なんか離婚&追放されることになったので、城の内外でやってみたかったこと全部やって散るわ

第1話

「離婚させていただく」

 厳重に人払いされた王城の塔の屋上で、冷たくささやくように、そう言われた。
 私セリーナの目の前には、夫である王太子オウル。そしてその隣には、例の聖女様が立っている。

「理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「呪いの疑いだ。失礼ながら、あなたはここに嫁ぐ際、あちらの国で一番の聖女という触れ込みであった。しかし実際はまともな神聖魔法を使っておらず、現状は僕の期待を大きく裏切っていると言わざるを得ない」

 オウルは冷静な口調で続けた。

「なぜだろうと考えていたが……。今やこの王国随一の聖女と言われるアルマに相談させていただいたところ、あなたには呪いがかかって魔性の身となっている可能性があるそうだ」

 アルマは神妙な顔をしていた。
 最近この国で頭角を現し、城に居つくようになっていた人物である。年齢は私と同じ二十二歳。神聖魔法も一定の水準で使え、容姿も悪くない。

 彼女によって、私は『呪いによる魔性の身となったせいで高いレベルの神聖魔法が使えない』ということにされてしまったようである。

「ただし、あなたは真面目すぎるほど真面目に僕に尽くしてくれた女性だ。短い間であったが、慎ましくも高い気品で僕の妻として立派な振る舞いをしてくれた。それは認めさせていただく。よってせめてもの情けとして、呪いの疑いについては公表を控えさせていただく。そして三日の猶予を与えさせていただく。その間で荷物をまとめていただきたい。城の者たちに白い目で見られぬよう、離婚および退去の発表もその後におこなわせていただく」

 させていただく、させていただく。
 その話し方にはもう慣れているため、「一生させていただいてろ」としか思わない。ただ、口調が淡々としすぎているのは気になった。
 まあ、最近この二人は一緒に過ごしていることが多かった。すでに私からは気持ちが離れているということなのだろう。

 呪いの件も、そもそもどうやって診断したのかと突っ込みたくなる。理由は後付けかなと思う。私を王太子妃から引きずり下ろす理由なら何でもよかったのではないだろうか。
 公表しないというのも、きっと私への配慮ではない。結婚相手が呪われていたというのは一家そのものの大きな恥となってしまうからだ。

「かしこまりました。これから準備をして、三日後にはこの国を出ていきます」

 そう返し、部屋に戻った私は――。

「ふふふふ」

 思わず、笑ってしまった。

「そうと決まれば……やるぞー!」

 自然と両拳が上がる。楽しみしかなかった。

 というか、三日の猶予って完全に“フリ”よね? と思った。
 三日間も時間をくれて、しかも追放を発表するのは追放後って。これってつまり……。

 ここで三日間、王太子妃の立場のまま好き放題してよいフリーパスを獲得ということよね!? そうとしか思えないよね?
 じゃあ、やるしかないじゃない。

 ショック? そんなものはない。
 政略結婚だし。妃としていい子ちゃんぶるのもストレスだったし。好きなことを好きなようにやって生きてみたかったし。追放は大歓迎。

 魔性? ええ、そうよ。たっぷりそれを見せつけて差し上げます。この城の内外で、密かにやってみたかったことが山積されてましたもの。
 荷物などはもはやどうでもよい。全部ここに置いていっても構わないし。

 よーし。
 まずは落ち着いて、やりたいことをリストアップして、それから優先度を決めて……
 ……なんてことを考えているのは時間の無駄。
 思いついた順でどんどん片付けていく方針がよいと思う。

 まずは……うん、二つ思い浮かんだ。
 城の裏門に行こう。



 いたいた。
 裏門の前に立っている男性兵士さん。いつもの人が二人。

「王太子妃殿下! お出かけでしょうか? 最近城下町には魔物の侵入もなく平和とはいえ……お一人ではさすがに危険かと」
「出かけないので安心して」
「そうですか。ではなぜこのようなところに」

 まずは、今話しかけてきた兵士さんからね。
 兜を外しているところを見たことがあるけど、黒髪ショートヘアで、夫ほどではないけど若くてイケメン。

 この城だけかもしれないけど、門番の兵士さんは、かなり大げさで重厚な鎧に身を包んでいる。
 ただ、この鎧……肩当てと篭手の間から二の腕の素肌が見えていて、どうしても上半身裸の上に直接鎧を着けているように見えてしまう。
 だから、この鎧を無理やり剥がして確認してみたいって、前から思っていたのよね。

 え? ずいぶんと「やってみたかったこと」がくだらない?
 だって気になるんだから仕方ないじゃない。なんだかエロいし。本当に裸なのか、何か着ているのか。見てみたくてウズウズ。

 え? そんなの兵士さんに聞けばいいだけ?
 それだとダメなの。“剥がして”確認してみたいの。

「少しお願いがあるの」
「はい。私にできることであれば何なりと」
「そのまま動かないでじっとしていてね」
「はい? わっ!」

 鎧の胸のパーツの外側に、両手をかけて、と。
 片足を上げて兵士さんの腹部に当ててロックして、引っ張る!

「あっ、えっ!?」
「……っ! 外れない」
「王太子妃殿下、何を――」
「鎧を剥がすの!」
「えっ? ええ!? あっ、ちょっと! うわっ」

 兵士さんがバランスを崩して石畳の上で倒れたので、馬乗りになって体重をかけて。
 思い切り引っ張る……けど、やはり剥がれない。

「うーん。頑丈! こうなったら……」

 魔法で力を増すしかない。
 そう。実は、私は魔法が大の得意。魔法マニア。神聖魔法だけでなくこの世のあらゆる分野の魔法に通じている。今はもう失われたという古典魔法だって使える。ここに嫁いできてから披露してなかったのは、このご時世目立つとロクなことがなさそうなのと、やっぱり王太子妃って慎ましくお(しと)やかにしておいたほうがいいのかな? と思っていたから。こっそり使うことはあったけれども、見せびらかしたことは一度もなかった。この国では誰も知らない秘密。
 まあ、離婚と追放が決まっている今となっては、もうどうでもいいのですけれどもね。

 さて。
 魔力をこめて、両手の力を増幅、と。

 ――プチン。
 鎧の紐が千切れる音がした。

「よし。剥がれたっ」
「あっ、王太子妃殿下、何を――」

 胸当てだけでなく、肩当てや他のパーツもどんどん剥がし、上半身を覆っていた金属をすべて剥がした。

「ふう。普通に着ていたのね」

 私の中で裸疑惑があった鎧の中身。
 実際はそうではなく、袖の短い服を着ていたようだ。

「は、はい……鎧下を着ていますが……」
「ふーん。布の部分が外から見えないから裸に錯覚していただけだったのね。狙ってやっていたならたいしたものだわ。この下はまだ何か着ているの?」
「いや、それは……あっ、いけませ――」

 さすがに、というよりも当たり前の反応として、馬乗りにされたまま手を使って抵抗してきた。
 相手が私なのでほぼ力は入っていないが、邪魔なことには変わりない。

「ちょっと! そこのあなた!」
「は、はい?」
「この人の両腕を押さえておいて」
「えっ!?」
「早く!」
「あっ、はい」

 どうすればよいのかわからず、突っ立っていたもう一人の体格のよい兵士さん。彼に声をかけ、押さえてもらった。

 よし、鎧下を……て、意外に分厚いのね。
 引っ張って、一気に――。

「あっ、ああっ――」

 ビリビリと鎧下が斜めに裂け、胸部が露となった。
 押さえられている両腕に力が入っているのか、よく鍛えられている大胸筋が波打っている。濃い毛は生えていないようだ。

「なるほどね。さすがにこの下は何も着ていない、と」
「お、王太子妃殿下……こ、これはいったい……」
「うん。お疲れさま。あなたはもういいよ。次はそっちの人に頼むから」

 私は馬乗りをやめると、腕を押さえてくれていた体格のよい兵士さんを立たせた。
 この人も兜を外しているところを見たことがある。黒髪短髪で、今の兵士さんほどではないけれども顔は整っていたと思う。

「見かけるたびに思ってたのよ。あなた妙に体格よすぎというか、鍛えすぎじゃないの? 特に胸とか。鎧を着ていてもめちゃくちゃ巨乳そうに見えるんだけど」
「え? あ、はい。確かに褒められることは多いですが……」
「私とどっちが大きいのか、確かめてみたかったのよね」

 そう。これがやりたかったことの二つ目。このやたらマッチョな兵士さんと私、どっちの胸のほうが大きいのか確認すること。
 え? バカバカしい?
 でも一度確かめてみたかったんだから仕方ないじゃない。

「は? あっ――」

 慌てたせいか、この兵士さんも倒れたため、また馬乗りになった。魔法で私の質量を増したので、跳ねのけられることはないはず。
 またがっているだけでも、かなりの体の厚みを感じる。
 胸当てに手をかけ、引き剥がした。
 今度は最初から魔力を込めたので、サクサクと上半身の鎧が剥がれていく。二回目なので要領よし。

「鎧下も邪魔ね。あとで弁償するから勘弁して」
「あっ、あっ!?」

 ビリビリっと破れる。
 ものすごいものが出てきた、と思った。今の兵士さんよりも明らかに数段大きい。
 ということで、両手で包んで大きさを確認。

「あら、()っぱいって柔らかいんだ。筋肉だから力が入っていなくても硬いのかと思っていたわ」
「ちょ、ちょっと!」
「でもなんだか形が私と全然違うから、大きさの比較が難しいね。でも体積自体は私のほうがありそうかな? うん。その結論でよさそう」

 私は立ち上がって、一つ大きな伸びをした。

「うーん! スッキリ。二人ともありがとう! 今のは他言無用でよろしくね。王太子妃命令です」

 上半身がはだけたまま呆然としている二人に礼を言うと、いったん城の中に入った。

 次は……うん、夫の寝室に行こう。



「これは王太子妃殿下。オウル殿下ならこの寝室にはいらっしゃいませんが」
「いないから来たの!」
「は?」
「夫の許可は得てあります。入るね」

 嘘八百で見張りの兵士さんをかわすと、私は夫である王太子オウルの寝室の中に入った。

 噂で聞いていたためだ。
 国内外からもらった恋文を、机の一番下の引き出しの一番奥に仕舞ってあると。
 しかも幼年時代からのものを全部溜め込んであるとかないとか。

 顔がよいので小さな頃からモテモテだったとも聞いていたけれど、そんな小さい頃にもらう恋文って何? と思ってしまうのは人間としては当然。
 片っ端から読んでみたかったのよね。たぶん面白いものもあると思うし。

 え? 最低?
 だって気になるんだもの。仕方ないじゃない。

 ええと、ここね。あら、鍵が閉まっている。
 そんなものは私の鍵開け魔法でガチャリと……よし、開いた。

 ……。
 何も入っていないじゃない!

 いや? この引き出し、少し浅いように見える。これは怪しい。
 そう思って底板を軽く叩いてみると、音が不自然だった。私は確信した。これは二重底だ。
 私では力が足りないので、指先に魔力を込めて、底板を無理やり外す。

「――!」

 肝心な恋文は全然なし。
 代わりに……底板の下から、女の子の裸が描かれているエッチな絵がいっぱい出てきた。

 うーん。これはひどい。
 恋文まみれのエピソードは、モテ自慢をしたいがためにオウルが自分で創作して流したのでは?

 しかもこのエッチな絵、描かれている女性が何となく私に似ている気がした。
 結婚してから一度も私の寝室に来たことがなかったのは、こんな絵を溜め込んで眺めることで満足していたからだろうか?
 そうなら万死に値するわ。

 この絵は全部机の上に出しておいて……というのは生ぬるいから、全部壁に貼っておこう。外からは直接見えないここの壁がいいかな。『オウルの宝物♡』と書き添えて、と。
 よし。

「あっ、今は王太子妃殿下が中におられます」

 突然、部屋の外から兵士さんの声がした。
 もう用が済んだ私は、部屋の外に出た。
 そこには、(ほうき)を持っていた若い女性がいた。召使服を着ている。どうやら、掃除の時間であったようだ。

「いつもりがとう。これからも夫のためにこの部屋を綺麗にしてさしあげて」

 私はそう言うと、すぐにその場を後にした。
 少し遅れて「キャー!」という召使の悲鳴が部屋の中から聞こえてきた。

 さて。次に行こう。
 次は……城の離れにあるお風呂に行こうかな。

 一度男湯に入ってみたかったのよね。
 兵士さんとか執事さんとかって、前とか隠しているのかしら? いきなり私が現れたらどんな反応するのかしら?
 楽しみだわ。
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