きみのたったひとつの光にになれますように

暗闇の中の光

目が覚めると、そこは真っ白な天井だった。太陽はすでに昇っている。今日は死ねるかな、でも私、男の子助けたんだっけ。ゆっくりと体を起こす。ソファの上で寝たから、体のあちこちが痛んだ。今日もいつものように、鳥が一日の始まりの合図をしている。時刻は午前九時、昨夜は十九時に寝てしまったから、十四時間ぐらい寝てしまったことになる。そういえば、今日も学校があるのなら、大遅刻している事になるのではと思ったが、そういえば昨日は終業式だったから、おそらく今日から冬休みだろう。ソファから立ち上がると、頭がズキズキと痛んだ。おそらく、昨日から何も食べてないからだ。でも、不思議とお腹は空いていない。真冬の冷たいフローリングを踏みしめながら、寝室に行き、ゆっくりとドアを開ける。
「渚くん、起きてますか、おはようございます」
そう言うと、渚くんはゆっくりとこちらを見た。その表情はあまりにも痛々しかった。泣いていたのだろうか。瞼が赤く腫れている。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「体、大丈夫ですか。渚くんは今、免疫力が弱っているかもしれません。今日もよければここで休んでいってください。私は冬休み中なので、ずっと家にいますし、一人暮らしなので親もいませんので安心してください」
そう言うと、渚くんは驚いたように目を見開いた。
「....いいんですか、迷惑じゃありませんか」
「そんなことはないです、私はあなたの体が心配なので、回復するまでいくらでもここに居てもらって構いません」
そう言うと、渚くんはどこか寂し気な目で私を見た。
「.....なぜ、僕なんかのことを...知ろうともせずに助けてくださるのですか。僕のこと、何も知らなくて不審に思うだろうのに...、」
それは、自分でも不思議に思うが、多分今の私はこの子を助けたいという意思に溢れているからこそ、無意識に手を差し伸べているのかもしれない。
「うーん...そう言われると難しいですが、私が渚くんのことを助けたいと思っているから私が勝手にそうしているだけなのですよ」
そう言うと、渚くんの瞳が少し潤んだような気がした。

10時頃になると、私は家の近くのスーパーに行き、少し遅めの朝ご飯を買った。昨日までは、ご飯を食べないままでいたら餓死できるかもという期待を胸に食事をとっていなかったのに、渚くんのご飯を買うためという理由で自分のご飯もついでに買ってしまった。家に帰ると、渚くんはソファに座って窓の外を見つめていた。「渚くん、ご飯を買ってきました。うどんは食べれますか」
「ありがとうございます。うどん食べれます」
「分かりました。なら、今作りますね」
そう言って、うどんの出汁パックをお鍋に入れてそこに冷凍うどんを入れて、簡単な出汁うどんを作った。
「うどん、作りました。普段料理あまりしないので、口に合うか分かりませんが、良かったら食べてみてください。」
「うわぁ...おいしそうです。ありがたくいただきます。」
そう言うと、渚くんは手を合わせてからうどんを啜り始めた。
「わぁ...おいしい..です、美羽さんこれめっちゃおいしいです!」
そう言う渚くんの瞳はキラキラしていて、初めて彼の笑顔を見た気がする。
「喜んでもらえて何よりです。おかわり、ありますよ」
そういうと、渚くんはあっという間に1杯目のうどんを食べ尽くしてしまい、私は渚くんに2杯目のうどんを作るついでに、自分のうどんも作ってしまった。渚くんのうどんと、自分のうどんを持ってテーブルに2つのうどんをおいた。
「2杯目ですよ、いっぱい食べてください」
「ありがとうございます、久しぶりにこんなに美味しいものを食べました」
『久しぶり』という言葉が心のどこかに引っかかったが、今は考えることをやめた。そして私も、うどんを啜った。
「...確かに美味しいね、また作りますね」
私がそう言ったら、渚くんは少し驚いたような表情を見せた。
「....どうしましたか、私、なんか変なことでも言っちゃったかな...」私がそう言うと、渚くんは少し考え込むような素振りを見せた後、口を開いた。
「そういえば、美羽さんっていつも僕に敬語で話しかけてくるなって....敬語だとなんだか気を遣われているような気がして、ちょっと申し訳ないなって...」
確かに、私たちは恐らく同い年なのに、ずっと敬語で話しているのもおかしいのかもしれない。タメ口で話したら、もっと渚くんと仲良くなれるのかもしれない。そんなことを考えている自分にびっくりしたが、私は少し考えた後、口を開いた。
「確かに同い年なのでちょっとちょっと違和感はありますね、私は全然タメ口で大丈夫ですが、渚くんはどうですか」
「僕は全然タメ口で大丈夫です....むしろ美羽さんともっと仲良くなれるような気がして嬉しいです」
そう言うと、渚くんは少し微笑んだ。少し沈黙が続くと、私はその沈黙を破るように言った。
「...じゃあ、試しにタメ口で話してみて」
「.....えぇ!?」
そう言って渚くんは、少し動揺したように耳を赤くした。
「...こんな..僕に優しくしてくれて...ありが..とう...」
少しぎこちない感じがなんだか可愛くて、少し吹き出してしまった。
「渚くん、そんなに気を遣わなくていいよ...徐々に慣れていきましょう」
「...美羽さんだってまだちょっと敬語が残ってるじゃないですか」
「え、いや..確かに...そういう渚くんだって...」
私たちは真っ直ぐに見つめ合うと、声をあげて笑った。『楽しい』と感じたのは久しぶりで、昨日までの自分が嘘のように幸せを感じてしまった。お互いに笑いあっていると、渚くんは口を開いた。
「そういえば、美羽さんが笑ってるの初めて見た...美羽さんは笑ってる顔の方がいいよ」
そう言われてドキッとした。そんなことを言われるのは初めてだったから。彼の言葉に胸が暖かくなった。
「...ありがとう、渚くんの方こそ笑ってる顔の方がいいよ」
私がそう言うと、渚くんはどこか寂し気に微笑んだ。瞳の奥はあまりにも悲しそうで、少し胸がキュッとなった。私が少し黙っていると、渚くんが話しかけてきた。
「そういえば僕、美羽さんのこと何も知らないな...良ければ美羽さんのこと教えてくれませんか」
私の事を知りたいという人なんて今までいなかったから、びっくりした。少し『嬉しい』と感じてしまったのは気のせいだろうか。
「全然いいよ、私も渚くんのこと聞いてもいい」
すると渚くんは少し考え込んだ後、「いいよ」と言ってくれた。お互いに質問を考え合っていると、先に口を開いたのは渚くんだった。
「.....じゃあ、誕生日は」
「えーと、確か...3月17日、...そう言う渚くんは」
「んー......多分、7月25日」
「7月なんだね、渚くんぽい」
「誕生日が僕らしいってどういうことですか」
そう言って渚くんは笑った。次に質問をしたのは私の方だった。
「...じゃあ、好きなことは」
そう言うと、渚くんは長い間答えを考えた後、こう言った。
「好きなことは、ご飯を食べること...かな、」
そう言う渚くんの表情は、何かを思い出したかのように少し悲しそうな表情だった。でも、私は明るくこう答えた。
「それなら、私がこれからたくさん作ってあげるね」
そう言うと、渚くんはとびきりの笑顔を見せた。
それからしばらく、私たちはお互いのことを知っていった。『好きな季節は』とか、『好きな色は』とか、誰かと他愛のない話をして盛り上がったのは久しぶりだった。
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