想いと共に花と散る
第六章
涙は枯れて
真夜中に帰ってきたその人は、血だらけの刀を握ったまま部屋の障子を開けた。
結い紐が切れたのか、肩の上に髪が乗っていようと顔に張り付いていようと払わない。
そんなことにすら意識が回っていないようだった。
「……ただいま」
「総司君……っ!」
布団の上から立ち上がって彼の元に駆け寄れば、血に塗れた刀を放って抱き付いてくる。
羽織に付着した血が雪の頬を汚そうが、沖田は何も言わずにただ強く抱き締めた。
「ど、どうしたの? 怪我してる、手当しないと」
「……ああ」
「だから、は、離して……手当できない」
「……ごめん」
ゆっくりと紡がれる言葉の一つ一つが弱々しく、このまま離れてしまうと崩れてしまいそうだった。
雪は、裂けた羽織の奥から覗く沖田の肩へと視線を移す。
すでに血は固まっているようだが、刀傷が深く刻まれていた。
「もう少しだけ、こうさせて……」
そう言うや否や、雪の身体に沖田の全体重が乗った。
流石に成人男性の身体を一人では支えきれない。耐えかねた雪は、その場に崩れるように座り込んだ。
「もしかして、苦しいの? それとも怪我が痛む?」
背中に手を回して問い掛ければ、沖田は力なく首を振った。
そして、雪の首元に埋めていた顔を上げると、羽織の裾に手を入れて中を弄る。
ようやく離れた沖田は、雪に向き直って手にする“それ”を差し出した。
「……え?」
わけが分からなかった。
何故、“それ”を沖田が持っているのか。“それ”の持ち主の姿が何処にもないのか。
「言伝を預かってる」
目の前の景色が霞んだかと思えば、ぐらりと歪んだ。それが溢れる涙によるものであると気づくのは、次の言葉を聞いた時だ。
「平助は、君の兄になれた?」
「……ぁ……うぁ……」
血塗れの藤堂のバンダナを握り締めて、雪はその場に蹲った。
バンダナがここにある。雪の手の中にある。それだけで、終わってしまったのだと知るには十分すぎた。
「平助、言ってたよ」
「うぅ……うぐっ………な、んて?」
「“幸せになれ”」
目から溢れ出した涙が顎先から滴り落ち、握ったバンダナの上に落ちる。
もう、声を出すことすらできなかった。
沖田がもう一度抱き締めてきても、鼻を突く血の匂いがしても、雪は嗚咽を漏らした。
「や、嫌だ………なんで……なんで!」
結い紐が切れたのか、肩の上に髪が乗っていようと顔に張り付いていようと払わない。
そんなことにすら意識が回っていないようだった。
「……ただいま」
「総司君……っ!」
布団の上から立ち上がって彼の元に駆け寄れば、血に塗れた刀を放って抱き付いてくる。
羽織に付着した血が雪の頬を汚そうが、沖田は何も言わずにただ強く抱き締めた。
「ど、どうしたの? 怪我してる、手当しないと」
「……ああ」
「だから、は、離して……手当できない」
「……ごめん」
ゆっくりと紡がれる言葉の一つ一つが弱々しく、このまま離れてしまうと崩れてしまいそうだった。
雪は、裂けた羽織の奥から覗く沖田の肩へと視線を移す。
すでに血は固まっているようだが、刀傷が深く刻まれていた。
「もう少しだけ、こうさせて……」
そう言うや否や、雪の身体に沖田の全体重が乗った。
流石に成人男性の身体を一人では支えきれない。耐えかねた雪は、その場に崩れるように座り込んだ。
「もしかして、苦しいの? それとも怪我が痛む?」
背中に手を回して問い掛ければ、沖田は力なく首を振った。
そして、雪の首元に埋めていた顔を上げると、羽織の裾に手を入れて中を弄る。
ようやく離れた沖田は、雪に向き直って手にする“それ”を差し出した。
「……え?」
わけが分からなかった。
何故、“それ”を沖田が持っているのか。“それ”の持ち主の姿が何処にもないのか。
「言伝を預かってる」
目の前の景色が霞んだかと思えば、ぐらりと歪んだ。それが溢れる涙によるものであると気づくのは、次の言葉を聞いた時だ。
「平助は、君の兄になれた?」
「……ぁ……うぁ……」
血塗れの藤堂のバンダナを握り締めて、雪はその場に蹲った。
バンダナがここにある。雪の手の中にある。それだけで、終わってしまったのだと知るには十分すぎた。
「平助、言ってたよ」
「うぅ……うぐっ………な、んて?」
「“幸せになれ”」
目から溢れ出した涙が顎先から滴り落ち、握ったバンダナの上に落ちる。
もう、声を出すことすらできなかった。
沖田がもう一度抱き締めてきても、鼻を突く血の匂いがしても、雪は嗚咽を漏らした。
「や、嫌だ………なんで……なんで!」