くん、ちょっと寄ってきなよ。飲み直そ』
『まだ飲むつもりかよ……』
『同期のよしみじゃーん』
家に上がって電気をつけた宮本は、ジャケットを脱いでハンガーに掛け、半袖シャツ姿になると冷蔵庫からビールの缶を出し、俺に向かって放った。
『おっと』
缶ビールを受け取った俺は、鞄を適当に置いて床に座った。
『あっつい』
手でパタパタと顔を仰いだ宮本は、エアコンの電源を入れる。
そのあとも仕事の話やくだらない話をしながら、俺たちはどんどんビールの缶を空けていった。
『もう遅いから泊まってきなよ。雑魚寝になるけど、シャワーは使わせてあげる』
サラリと言われ、俺は宮本を睨む。
床の上に胡座をかいた彼女は、俺を見て含んだ笑みを浮かべた。
『……いいのか?』
俺は熱を孕んだ目で尋ねる。
酔っぱらってるし、二人ともにんにく臭いけど、お互い酒には強い。
あいつが〝分かっていて〟言っているのは理解した。
『……いいよ』
宮本はいつになく女っぽい表情になり、自らシャツのボタンに手を掛けた。
報告を聞いた俺は、何とも言えない気持ちになった。
遠くから見守っている娘が、顔も知らない男と付き合い始めたのを聞いたような感覚だ。
さらなる変化として、朱里の母親が再婚した。
母子家庭だった二人の生活が安定するのは歓迎だが、継父には連れ子がいて、兄と妹は朱里と年齢が近いと聞いた。
(絶対なんかあるだろ……)
その状況を想像しただけで、俺は頭を抱えてしまった。
中村さんも同じ事を考えたようで、今まで以上に朱里の相談に乗ると言っていた。
いっぽうその頃、俺は篠宮ホールディングスに入社していた。
篠宮家と会社から逃れられないと諦めた俺は、他の新入社員と一緒に毎日を過ごすようになった。
せめて家に帰ったら安らげるように、三田の少しいいマンションを買った。
会社に勤めるに当たって、俺は速水尊と名乗る事になる。
怜香いわく『風磨が跡継ぎになるのは当たり前。でも浮気相手の息子が篠宮の姓を名乗り、同じ会社にいるのは耐えられないわ』との事だ。
親父は怜香の意見を受け入れ、俺はこの会社で働くならどんな立場でも同じだと思い、諾々と受け入れた。
だがいい事もあり、会社に入ってすぐ出会いがあった。
同じ班に配属されたのは、宮本凜という名前の、サッパリとした性格の女性だ。
『速水くんは今日もかったるそうな顔をしてるなぁ』
朝、始業前にぼんやりとスマホを見ていると、宮本にバシッと肩を叩かれた。
『いてーよ、馬鹿力』
『鍛え方が足りないんじゃない?』
宮本はカラカラと笑い、隣の席に座る。
彼女はスラッとした長身で、トレードマークのように黒いストレートロングヘアを一本に縛っている。
スリムな体型で脚が長く、パンツスーツがとてもよく似合っていた。
それまでの俺は何回も女性に告白され、本気ではない付き合い方をしては、理由もなく別れていた。
だから女性を見ると、あまり関わりたくない、面倒だという気持ちが先立つ。
なのに宮本と話していると、とても心地いいし楽だ。
色恋など考えずポンポン言い合い、宮本も俺を男として見ず、ただの同僚として付き合ってくれる。だからこそ宮本とはこのままの関係でいたいと願った。
なのに意識するほど、彼女の女性らしさに気づいてしまう。
一本縛りにした首に掛かる柔らかそうな後れ毛に、白く細いうなじ。
どれだけ威勢が良くても、側にいると自分より背が低く華奢な体型なのを思い知る。
他の男性社員は『宮本は美人だけど女として見られないわ』と笑い交じりに言い、俺はその言葉を聞いて内心で安堵していた。
俺たちは新人コンビとして、先輩の力を借りながら様々な案件に取り組んでいった。
意気投合し、何をするにも一緒なので、当たり前に一緒に昼飯を食い、仕事帰りに飲んだ。
だが宮本は酒を飲んで酔っ払った時は正体不明になり、吐くわ絡むわで大変だ。
何度も一緒に飲むうちに、俺は宮本を家まで送るようになっていた。
その日も仕事帰りに焼き肉を食い、シメににんにくがたっぷり入ったラーメンを食べたあと、酔い潰れた宮本を送った。
『……おい、宮本。起きろ』
宮本の部屋の前で、俺はペチペチと彼女の頬を叩く。
『んー……』
いい気分になってウトウトしている宮本は、グフッとげっぷをする。
『お前、くせぇよ。シメだからってにんにく足すなよ』
『速水くんだって、にんにく足したくせに……』
宮本は真っ赤な顔で言い返したあと、バッグからキーケースを取りだす。
『速水くん、ちょっと寄ってきなよ。飲み直そ』
『まだ飲むつもりかよ……』
『同期のよしみじゃーん』
家に上がって電気をつけた宮本は、ジャケットを脱いでハンガーに掛け、半袖シャツ姿になると冷蔵庫からビールの缶を出し、俺に向かって放った。
『おっと』
缶ビールを受け取った俺は、鞄を適当に置いて床に座った。
『あっつい』
手でパタパタと顔を仰いだ宮本は、エアコンの電源を入れる。
そのあとも仕事の話やくだらない話をしながら、俺たちはどんどんビールの缶を空けていった。
『もう遅いから泊まってきなよ。雑魚寝になるけど、シャワーは使わせてあげる』
サラリと言われ、俺は宮本を睨む。
床の上に胡座をかいた彼女は、俺を見て含んだ笑みを浮かべた。
『……いいのか?』
俺は熱を孕んだ目で尋ねる。
酔っぱらってるし、二人ともにんにく臭いけど、お互い酒には強い。
あいつが〝分かっていて〟言っているのは理解した。
『……いいよ』
宮本はいつになく女っぽい表情になり、自らシャツのボタンに手を掛けた。