一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます
ミーティング
夜二十二時の研究室は、澱んだ静寂に包まれていた。
無機質に並ぶ実験デスクと試薬棚。
部屋の隅で、ディープフリーザーのコンプレッサーだけが、低い唸り声を上げ続けている。
その一角で、私──高橋 有希は、指導者である坂上 栄人先生にパソコンの画面を見せながら、身を縮めるようにして座っていた。
「……次に、SNP rs305xxx の解析結果です。
拡張型心筋症の患者二〇五名を対象に、本遺伝子変異と心機能の関連を調査しました」
スライドを切り替え、箱ひげ図と統計結果の表を映し出す。
私は祈るような気持ちで、一番下の数値を指し示した。
「変異陽性群では、陰性群に比べて左室駆出率が低下しています。p 値は 0.047……。ギリギリですが、有意差ありです」
その瞬間、坂上先生の指先が、机の上のボールペンをコツ、と鳴らした。
乾いた音が、私の心臓を跳ねさせる。
「……村瀬先生、どう思います?」
坂上先生はスライドを見たまま、隣に控えるポスドクに話を振った。
村瀬さんは腕を組んで画面を睨み、低く呟く。
「いや、nが少なすぎますね。プロットを見ると、極端に数値が低い数例の外れ値に、平均値が引っ張られているだけだ。ノンパラメトリック検定なら有意差は消えますよ、これ」
坂上先生が「だよね」と短く鼻を鳴らし、ゆっくりと私へ視線を向けた。
「……聞いた? 考察は?」
空気が一瞬で凍りついた。
「あ……えっと、その、関連がある可能性が……」
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