幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない
第24章 『麗華の決定打(偽りの証拠)』
その日の午後、
社内で小さなざわつきが起こった。
理由は――
隼人が、麗華に呼び出された
という噂。
由奈は離れた席からその話を耳にし、
胸がそっと痛む。
(また……話しているのかな)
隼人と麗華が並んでエレベーターへ乗る瞬間を見てしまい、
心臓が重く沈む。
麗華は美しく、堂々としていて、
隼人の“昔からの親友”。
(私なんて……隼人さんに比べたら、
頼りなくて、弱くて……)
胸の奥がきゅっと縮む。
(……隼人さんに、迷惑かけてばかり)
そんな自責が、
由奈の心をゆっくり締め上げていた。
一方その頃。
麗華は隼人を応接室に連れ込み、
ドアが閉まると同時に優雅に微笑んだ。
「隼人、顔色が悪いわね?」
「……別に」
隼人は短く返す。
由奈のことしか頭にないため、
麗華の微笑みは冷たい壁のように感じた。
麗華は椅子に座り、
隼人に資料を差し出した。
「これ、見ておいた方がいいわ。
あなたの奥さんの……話よ」
隼人の眉がぴくりと動く。
資料を開くと、
そこには――
由奈と祐真がベンチで話している写真。
しかも角度によっては、
“距離が非常に近く見える”。
(……嘘だろ)
隼人の胸がざわつく。
麗華はため息をつき、
隼人の反応をじっと観察している。
「勘違いしてほしくないの。
私は、由奈さんの悪口を言いたいわけじゃない」
嘘だ。
麗華の瞳は、
あきらかに“愉悦”を宿していた。
「ただ……見たままを伝えたいだけ。
偶然、見かけたのよ。
由奈さん……すごく親しそうに話していたわ」
嘘だ。
隼人は祐真を見たときの由奈の怯えを知っている。
それでも――
写真は残酷だ。
“真実ではなく、形だけを切り取る”。
麗華は静かにたたみかける。
「ねえ隼人。
あなた……最近つらそうだから。
支えになりたいだけ」
その言葉に、
隼人の指がわずかに震えた。
(なぜ……由奈は俺に言ってくれない?)
(なぜ、祐真の側に……?)
頭がうまく働かない。
由奈が怯えていた理由も、
泣き出しそうだった理由も、
全部祐真だと分かっている。
でも。
写真は冷酷に“由奈は隼人に言っていないことがある”と示していた。
麗華はさらに甘い声で囁いた。
「……隼人、
あなたは優しすぎるの。
だから、由奈さんはあなたを甘く見てしまうのかも」
隼人の拳が、
机の下できつく握られた。
(甘く見られているわけじゃない……
でも……由奈は俺に何も言わない……)
その隙を、麗華は逃さない。
彼女はそっと隼人の手に自分の指先をかけた。
「強がらなくていいのよ。
……あなたのこと、ちゃんと見ているのは私だけだから」
バチンッ。
隼人は即座に手を払った。
「……触れるな」
麗華は少し驚いた顔をしたが、
すぐに柔和な笑みへ戻った。
「ごめんなさい。
ただ……あなたの味方でいたいだけなの」
その“味方”という言葉が、
隼人の心をさらに重くした。
(……俺の“味方”は由奈だけだ)
そう思うほど、
胸に痛みが広がっていく。
応接室から出ると、
廊下の先で由奈が資料を持って通りかかった。
隼人の姿に気づき、
小さく会釈して通りすぎようとする。
(……避けられてる?)
隼人の胸がざわつく。
その後ろで麗華が、
にこやかに隼人に言う。
「また相談に乗るわ、隼人。
いつでも呼んでね?」
大きめの声だった。
わざと、
由奈に聞こえるように。
由奈の足が止まりかけたが、
すぐに歩き出した。
胸が締めつけられ、
呼吸が苦しくなる。
(……やっぱり。
隼人さんには私より麗華さんが……)
痛みが喉を塞ぐ。
一方、隼人はその一瞬の由奈の表情に気づいていた。
(……違うんだ、由奈)
でも言えない。
言えば泣かせてしまう。
泣かせたくない。
泣かれるのが怖い。
その弱さが、
隼人の言葉を奪う。
そして、その日の帰り道。
麗華は祐真にメッセージを送った。
――次はあなたの番よ。
――“あの二人”を完全に離すために。
祐真は画面を見て薄笑いを浮かべた。
「面白くなってきたな……」
夫婦の絆を揺るがす影が、
本格的に動き出した。
由奈も、隼人も、
まだ気づいていない。
今が、
最も壊れやすい瞬間であることを。
社内で小さなざわつきが起こった。
理由は――
隼人が、麗華に呼び出された
という噂。
由奈は離れた席からその話を耳にし、
胸がそっと痛む。
(また……話しているのかな)
隼人と麗華が並んでエレベーターへ乗る瞬間を見てしまい、
心臓が重く沈む。
麗華は美しく、堂々としていて、
隼人の“昔からの親友”。
(私なんて……隼人さんに比べたら、
頼りなくて、弱くて……)
胸の奥がきゅっと縮む。
(……隼人さんに、迷惑かけてばかり)
そんな自責が、
由奈の心をゆっくり締め上げていた。
一方その頃。
麗華は隼人を応接室に連れ込み、
ドアが閉まると同時に優雅に微笑んだ。
「隼人、顔色が悪いわね?」
「……別に」
隼人は短く返す。
由奈のことしか頭にないため、
麗華の微笑みは冷たい壁のように感じた。
麗華は椅子に座り、
隼人に資料を差し出した。
「これ、見ておいた方がいいわ。
あなたの奥さんの……話よ」
隼人の眉がぴくりと動く。
資料を開くと、
そこには――
由奈と祐真がベンチで話している写真。
しかも角度によっては、
“距離が非常に近く見える”。
(……嘘だろ)
隼人の胸がざわつく。
麗華はため息をつき、
隼人の反応をじっと観察している。
「勘違いしてほしくないの。
私は、由奈さんの悪口を言いたいわけじゃない」
嘘だ。
麗華の瞳は、
あきらかに“愉悦”を宿していた。
「ただ……見たままを伝えたいだけ。
偶然、見かけたのよ。
由奈さん……すごく親しそうに話していたわ」
嘘だ。
隼人は祐真を見たときの由奈の怯えを知っている。
それでも――
写真は残酷だ。
“真実ではなく、形だけを切り取る”。
麗華は静かにたたみかける。
「ねえ隼人。
あなた……最近つらそうだから。
支えになりたいだけ」
その言葉に、
隼人の指がわずかに震えた。
(なぜ……由奈は俺に言ってくれない?)
(なぜ、祐真の側に……?)
頭がうまく働かない。
由奈が怯えていた理由も、
泣き出しそうだった理由も、
全部祐真だと分かっている。
でも。
写真は冷酷に“由奈は隼人に言っていないことがある”と示していた。
麗華はさらに甘い声で囁いた。
「……隼人、
あなたは優しすぎるの。
だから、由奈さんはあなたを甘く見てしまうのかも」
隼人の拳が、
机の下できつく握られた。
(甘く見られているわけじゃない……
でも……由奈は俺に何も言わない……)
その隙を、麗華は逃さない。
彼女はそっと隼人の手に自分の指先をかけた。
「強がらなくていいのよ。
……あなたのこと、ちゃんと見ているのは私だけだから」
バチンッ。
隼人は即座に手を払った。
「……触れるな」
麗華は少し驚いた顔をしたが、
すぐに柔和な笑みへ戻った。
「ごめんなさい。
ただ……あなたの味方でいたいだけなの」
その“味方”という言葉が、
隼人の心をさらに重くした。
(……俺の“味方”は由奈だけだ)
そう思うほど、
胸に痛みが広がっていく。
応接室から出ると、
廊下の先で由奈が資料を持って通りかかった。
隼人の姿に気づき、
小さく会釈して通りすぎようとする。
(……避けられてる?)
隼人の胸がざわつく。
その後ろで麗華が、
にこやかに隼人に言う。
「また相談に乗るわ、隼人。
いつでも呼んでね?」
大きめの声だった。
わざと、
由奈に聞こえるように。
由奈の足が止まりかけたが、
すぐに歩き出した。
胸が締めつけられ、
呼吸が苦しくなる。
(……やっぱり。
隼人さんには私より麗華さんが……)
痛みが喉を塞ぐ。
一方、隼人はその一瞬の由奈の表情に気づいていた。
(……違うんだ、由奈)
でも言えない。
言えば泣かせてしまう。
泣かせたくない。
泣かれるのが怖い。
その弱さが、
隼人の言葉を奪う。
そして、その日の帰り道。
麗華は祐真にメッセージを送った。
――次はあなたの番よ。
――“あの二人”を完全に離すために。
祐真は画面を見て薄笑いを浮かべた。
「面白くなってきたな……」
夫婦の絆を揺るがす影が、
本格的に動き出した。
由奈も、隼人も、
まだ気づいていない。
今が、
最も壊れやすい瞬間であることを。